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第27話:乱入する狂犬。最終ざまぁの幕開け


ズガァァァァァンッ!!!!!


鼓膜を破るような凄まじい爆発音が、王宮の薔薇園に轟いた。

私とノア様に振り下ろされようとしていた近衛騎士たちの凶刃が、ピタリと空中で止まる。


舞い上がった砂煙。

粉々になって吹き飛んだ鉄格子の残骸。

そして、初夏だというのに庭園全体を包み込む、絶対零度の冷気。


「……私の命より大切な妻と息子に、剣を向けたな?」


土煙の中から現れたのは、地獄の底から響くような低く冷酷な声。

漆黒の軍服に銀色の軽鎧を纏ったアレクシスだった。


彼の背後には、公爵家の精鋭騎士だけでなく、宰相直轄の王都治安騎士団が並んでいる。

全員の胸には、非常執行権の発動を示す銀の徽章が輝いていた。


つまり、これは私兵による王宮乱入ではない。

国家反逆の疑いがある者を捕縛するための、正式な治安執行だ。


「だ、旦那様……!」


アレクシスの姿を見た瞬間、私の中にあった僅かな緊張の糸がふっと解けた。

彼の青い瞳には、国を一つ凍らせかねないほどの底知れぬ殺気が渦巻いている。


それはもう、王宮で畏怖される冷酷な宰相などではない。

自分の最も愛する家族を害する者を、ただひたすら噛み砕くために顕現した狂犬そのものだった。


「おとう、さま……っ!」


私の胸の中で震え、ドレスの裾をぎゅっと握りしめていたノア様が、ハッとして顔を上げた。

そして、涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、その小さな手をアレクシスの方へ必死に伸ばす。


「おとうさま、たすけて……っ! こわいよぉ……っ」


その震える舌足らずな言葉を聞いた瞬間、アレクシスのこめかみに太い青筋が浮かんだ。


「……ああ。今すぐ、君たちを脅かすゴミどもを全て排除する」


アレクシスは一瞬だけ、私とノア様に痛いほど甘く、過保護な視線を向けた。

その瞳が「よく耐えてくれた」と語っている。


しかし次の瞬間には、再び絶対零度の死神の顔で政敵たちへ向き直った。


「こ、公爵!? なぜここに! 貴様は別棟で重要な会議のはずでは……!」


先ほどまで勝ち誇っていた第一王子の側近が、あり得ないものを見るような目で後ずさる。

私たちに剣を振り下ろそうとしていた近衛騎士たちも、アレクシスから放たれる圧倒的な魔力の重圧に当てられ、ガタガタと膝を震わせていた。


「貴様らのような羽虫が企む三文芝居に、私が気づかないとでも思ったか?」


アレクシスはゆっくりと石畳を踏みしめ、側近へ歩み寄る。

一歩進むごとに、周囲の薔薇がパリパリと音を立てて白く凍りついていった。


「伝令ブローチが反応した。毒物。殺意。違法薬物。すべての条件が満たされた。さらに、近衛騎士が刃を抜いた時点で、非常執行権の発動要件も成立した」


アレクシスの声は、静かだった。

静かだからこそ、恐ろしかった。


「貴様らは、あの毎晩私の腕の中で安心しきって眠る愛しい息子に、毒を食わせようとした」


声の温度が、一段階下がる。


「さらには、私の唯一無二の最愛の妻を斬り捨てようとした」


「ひ、ひぃぃっ! ち、違う! これは誤解だ! 全ては殿下の命で――」


「黙れ」


シュガァッ!!


アレクシスが右手を無造作に振るった瞬間。

大気中の水分が凝結し、絶対零度の冷気を纏った氷の剣が顕現した。

その凄まじい冷気にあてられ、凍りついた薔薇が一瞬で粉々に砕け散る。


瞬きする間もなく間合いを詰めたアレクシスは、腰を抜かしてへたり込む側近の首筋に、その氷の刃をピタリと突きつけた。


「弁明など聞く耳を持たん。……さあ、万死に値する罪を犯した貴様らに、完璧な絶望を与えてやろう」


宰相にして王都治安総監。

そして、家族への愛ゆえに限界突破した狂犬による、情け容赦なき最終ざまぁの幕が、今、切って落とされたのだ。


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