第21話 スラム顔役と想定外な対面
湧き出した地下水に、スラムでの工事を阻まれてから数日後。
アポが取れたので、今日はエッタとのパジャマパーティ&作戦会議を行っている。
「そういうことなのね、ティア。むむむ! まさかスラムの場所が、昔は川だったなんて」
「わたしもスラムの人に聞いたり、神殿の資料から調べて分かったの。だから、まだ地下には『川』が流れていて、今も地下水が高い理由を理解したわ。そして軟弱地盤で放置されていたのを、水を求めて難民が集まりスラム化しちゃったみたい」
工事は排水が手一杯で、中々進んでいない。
幸いなことに人手には困らないし、湧いた水はスラムの人が生活用水に利用しているので、全くの無駄になっていないのが救いだ
「だから、一メートルも掘ると池になっちゃうの。これまでも、少しの雨でぬかるみになっていたのは、地下水位が高かったからみたい。で、わたしはどうしたら排水が出来るかで、困ってるの、エッタ」
「水抜きかぁ……。昔、何処かで見聞きしたような……」
エッタに聞いてみたのは、彼女が持つ異世界の知識がヒントにならないか。
わたしもNPO時代にいくつか工事の手伝いをし、その際に「土嚢工法」を知った。
だが、そこは地下水位が高くなく乾いた土地だったので工事は簡単に終わったが、今回はそれとは全く違う。
軟弱地盤での道路工事、わたしのような素人では思いつく策が全くない。
「フォンティーアさま、申し訳ありません。ワタクシ、今回は全くお役に立っていません。姫さまの元から迂闊に離れる訳にも参りませんですし、土木工事など全く分からないのです」
「セリーヌさま、お気になさらずに。エッタを守って頂けるだけで、もう十分です。それに王国騎士の方に土木作業をお手伝い願うのは、流石に心苦しくて……。今でも神殿騎士の皆さんには、ご迷惑をずっと……」
わたしは酷く悲しくなってしまい、俯く。
多くの人たちを巻き込んだのに、一向にプロジェクトが前に進まない。
わたしの小賢しい知識など、現実の前では全くの無力。
その事がとても悲しくて悔しい。
「ティアちゃんは、十分頑張ってるよ。今日もスラムの子どもたち。リュカくんたちが笑っていたし、大人たちも笑顔で働いていたの。そんなことは今までなかったわ。ティアちゃんが頑張ったから、笑う人が増えた。だから、泣かないで」
曲がったわたしの背を暖かい手でゆっくり撫で、励ましてくれるリッカ。
わたしは、顔を上げる。
「リッカお姉ちゃん……、ありがとぉ」
「ティア。わたくしも一緒だから、全部一人で抱え込まないでよ。こんな時の為に、王女のわたくしが居るんだからね。はぁ、『重機』とかがあれば、あっという間に工事終わるんだけど。地崩れした場所も法面をコンクリートで固めて……。あ、あれ? あ! 思い出したぁぁあ!」
わたしを慰めてくれるエッタ。
何かに気が付いたのか、突然大声で叫んだ。
「ティア、コンクリートで固めた法面を覚えていますわよね? 何か気が付かない?」
「法面ですか……。確か、コンクリートの基礎を作って、水抜き穴を……! あ、水抜き配管を道路に埋めたら良いんだぁぁ!」
エッタのヒントで、わたしは道路に水抜き穴を作ることを思いついた。
「エッタ、ありがとう! わたし、また頑張れるわ」
最適な答えを教えてもらったことで、わたしはとても嬉しくなり、エッタの両手を握ってブンブン振り回してしまう。
そんなわたしの姿に、エッタはドヤ顔で答えた。
「えっへん。わたくし、王女なのですから、友の役に立つのなぞ、当たり前ですのよ。おーっほっほ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「で、聖女さまよぉ。俺らが失ったシノギに対し、どう償ってくれるのかい?」
そして工事再開後、わたしはスラムの顔役に面会している。
彼がスラムにおける水の使用権を持っているのに、それを邪魔されたとの苦情を受けたからだ。
……見た目はワイルド系のおじさんね。まあ、実のところ、話に噛ませてもらい、利権を分けてくれって話よね。あらかじめ、筋は通していたから穏便な会談になったの。確か、日本だと水利権は地上を流れる川だけだったっけ?
「今回はご迷惑をおかけして申し訳ありません、ガルダさま。工事開始前にお約束していた、迷惑を掛けないという約束を破ってしまったことに対し、事業代表として。またアリエッタ王女殿下の名代として謝罪させていただきます」
「謝罪なんてもんじゃ、メシは食えねぇ。だが、聖女さまが王女さまの名前も借りて自ら謝りに来るってのには、少々驚いた。聖女の嬢ちゃんは、筋の通し方ってのを何処で学んだんだい?」
スラム内にしては立派な建屋。
応接室らしい場所に通されたわたしとリッカ、そして護衛役を引き受けてくれたセリーヌ。
女子どもだけの相手に対しては、そこまで高圧的ではない顔役ガルダ。
一応、背後には武装した若い衆を立たせているが、若い衆は笑顔。
前回の面会同様に、ガルダの好物である甘い菓子を持参しているのも、効果があった様だ。
……彼が甘いもの好きという情報の出どころは、港湾ギルド長。仕事あっせん時に彼らと付き合いがあるらしいの。もちろん、菓子は目の前で食べてあげて、毒が無いよと示しているわ。この世界じゃ、まだ砂糖は輸入品だけだし、効果は抜群よ!
「すべては女神さまの御示しですわ。もちろん、今回は貴方がたにも損をしないお話も持ってまいりましたの」
うっすらとした微笑を湛えながら、利を与える話を告げる。
すると、ガルダの眉がぴくりと動いた。
……エッタに教えてもらった通りにしたら、大成功。わたしだけじゃ、こんなビジネスライクで政治的な会談なんて出来ないの。
生前より、人間関係の機微が苦手なわたし。
毎度、自分の考えを押し付けすぎて失敗をしていた。
だが、今回は皆の事前調査とエッタによるビジネスでの根回しや政治的手腕を教えてもらったのが、効果抜群。
「旨い話には裏がありそうだが、聖女さま。アンタは、一体何者かい? 言ったら悪いがガキの考えとは思えんぞ」
「少なくとも、今回の工事を企画しましたのは、わたしです。全ては水の女神さまの愛ですわ!」
ややこしいことは、全部女神さまに放り投げるわたしだった。




