第15話 説明会は想定外に
「皆さま、本日はわたくし。フォンティーアが企画致しました神殿主催の慈善事業説明会にお忙しい中、これほど多くの方々にお集まりいただき、感謝致します」
白亜の大理石で飾られた神殿の大拝殿。
そこに集められた人々の前、演台に立ったわたしは演説を開始する。
今回のスラム改善計画に少しでも多くの人々の賛同と協力を頼むために。
「慈善事業の内容ですが、王都に正式な居住資格を持たず、故郷を失って流れ着いた者たちが集まる地区。俗にスラムと呼ばれる場所。かの地の生活環境を改善すべきとわたくしが思い、神殿上層部に進言をして許可を得ました」
わたしの声は拡声魔術具の力によって、三十メートル四方を越える神殿の大拝殿の端々まで響き渡る。
「更に、この事を神殿を通じ王陛下に伝えましたところ、第二王女アリエッタ・ド・アルヴェリア殿下がご賛同・ご協力くださることになり、わたくしとしても驚いたばかりです」
既に集まっている人々。
職業ギルドの長、法服貴族らはエッタが計画に参加しているのを既に知っているようで、その表情に大きな変化はない。
一見薄い笑みを浮かべてはいるが、わたしの事を値踏みするような視線をいくつも感じる。
……聖女と祭り上げられた小娘が、何を綺麗ごと並べているのかって感じだよね。実際、そうなんだけど。
しかし、わたしの顔を見に来てくれた聖女ファンの方々からは驚きの表情とざわつきを感じた。
……王族と聖女の接触、やっぱりインパクトが強くて警戒されるのよね。
「では、ご紹介いたします。アリエッタ王女殿下、こちらに」
わたしは、エッタを家名ではなく「名前」で紹介する。
二人の関係が名前を呼び合うほどの仲だとアピールするために。
……普通、王族の名前を直接呼ぶのは不敬だものね。わたしとエッタは、王族からも公式に友達認定はされているけど。困った事に、エッタはあだ名で呼んで欲しいタイプなの。
「ただいま、聖女さまからご紹介に預かりましたアリエッタでございます。わたくしは、聖女――フォンティーアさまの尊き願いに賛同し、父上から今回の事業への支援をお認めいただきました。同じ王国に暮らす者の中に、深い悲しみを抱き、苦しんでいる者が大勢いることを、わたくしは以前から悲しく思っておりました」
わたしは演台から降り、代わりにエッタが可愛い声で演説をする。
その内容は、わたしをまるで褒め殺すかのような美しい言葉で紡がれ、とても恥ずかしくなってしまう。
「今回、わたくしが賛同いたしましたのは、フォンティーアさまの提案が尊きものである上に、水の女神さまより授かられた英知を用いることで、従来の手法より優れていますことです。詳細は、これ以降フォンティーアさまより、ご説明頂きますわ。ティア、お願いしますね」
「は、はい、殿下」
……エッタもわたしの事を聖女という肩書じゃなく名前で呼んでくれるのも、政治的発言だよね。二人の関係は強いって。でも、最後のティア呼びは流石にやり過ぎよ。あーあ、会場が大騒ぎだわ。
大拝殿が、酷くざわつく。
王女と聖女が公式に手を結んだという意味の発言に、集まった者達の誰もが驚きの表情を隠せない。
「え、えっと。皆さま、お静かに。殿下から過分なお言葉を賜りましたが、今回の事業はあくまで神殿主導の慈善事業。聖女であるわたくしは発案と現場指揮をするだけのものであり、王女殿下はあくまで協賛してくださるのみでありますことを、改めてお知らせいたします」
視界の端では司祭長さまが、扇で口元を隠しながらも笑い転げているのが見える。
エッタの発言も司祭長さまの仕込みかと思ったが、演台横に準備された椅子に座るエッタのドヤ顔を見れば、その通りの様だ。
……集まった人たちへの強烈な釘刺しね。これで、表だって計画に反対できる人は誰もいなくなったの。
「お、おほん。今回の事業ですが、基本はスラムにおける生活環境の改善が主目的。スラム中心を走る道路及び主要な横道への汚水路の設置及び簡易舗装を行います。現在、無舗装で多くの穴が開いている道。家屋から汚水が流れ込む上に、雨が降ればあっという間に泥沼と化します。これでは、人々は歩くことにも難儀。更には疫病の感染源となり、災害時の避難路としても機能しません」
演台においたカンペをチラ見しながら説明を始める。
先程のエッタの「パンチ」発言で、わたしへの注目を増した視線。
彼らは、わたしの発言を子ども相手と舐めることなく真剣に聞いている。
「舗装方法ですが、王都内の主要道路や一部の街道で行われています石畳ではなく、女神さまよりお教えいただきました独自方法を用います。詳細に関しましては、女神さまの秘匿技術でもありますので、ご協力していただける皆さまにのみ開示しようと思っています。また、汚水路に関しても画期的な手法を用い、これが成功した暁には舗装共々、王都内の全箇所。更には王国内に広めていきたいと思っておりますの」
……技術を秘匿って話したら、チって顔をしたわ。協力もしない方にタダで技術開示なんて、いくらお人好しのわたしでもやらないわ。女神さま、お名前を勝手に使ってごめんなさい。
女神さまをダシにしたのは、司祭長さまの提案。
もしもの時に、わたしの身を守るために女神さまのお名前を使いなさいと言って下された。
……義母さまったら、嘘ついても女神さまは寛大だからお許しになられるわって言うんだもの。
「現在の時点では、工事技術に関しましては女神さまからのお教えで開示できません。しかし、慈善活動にご参加頂いた方々には惜しみなく提供致します。是非、わたくしたちの事業にご協力くださいますよう、お願い申し上げます」
全てを話しきって、演台にて深く頭を下げるわたし。
この世界では会釈以上に頭を下げる風習は無いが、わたし個人がやりたいので、いつも演説の後に行っている。
……エッタ。ドヤ顔が止まらないのは、どーかと思うの。わたし、これからの展開が怖いわ。また、想定外にならないかしら?




