第16話 想定外なギルド長たち
「では、これより質問の時間としたいと思います。ご発言なさる方は挙手をし、神官より渡されます魔術具を通してご発言くださいませ」
わたしとエッタの発言を聞き、まだ騒然としている神殿の大拝殿。
わたしは魔道具を通した大きな声で、会場内に質問が無いかと問いかけた。
「では、私から一つお聞きしたい事がございます。私は港湾ギルドの長をしております、ルナール・ド・アストゥと申します、聖女さま、王女殿下」
手を上げた初老の男。
黄色ベースの豪華な衣装に身を包んだ白髪男性。
彼は銀の鎖で胸元から繋がれた片眼鏡をクイっと触り、発言を開始した。
「はい。どうぞ、アストゥさま」
「では、お言葉に甘えまして。今回の慈善事業ですが、どの様な者がスラムでの工事にて働くという事が一切語られておりません。大規模工事になりますと人手を多く必要とします。私共、港湾ギルドは港に到着する船の管理と荷役、荷物の上げ下ろしをいたしております。港湾荷役は多くの人手を必要とし、正規の職人だけでは到底足りず、スラムからも日雇いの人員を多く雇っております。ですので、当方の業務に支障を来すような人材配置は、出来ましたら避けて頂きたく、御考慮願えたらと思います」
年齢の割に、ピンとした姿勢の港湾ギルド長。
好々爺かつイケオジの雰囲気を醸しながらも、片眼鏡越しの視線は鋭く感じる。
「工事の人手に関しまして、説明が足らなかった事に謝罪をさせて頂きます。といいますのも、女神さまが御呈示なされた工法ですが、専門家でなくても道路舗装が出来るものであり、今回スラムで職の無い方々にもお手伝いを願おうかと思っておりましたの」
……この人、わたしがスラムの人を使うって知ってて質問してきたのじゃないかしら?
わたしは、仕方なく工法について簡単な方法だと開示する。
こうしないと、何の技術も持たないスラムの人を雇う工事だと説明できないからだ。
「ですので、アストゥさまのご事業に対しても問題が起きないようにしたいと思っておりますの。なので、是非事業にご参加願えれば、詳細について御相談しますわ。もちろん無理にご参加を願う訳でもなく、港湾ギルドのご都合をあらかじめ教えて頂ければ、その時期に人材不足にならないようにしたいと思います」
一応、事業参加を訴えるが無理な場合でも、仕事のスケジュールさえ教えてもらえれば、スラムの人材を奪うような事はしないと、わたしは港湾ギルド長に告げる。
「おお、それほどまでに御配慮いただけるのであれば、当方もぜひ協力させていただきましょう。王女殿下もご協力なさる聖女さまの一大事業ですからな」
「早速の参加表明、ありがとう存じます。詳しい事は、また後日。正式な書面にて契約を結びたいと思います。他の方々にもお知らせしますが、事業参加なさる場合は神殿にて契約魔術を行います。わたくしたちは必ず約束を守り、参加してくださった方には今後の事業につながる技術や仕事を提供しますわ」
……良かった、大きなギルドに反対されたらどうしようかと思ってたの。でも、アストゥさまが事前にスラムの人を使うって知ってたのは、どうしてかしら? 司祭長さまが情報を流した……は、違うみたい。
視界の端にいる司祭長。
港湾ギルド長に対し首をかしげてて、彼の早い参加表明を不思議がっている様子だ。
事業参加において、参加する団体個人とは、契約魔術による文書締結を行う予定。
これも司祭長さまからの提案で、途中で技術だけ奪ってわたしに害意を向けてくる事を避けるためだ。
「では、俺ら。土木ギルドからも質問がある。お嬢ちゃん、いや聖女さまは簡単に道路を作るというが、それは俺たちのこれまでの仕事を否定しかねぇ発言だ。工法は女神さまの手前、言えないというなら聞かねぇが、他の技術。道をまっすぐ引いたり、まっ平らにしたのを確認するのは、どうするんだ?」
今度は、いかにも土木工事のおっちゃん。
薄汚れた格好ながら、衣服から伸びる腕の太さ。
そして、背は高くないもののドワーフ族と遜色ない筋骨隆々な体格の人物から発言が上がる。
……自分の名前を名乗らないし、わたしのことをお嬢ちゃん呼ばわりするのは困った事だけど、現場のおっちゃんって感じなのは悪い気はしないの。
「それに対してもご回答を致しますわ、土木ギルド長さま」
神官らやエッタが渋い顔なのを半分無視し、わたしはおっちゃんに回答をする。
「わたくしが女神さまより授かりました英知の中に、水平と直線を描くものがあります。例えば、水の表面。水面は必ず『重力』。あ、いや、下に落ちる力でまっすぐになります。工事中の道路上に『たらい』などを置き、水を満たして表面を見れば水平に作業できているかどうかが、簡単に判別できますね。また、直線は……」
「ま、まった! お嬢ちゃん。いや、聖女さまが正しい方法を知っているのは納得した。疑ってすまねぇ。だが、これ以上簡単に土木ギルドの秘術を話してもらっては困る」
「あら、ごめんなさい。わたくし、少々口が滑ってしまいましたわ」
わたしが水平の出し方を話すと、慌てだす土木ギルド長のおっちゃん。
これも土嚢同様に、土木ギルドの「秘術」。
一般化していない秘匿技術だったようで、わたしを舐めていた事を謝罪してきた。
……エッタ、のけぞるくらいにドヤ顔で、わたしの事を自慢するのは止めてよぉ。
その後もいくつかのギルド長や法服貴族から質問があったが、わたしは全てに回答。
多くのギルドから事業の参加表明を受ける事に成功したのだった。
「これで、事業も無事に開始できそう。エッタ、一緒に頑張りましょうね」
「ええ、ティア。これがわたくし達の第一歩よ!」




