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第28話:国家反逆罪。完璧な断罪


「……ひ、ひぃぃっ! 公爵、やめろ、剣を引け!」


首筋にアレクシスの氷の刃を突きつけられた側近の男が、無様に腰を抜かし、失禁せんばかりの勢いで後ずさる。

氷の刃から放たれる冷気が、男の首元に白い霜を這わせていた。


「ま、待て! 私を誰だと思っている! 第一王子殿下の腹心たるこの私を斬れば、ただでは済まんぞ!」


震える声で権力を盾に命乞いをする側近。

だが、アレクシスが放つ凄まじい殺気は一ミリも揺るがない。


「ただでは済まないのは、貴様らの方だ」


地を這うような低い声に、薔薇園の空気が完全に凍りついた。


「貴様らは、私の愛する妻を魔女と侮辱し、三歳の幼子に魔力暴走薬という毒を盛り、あまつさえ近衛騎士を使ってその命を奪おうとした。これだけでも重罪だ。だが、貴様らの罪はそれだけではない」


アレクシスが冷たい手袋越しにパチン、と指を鳴らす。

すると、背後に控えていた王都治安騎士たちが、一斉に数束の分厚い書類を、怯える貴族たちの足元へ投げた。


バサバサバサッ!!


重々しい音を立てて石畳に散らばった紙束を見た瞬間、貴族たちの顔から一気に血の気が引いていく。


「それは、貴様らが第一王子と結託し、近隣諸国へ我が国の軍事機密を売り渡していた証拠だ。並びに、王立孤児院の運営を隠れ蓑にして行った大規模な資金洗浄の裏帳簿でもある」


「な、なぜそれを……ッ!! それは極秘裏に処分したはず……っ!」


「私を誰だと思っている。この国の宰相であり、王都の治安執行権を預かる者だぞ」


アレクシスの冷酷な宣告が、絶望の鐘のように響き渡る。


彼は、私のために、そしてノア様のために、水面下でこれだけの準備を整えていたのだ。

愛する家族の平和な日常を害する毒虫を、一匹残らず、根こそぎ駆除するために。


「リリアーナとノアに手を出したその瞬間に、貴様らの命運は尽きたのだ」


圧倒的な権力と知略の前に、反論の余地すら奪われた貴族たちは、次々とその場にへたり込んだ。


「お、おかあ、さま……おとうさま、しゅごい……」


私の胸の中でブルブルと震えていたノア様が、呆気に取られたような声を漏らした。

その小さな手は、私のドレスの裾をぎゅっと握りしめているが、さっきまでの恐怖は、最強の父親の登場によって安心感へと塗り替えられようとしている。


「ええ、そうですよノア様。お父様は、私たちを傷つける悪い人たちを絶対にお掃除してくれる、最強の狂犬……いえ、最強の旦那様ですからね」


私がノア様の背中を撫でていると、アレクシスは一切の慈悲を捨てた声で命じた。


「王都治安騎士団! ここにいる第一王子派閥の逆賊どもを、一人も逃さず捕縛しろ。抵抗する者は武装解除のうえ拘束。近衛騎士であっても例外はない。これは、国家反逆容疑に基づく正当な執行だ!」


「はっ!!」


騎士たちが一斉に動き出し、逃げ惑う貴族たちを次々と石畳に組み伏せていく。

王宮の美しい薔薇園は、一瞬にして阿鼻叫喚の断罪場へと変貌した。


第一王子の側近も、氷の剣の恐怖に腰を抜かしたまま銀色の手枷をはめられ、「お許しをぉぉっ!」と無様に泣き叫びながら引きずられていく。


圧倒的な武力。

圧倒的な知略。

阻むものすべてを噛み砕く圧倒的な権限。


アレクシスという男の真の恐ろしさと、家族への重すぎる執着が、王宮全体を震え上がらせていた。


「……リリアーナ」


全ての敵が排除されたのを確認すると、アレクシスは手の中の氷の剣を砕いて消し去り、ゆっくりと私の方へ歩み寄ってきた。

その瞳には、先ほどまでの破壊的な殺気は微塵もない。

ただ私とノア様を案じる、痛いほど甘く過保護な色が宿っている。


「怖かっただろう。……すまない、私がもっと早く来るべきだった」


「いいえ、旦那様。最高のタイミングでしたわ。私たちの頼りになるスーパーヒーロー様」


私が微笑んで見せると、アレクシスは私の肩を、自分の胸に押し付けるように強く抱きしめた。

彼の大きな体が、微かに震えている。


「私の心臓が、止まるかと思った……。君たちが無事で、本当に良かった……っ」


首筋に顔を埋め、息が詰まるほどの強い抱擁。

「君を愛することはない」と冷たく言い放った初夜からは信じられないほどの、限界突破した重い愛情表現だ。


私はアレクシスの背中に腕を回し、私にしがみつくノア様ごと、愛しい家族の温もりを噛み締めていた。


――しかし、事態はこれで終わりではなかった。


「……何の騒ぎだ、これは!!」


薔薇園の入り口に、豪華な金糸を施した真紅の外套を翻し、一人の老人が現れた。

王宮の近衛兵たちを従え、威厳に満ちた、しかし目の前の惨状に動揺を隠しきれない表情で立っているのは――。


この国の最高権力者である、国王陛下その人だった。


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