第13話 既得権益は想定外
「あー、困ってしまいますぅ」
「姫さま。部屋の外に聞こえてしまいます。声を落としてくださいませ」
今晩も王女殿下の寝室でパジャマパーティ。
いや、秘密会議中だ。
「エッタの言う通り、困った話になったのは事実ね。上級貴族は関係ないけど、ギルドの既得権益が重なるなんて」
リッカの提案で、エッタとわたしは、出入り業者から陶器ギルドに話を通した。
「こいつは、俺たちよりは石工ギルドの範疇じゃねえかぁ? 陶器よりは煉瓦に近いし、道路工事をするんなら、あいつらや土木ギルドに話を通しておかねえと、大変になるぜ」
陶器ギルド関係者から聞いた話では、彼らは小さな食器を作るのがメイン。
陶器製の配管なんかを焼ける大きな窯は所有しておらず、作ってほしいものは、どちらかと言えば煉瓦に似ている。
そして、煉瓦作りは石工ギルドの業務範囲。
更には道路工事も彼らや土木ギルドの仕事なので、スラム内でとはいえ話を通さずに工事するのは、後で問題になりやすいそうだ。
「わたしは、道路工事のやり方を知ってますし、最悪道の横に溝を掘って、道の表面共々を石灰と海水由来のにがり、『塩化マグネシウム』なんかを粘土と混ぜて叩き固めれば、最悪でも石工ギルドの協力なしで形にはなります。水平を出す方法も知っていますし」
「でも、それは今後を考えれば悪手ね。石工ギルドなどを敵に回せば、今後の道路建設が難しくなるわ。それに各職業ギルド長は大抵ブルジョアで法服貴族が多いの。貴族議会内に敵を作るのは最悪よ」
一応、石工ギルドを通さなくても道路工事は可能と告げるも、エッタは却下という。
わたしも、口にしただけ。
正直、根回しは面倒ではあるが、敵を増やす行為は得策ではない。
「お二人とも慌ててお話を進めない方がいいと思います。下町でもギルド関係の職人さんは多く、敵対しても何も良いことは無いと思われます」
「騎士なワタクシは、平民らの暮らしを詳しく知りませぬが、法服貴族らは爵位こそ高くないものの、その経済力は侮れません。性急に動かれませぬよう、ご検討を」
リッカもセリーヌも、わたし達に慌てるなという。
根回し不足で前世NPO時代にやらかした経験もあるわたしなので、気を付けないといけない。
……いくら、やり方が正しく結果が良くても、途中経過で失敗しちゃうと、後で困るのかぁぁ。
「一度、司祭長さまに相談してみようと思います。あまり話を大きくしたくはありませんが、神殿のコネを借りるのも手ですし」
「大きくしたくないというのは、今更だわ。騎士団連れて王女と聖女がスラム訪問なんて、どんな物語でも聞いたことありませんですわよ?」
わたしのちょっとした提案が、どんどん国家レベルの大事業になっていく。
王女殿下と聖女が組めば、どれだけ周囲に影響を与えるか。
わたしの想定などは、とっくに追い越して斜め上に進む。
まるでロケット打ち上げ軌道となって、いつかは母星の重力圏を飛び越えそうで怖い。
寒くないのに身体に震えが起き、顔がうつむいてしまう。
……すぐに、わたしや神殿のコントロールできる範囲を超えちゃうかも。最終的には国を超えるつもりだけど、まだまだ早いよぉ。
もう後戻りはできないし、エッタを一人にはしたくないが、怖くてたまらない。
どれだけ前世では無茶をしていたのか、今世でもどれだけ迷惑をかけているのか。
今更ながら、自分の愚かさに気が付いてしまう。
「ティアちゃん。大丈夫よ。貴女と王女殿下が進む道は、誰もが笑える世界。スラム開発を言い出したワタシも一緒に手伝うよ」
震えていた手を誰かがぎゅっと握ってくれる。
うつむいていた顔を上げると、そこには優しい笑みを浮かべたリッカがいた。
「ありがと、リッカお姉ちゃん」
いつもそばに居てくれる優しい義姉に、わたしは大きく感謝をした。
「セリーヌお姉ちゃぁぁん、わたくしも甘えたいですぅぅ」
「だーめです、姫さま。これまでも十分甘えさせてあげてますから」
向こうでも守護騎士に抱き着き甘える王女。
しょうがないと苦笑しながら、彼女の頭をやさしく撫でる姉のような騎士がいた。
◆ ◇ ◆ ◇
白亜の大理石で飾られた神殿の大拝殿。
そこには多くの者たちが集う。
建築ギルド、石工ギルド、陶器ギルドなどなど。
他にも法服貴族らしい、豪華な衣装の方々も多く列席している。
「どうしてこーなるのぉぉ! また、想定外だよぉぉ!!」
「ティア、ここまで来たら腹をくくりなさい! 聖女さま、一世一代の大舞台。違うわね、聖女さまの慈善活動、第一弾。貴女がしっかりしなきゃですわ。わたくし、今回はあくまで名義貸しのオブザーバーですから」
舞台の袖から、集まる人々を見て、わたしは思わず悲鳴を上げた。
「司祭長さまに相談したら、こんな事になるなんてぇぇ」
「ティアちゃん。義母さまに相談しないと、こんなにスムーズに話が進まなかったと思いますよ。観念してね」
泣き言ばかりになってしまうわたしの頭をそっと撫で励ましてくれるリッカ。
そして周囲を見るとエッタ、セリーヌ。
そして遠くから司祭長さまが、暖かい目で見てくれている。
「ふん! 女は度胸!!! わたし、頑張りますの」
「よ! 流石は水の女神に選ばれし聖女さま。わたくしも、後でフォローしますわよ」
女の子らしくないとは思うが、パンと両手で自分の頬を叩き、気合を入れる。
エッタらに見送られ、わたしは舞台袖から演台へ。
背筋を伸ばし、笑みを浮かべながら歩いて行った。
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