第2話 想定外が迫り来る!
「この度は、お招きいただき感謝致しております、陛下」
「司祭長どの。こちらこそ、忙しい御身を無理に呼出しすまぬ。昨年の洪水以降、神殿には何かと世話になっておる。民の不安解消のため、そして治水活動。とても助かった」
第二王女殿下から招待状という名の召喚状をもらったわたし。
司祭長さまと一緒に王宮へ参上。
あれよあれよという間に、謁見の間に連れてこられた。
「で、そこなる少女が例の聖女どのか?」
「はい、陛下。この者は両親を流行り病で亡くし、我が神殿付属の養育院にて育ちましたフォンティーアと申します。フォンティーア、陛下にご挨拶を」
謁見の間、司祭長とわたしは羊毛絨毯の上で跪く。
目の前には、一段高いところに設置された玉座に座りし王陛下。
その横には小さな椅子に座った少女がいる。
「は、はい。陛下。春浅き、なれど花咲く季節に尊き御身とお会いできました事に感謝いたします。わたくし、フォンティーアと申します」
他所行きドレスを側使いリッカに着せてもらったわたし。
教えてもらった貴族向けな礼儀作法を駆使し、カテーシーをしながら陛下にご挨拶をした。
「フォンティーアとやら。宮廷の噂によれば其方が洪水対策。そしてその後の疫病対策をしたと聞く。それは誠か?」
「は、はい。僭越ながら、多くの民が困るのを見ておれず、水の女神さまから教えて頂きました知見を用いさせていただきました。幼子の身で、王族の方々の指示を無視するような形となり、誠に申し訳ありませんでした」
ロマンスグレーでお髭が立派な王陛下。
わたしに対し、洪水対策時の事を聞いてくる。
表情はうっすら笑みを浮かべているのだが、その眼は決して笑っていない。
わたしを値踏みするような視線を感じながらも、司祭長と一緒に考えた答えを返した。
「確かに余が出した命とは全く違う行動ではあったな。どうして余の出した命に対し、反抗をしたのだ?」
「そ、それは……」
王は、わたしが勝手に動いた事を問い詰めてくる。
王国においては王命が一番。
余程の理由がない限り、王命に従わない者は反逆者として罰せられかねない。
「なに、今更其方を罰せようとは思わぬし、多くの民が助かったのも事実。だからこそ、聖女と祭り上げられておるのだろう? 余は気にせぬから、正直に答えよ」
司祭長さまは、こんな場においても微笑を絶やさず、わたしに対し早く話しなさいと、その表情で告げてくる。
「は、はい。寛大なる陛下に感謝致します。では、お話し致します。昨年の洪水ですが、王国内では大雨は降っていませんのに、発生しました。それは王都に流れます川の上流部での異常が原因と思われます」
わたしは顔を上げ、真剣に言葉を紡ぐ。
じっとりと背中には冷たい汗が流れるが、それを拭う余裕はない。
「わたくしも現場を見た訳ではありませんが、おそらくは湖沼の決壊。なんらかの原因で生まれた『天然ダム』が壊れたことによる急激な水量増加、土石流が原因と思われます」
わたしは、前世で学んだ事から推理していく。
近くで豪雨も無いのに川は急激に水位を上げ、土手が決壊した。
そして王都では、多くの地域がr泥水で冠水をしてしまった。
……あれ? 王様の横にいる女の子。多分、あの子が第二王女さまだろうけど、今の説明に反応した?
それまで薄い笑みを浮かべていた金髪縦巻き毛で碧眼の美少女姫。
肌を殆ど見せないが豪華なドレスに身を飾った彼女の表情が、わたしの言葉に対しピクリピクリと動くのが見えた。
「ふむ。原因とやらは、まあよい。で、余の命。決壊した土手の復旧に盛り土をするのを、どうして止めさせたのだ?」
「それですが、濁流が流れる中に砂や土をいくら放り込んでも、軽い砂粒は流されるだけだからです。本来であれば大きな石を使い水に対する壁として用いればいいのですが、現地で作ったり運ぶのは不可能。ですので、農作物を収穫します麻の布袋の中に土砂を入れる手法。『土嚢』による壁の構築を行ったのです」
王陛下は、話の根幹。
どうして王命である、決壊箇所に対する盛り土作業を止めさせたかを聞いてきたので、土嚢を使ったと説明する。
「つまり砂粒では水の流れに負けるが、袋に入れた砂は流されぬと」
「御意。その通りでございます、陛下。僭越ながら、この方法が最も多くの命を救えると信じ、実行させていただきました」
王陛下は納得できたのか、顎をさすりながらニヤリと笑みを浮かべる。
そして、陛下の横に座っていた王女殿下は、ひどく驚きの表情を浮かべていた。
……王さまが賢く寛大な方で良かったわ。でも、王女さまが驚くのは少し不思議ね。わたしと同じくらいの年頃の女の子なのに?
「で、その知識は何処から得たのだ、聖女よ。土を袋に入れて積むなど、土木ギルドが治水に使いし秘儀。また、その後の疫病対策も見事であった。まさか経典にでも載っておったのか?」
「全ては水の女神さまのお導きにございます。洗礼式の日、わたくしは女神さまにより知恵を授けて頂きました」
知識の出どころを聞かれたので、司祭長と決めていた答えを王陛下に告げる。
洗礼式の日に、女神の干渉で前世知識を思い出したのだから、まんざら嘘でもない。
「……それなら納得はしよう。女神さまの御戯れが、我らの国を守って下されたのだからな。事実、土木ギルドの長が完璧な工事だったと褒めておった。聖女フォンティーアよ。見事であった。王命違反ではあるので褒美は出せぬが、王として民に成り代わり感謝するぞ」
「ありがたき幸せに存じます、陛下」
なんとか王陛下との問答で生き残れたわたし。
緊張から全身が汗まみれになってしまったのを感じるが、今になって冷えてきたのか寒気を覚えた。
……土嚢を使う治水法、この世界にもちゃんとあったのね。でも、ギルドが秘匿してたと。
「さて、今回の召喚ではあるが、余の希望もあったが本来は我が娘の願いでもあった。同じ年頃の少女でありながら、聖女として名を馳せる其方と、話をしてみたいとな」
玉座の横に座る少女は、まるで何かを確かめるように、じっとわたしの顔を見た後、小鳥のような可愛らしい声で話し始めた。
「フォンティーアさま。わたくし第二王女、アリエッタ・ド・アルヴェリアと申します。わたくしと同い年とお聞きしておりますが、先程の父との会話、実にお見事でございました。是非、わたくしと二人だけでお話しいただけませんでしょうか?」
嬉しそうな表情で手を差し出して、微笑む美少女姫。
しかし、その目線はわたしを観察し見透かすかのよう。
何か含みを感じる笑みに、私は違和感を感じつつも答えた。
「は、はい。喜んで」
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