第22話 発想はいつも想定外!
「水マフィアさんの反応はどうだったかしら、ティア?」
「マフィアだなんて……。ガルダさんってお話が通じましたから、見た目ほど怖い方では無かったですよ、エッタ」
スラムの顔役ガルダとの面会後、わたしは報告がてら王女殿下の寝室でパジャマパーティに参加している。
「フォンティーアさま。あの方、とても怖かったですよ。いつ、背後に立っていた男たちが剣を抜くか分かりませんでしたから」
「ええ、セリーヌさま。ワタシも、ティアちゃんをどうやって守ろうかと気が気ではありませんでした」
「そーんなに怖かったですか、二人とも? 甘いもの好きなオジサンでしたよ? わたしの提案に食いついてきましたし」
一緒にガルダと面会したセリーヌもリッカも、彼を酷く怖がっていたのだが、わたしにとっては「ただ」のオジサン。
筋を通せば、ちゃんと話が通じるだけNPO時代に問答無用で襲い掛かってきた人たちよりは随分まともだ。
……前世で言う処の経済ヤクザって感じかしら?
「そりゃ、甘い物好きな人に悪人は居ないと思うけど。それでも警戒をしないのは流石に別問題よ、ティア?」
「姫さま。また、訳の分からない事をおっしゃられましても困ります。善人か悪人かは、食べものの好みで決まりませんよ?」
「ええ、セリーヌさん。いくら、わたしでも人の良さと甘い物は関係ないと思いますの、エッタ。科学的な根拠は全くありません。確かにガルダさんは、話が通じましたけど」
ドヤ顔気味に、甘党派に悪人は居ないと言い切るエッタ。
歯磨き後なのに、ベッド横のサイドテーブルから砂糖菓子をつまんで食べるのは正直どうかと思う。
……寝る前に食べるのは、太っちゃうぞ。
「姫さま。後で歯磨きはしてくださいませ。虫歯になってお困りになるのは姫さまですから」
「はいはい、セリーヌ。そのくらいは、分かってますわ。という事で、本題に戻りますの」
セリーヌが歯磨きを忠告するのを、話半分に聞くエッタ。
話の途中から表情を真剣なものに変えた。
「ティア、わたくしがお教えした説得方法が成功して良かったですわ。戦いは始まる前に勝敗が決まる。他にも『敵を知り己を知れば百戦危うからず』とも言いますわ。先に顔役の好みを調べていて良かったですの」
彼女は、わたしにとって聞きなれた、とある有名な戦略を語りだす。
「え!? それって『孫子』の兵法じゃないかしら?」
「そうよ、ティア。流石に知っていましたのね。わたくし、前世では趣味の戦略ゲームとビジネスに生かすのに、『孫子』を独学で勉強しましたの」
エッタの自慢げな顔を見ながら、わたしは前世記憶を思い出す。
確かに書店では、「ビジネスで生かす『孫子』」などの本が並び、一時はマネージメントの本共々、話題になっていた覚えがある。
……企業のマネージメントと野球部のマネージャーを混同した小説があったっけ?
「フォンティーアさまもご存じなのですか? 姫さま、いつも変な事をお話になられますが、それがずばりと当たることがあって。大抵、今のように妙な語り口なんです」
「わたしも、そんなに詳しいことは無いのですが、大まかな内容くらいは分かります。前世、『夢の世界』のそのまた二千年は昔に書かれた戦略・戦術書です」
「そうよ! 偉大なる中華文明の粋。前世十九世紀に書かれた『戦争論』と比較しても負けないほどの理論が書かれていたわ。今でも、わたくし大半は諳んじられるの!」
ドヤ顔が止まらないエッタ。
確かに孫子の兵法は、中華文明について高校で少し学んだくらいのわたし程度でも知っている程有名。
詳しく知っていれば、この世界でも無双できそうな兵法だ。
「フォンティーアさま。本当に姫さまは大丈夫なのですか? ますます、おかしな感じに……」
「わたしの説明暴走に似てる感じですから、このまま話すだけ話させましょう。しばらくしたら落ち着くと思いますわ」
「王女殿下、確かにティアちゃんと暴走具合が似ている気がいたします。お二人ともこれほどお可愛らしいのに、少し残念で……」
どんどん得意げになり、今後の業務計画を語りだすエッタ。
わたしとそれぞれのお付き二人は、呆れて顔を見合わせた。
……リッカが最後まで言わなかったのは、不敬な発言になっちゃうからだろうねえ。
◆ ◇ ◆ ◇
「……ということで、今後は水マフィアも抱き込んで事業運営『JV』を組みますわよ! ん? あれ? みんな、寝ちゃってますの?」
何杯もぬるくなったお茶を飲み、演説しきったエッタ。
最終結論まで話しきったので満足したようだが、観客が寝ていることにようやく気が付いてくれた。
「エッタ、お疲れ様。もう、リッカもセリーヌさんも眠気に負けちゃったわ。だって、今は午前一時ですもの」
わたしは枕元に置いてあるゼンマイ式時計の針を指さしながら、エッタにみんな寝たと告げる。
「むむぅ。せっかく盛り上がってきましたのぃぃ」
「いきなりビジネスやら戦略を話されても、困るだけですの。わたしだって、半分くらいしか分からなかったし。ふわぁぁ。で、最後に話していた『JV』って何?」
お布団の中から、あくびをしながら問いかけるわたし。
エッタもサイドテーブルの魔道ランプを消し、わたしの隣に潜り込んできた。
「よいしょっと。うーん、暖かいわ。それに柔らかくて良い匂いぃ」
「暑いから、抱き着かないでくださいませぇ。もう、困ったお姫さまですこと」
わたしも、苦笑しながら暖かいエッタを抱きしめ返した。
「えっとね、『JV』っていうのは、『ジョイント・ベンチャー』。共同企業体っていって、複数の企業が協力して共同でプロジェクトを行う形式なの。ティアの工事って沢山のギルド。いろんな業種の組織が協力して行っているでしょ」
「確かに、言われてみればそうね。そこにガルダさんを加えるのは良い作戦かも」
暗闇の中、わたしたちは眠りに落ちるまで、抱きあって仕事の事やたわいもないことを話し合った。
なお、二人して朝食会に遅刻したのは、「お約束」か、「天丼」か。
……あー! エッタに歯磨きさせるのを忘れてたー!!




