第24話 パーティはいつも、想定外
「今宵は道路完成パーティにご参加いただき、ありがとう存じます。最後まで皆さま、ご歓談頂きます様願い、開催の言葉とさせていただきます!」
スラムでの道路工事が完成した翌々日。
わたしはエッタと各ギルド代表者、そして水マフィアのガルダを神殿に呼び、ささやかながら記念パーティを開催することになった。
「ねーちゃん、俺も入れてくれて、ありがとー!」
「わーい」
そして、ガルダの行動を終始監視していたスラムの子ども達、リュカを中心とした数名が神殿まで入り込んできたので、追い出すのもかわいそうになり、パーティに誘った。
……汚いままじゃ問題あるから、パーティ前に神殿のお風呂に直送。服も養育院のものを借りたわ。司祭長さまが嬉しそうに気合入れてリュカくん達を洗っていたけど、子どもが大好きなんだよね。
「では、最初に今回の事業の協力者にして出資者であられますアリエッタ王女殿下から、お言葉を頂きたいと思います」
他所行きの純白金糸の巫女服のわたし。
真紅のローブデコルテを纏うエッタを紹介する。
「ご紹介に預かりました、わたくし。第二王女アリエッタ・ド・アルヴェリアと申します」
今日は、まともに王女を演じてくれているエッタ。
拡声魔道具を使い、お辞儀をしつつ優雅に挨拶をする。
しかし、先日の「姫さま大暴れ」などを直接見ている観客からは、失笑がこぼれてしまうのは、不敬なれどしょうがあるまい。
「……皆さま? どうかなされましたか?」
「エッタ。もう堅苦しいのは辞めた方がいいですわ。だって、セリーヌさんですら、後ろで笑うの我慢しているんですもの」
わたしは、皆を代表して、もう無礼講でいこうとエッタに声をかけた。
……リッカも、笑いをかみ殺しながら給仕しているわ。
「え? そうなの、セリーヌ!?」
「も、申し訳ございません、姫さま。姫さまが御立派になられたのは、実にお喜ばしいことなのですが、ここにいらっしゃる方々は既に姫さまの暴走をご覧になられています。なので、無理に地を隠す必要も無いと思われます。第一、ここにお集りの方。最初はどうあれ、今は同じ仕事を完了させた仲間なのですから」
「良い事をいいますね、セリーヌさん。ね、エッタ。今日は無礼講でいこう」
普段であればエッタの所作には、とてもうるさいセリーヌ。
しかし、今日は喜ばしい場かつ、既に正体がバレているエッタが無理に『王女の仮面』を被る必要もなく、楽しめる場ということを示してくれたのだろう。
……エッタ、王様や貴族議会の方々に対し、資金工作でずいぶんとがんばってくれたらしいの。その慰安も兼ねての発言だよね。
「そうだよ、姫ねーちゃん。俺たち、スラムの住人。全員が姫ねーちゃんと聖女ねーちゃんに感謝しているんだ。王国や神殿は、俺たちを見捨てていないんだって」
「こら、リュカ! 不敬な事を言うんじゃない! あ、すいません、王女殿下。ですが、俺たちスラムの者が、殿下や嬢ちゃんたちに感謝しているのは事実です。ありがとうございました」
リュカやガルダが、スラム住民の立場から発言をする。
少々不敬ながらも好意にあふれる様子に、エッタは吹き出した。
「ぷ! もういいですわ。貴方がたの前で仮面をかぶっていてもしょうがありませんですの。これが、わたくしですものね。さて、わたくし。アリエッタは王女として王都を、王国を。ひいては世界を幸せと笑顔で満たしたいと思っております。ぜひ、皆さまにはご協力をお願い致します」
作り物ではない、本当の笑顔でエッタは周囲に協力を願い、そして深く頭を下げた。
「おい、皆の衆。王女殿下に頭を下げさせたんだ。俺たちギルドは、この嬢ちゃんたちの夢をかなえようじゃないか!」
「おう! 嬢ちゃんたちは、面白いもんをいきなり提案してくるからな」
「変な焼き物作らされたと思ったら、繋いで配管にするなんて、自分たちだけじゃ思いつきません」
各ギルド長たちも皆、好意的な発言をしてくれるのには感謝だ。
「ありがとう存じます、ルナールさま。そして他の方々。わたし、フォンティーアは皆さまの幸せと富をお約束いたしますの」
ここぞとばかりに声を上げるルナール。
わたしも、彼らには損をさせないと約束した。
……残念だけど、人は好意だけじゃ動かないからね。これ、エッタに教えてもらったから分かる。前世で失敗したの、好意に甘えすぎたのもあるんだよね。
わたしの脳裏には、前世での失敗が浮かぶ。
自分の意見ばかり押し通し、嫌われるのが嫌だからと泣いて誤魔化す。
そんな失敗から自分を変えたいと大学時代からNPO参加し、人の笑顔が好きになった。
気が付けば祭り上げられて、宇宙飛行士にもなっていた。
……流されやすいのもあったのかも。今、聖女やっているのも、流された面はあるよね。気をつけなきゃ。
その後、オジサンたちは酒を楽しみ、わたしとエッタ。
そしてリュカらスラムの子供たちは、甘いお菓子を堪能した。
「甘ぇ! こんなの食べた事ねぇ! ねーちゃん、お前らはいつもこんな贅沢なもん、食べてるのか!?」
「わたし、普段は質素にしていますの。だって、聖女自ら贅沢はできないですもの。エッタは王女の立場だから、結構いい食事をなさっていると思いますが?」
「そりゃ、そうですの。王族ともなれば他の貴族の手前、上位者であるのを見せるために食事の質も最高でなくてはなりませんから。でも、わたくしは、こうやって和気あいあいと食事をする方が大好きですの! リュカくん、そして他の子らも。わたくしは、誰もがこんな食事を家族一緒に食べられる世界を目指しますわ」
普段よりも表情が明るいエッタ。
王族内でも孤独だと寂しそうに呟いていたのは、前世記憶で家族の在り方を知っていたからか。
「わたしもエッタと同じ願いですわ。あ、リッカお姉ちゃん。それにセリーヌさんも、今日は無礼講。一緒に食べましょう。神殿の奥まで暗殺者なんて来ないですし」
「あら? そうかしら、ティアちゃん? 安心と無防備は、また別よ? とはいえ、今日はわたくしも一緒にいますから安心してね」
と、安心しきったわたしの背後から突然現れ、頭をなでなでしつつも、怖い事をいう司祭長さま。
実に心臓に悪いのだが、「深紅の戦巫女」が大丈夫というのなら、本当に安心だ。
「司祭長のおばちゃん! また遊んでくれる?」
「ええ、いいですわよ。いつでも神殿に遊びに来てね。そうそう、一緒に勉強も良いわね」
司祭長の周囲に子どもたちが一気に集まる。
リュカは、恐れ多くも「おばちゃん」というのだが、司祭長は一切気にする様子は見せない。
慈母の表情を崩さず、彼らを教育まで誘う様子。
……もし、わたしが『おばちゃん』なんて言ったら……。
「ティアちゃん。貴女はわたくしの事をどう呼ぶのか。今更よね? 王女殿下は……、もちろんお分かりですよね?」
「ひゃい!」
「はいですぅ」
わたしにつられてエッタも一緒に飛びあがりそうになる。
思考が顔に出やすい二人、共に司祭長さまには勝てそうもない。
「嬢ちゃん。俺にも甘いもんくれないか? あっちの酔っ払い共に絡まれてたまらんし、俺は酒は得意じゃねぇ」
そんな時、ガルダがわたし達の処にやってきた。
彼の視線の先を見ると、「賢い酒樽」鍛冶ギルド長のドワーフが工事ギルド長と酒のみの一騎打ち。
他の大人たち、港湾ギルド長も含めて全員撃沈していた。
「うふふ。良いですよ、ガルダさん。貴方には、今後ともお世話になりますし」
わたしは、最高の笑みで元水マフィアを迎えた。




