表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/40

第21話:情熱の口づけ。本当の夫婦

実家の連中が地下牢へと連行され、応接室には静寂が戻っていた。


「……終わった」


私が小さく呟くと、アレクシスは私を抱き寄せていた腕の力を少しだけ緩め、深く息を吐き出した。


「ああ、終わった。正式な審理は必要だが、証拠は揃っている。フェルゼン伯爵家の爵位と領地は没収、彼らは一生、強制労働の刑に処されるだろう。……これで、君を縛るものはこの世のどこにも、何一つなくなった」


アレクシスはそう言うと、私の髪にそっと触れた。

その手つきは、彼が普段政務を執る時の冷徹で正確なそれとはまるで違い、信じられないほど甘く、熱を帯びていた。


「旦那様。今回のこと、本当にありがとうございました。私一人では、あそこまで綺麗にお掃除ざまぁすることはできませんでしたから」


「私の方こそ、礼を言う。君がノアを守り、そして私に『家族』というものを教えてくれた。……だから」


アレクシスは、私の肩を抱いていた手をゆっくりと私の頬に移動させ、その氷のように透き通った青い瞳で、私の目を真っ直ぐに射抜いた。


「改めて、私と本当の夫婦になってほしい」


「……っ」


その言葉に、私の心臓がドクリと大きく跳ねた。

「君を愛することはない」と言い放った初夜の冷酷な姿は、もうどこにもない。

ただ一人の男として、私を深く、重く求め、その愛を隠そうともしない、熱に浮かされたような瞳がそこにあった。


「私には、君が必要だ。君の淹れるお茶が、君の笑い顔が、そして……君がノアに注ぐその深い愛情ごと、君のすべてが欲しい」


アレクシスの顔が、ゆっくりと近づいてくる。


(えっ、ちょ、ちょっと待って! 心の準備が……!)


私が戸惑い、目を瞬かせた瞬間。


彼の端正な唇が、私の唇を塞いだ。


「んっ……」


それは、以前私の手の甲に落とされたような、慎重で遠慮がちなものではなかった。

長年凍りついていた感情が堰を切って溢れ出したかのような、深く、熱く、そして息が詰まるほど情熱的な口づけだった。

私の唇を優しくこじ開け、熱い吐息が絡み合う。


頭の中が真っ白になり、全身の力が抜けていくのを、彼が腰に回した強い腕でしっかりと支えてくれていた。


(だ、旦那様……っ、熱い……)


どれくらいの時間、そうしていただろうか。

やがて、名残惜しそうに唇が離れると、アレクシスは私の額に自分の額をコツンとすり寄せ、甘く、少しだけかすれた声で囁いた。


「愛している。……狂おしいほどに」


その言葉の重さと熱量に、私は顔を真っ赤にして、ただコクコクと頷くことしかできなかった。

両想い成立。

愛のない政略結婚から始まった私たちの関係は、数々のトラブルを乗り越え、ついに本物の、どこよりも強固な絆で結ばれた夫婦となったのだ。


* * *


その夜。

私は幸せな気分のまま、ノア様の寝かしつけを終えて自室に戻ろうとしていた。


ベッドの中のノア様は、私が作ったウサギのぬいぐるみを抱きしめ、いつものように私の『服の裾を力強く握り』しめて、スースーと『安心しきった無防備な寝顔』を見せてくれていた。

その『小さな手』をそっとほどき、おでこにおやすみのキスをして部屋を出る。


(旦那様とは両想いになれたし、実家の問題も解決した。ノア様もすっかり元気になって、毎日可愛い笑顔を見せてくれる。……私の人生、まさに絶好調ね!)


前世での社畜保育士時代からは考えられないほどの、まさに「世界一幸せな家族」の生活。

私は、足取りも軽く自室へ戻り、ベッドに潜り込んだ。


――しかし。

神様は、そんな私の有頂天な気分を、あっさりと許してはくれなかったらしい。


真夜中。

屋敷中が静まり返り、誰もが深い眠りについていた、その時。


ドゴォォォォォォンッ!!!!!


地響きのような凄まじい爆発音と共に、屋敷全体が激しく揺さぶられた。


「な、何っ!?」


私はベッドから弾かれたように跳ね起きた。

地震? いや、違う。これは……魔法の衝撃波だ。


しかも、その衝撃の中心地は――。


「……嘘。ノア様の、部屋……!?」


嫌な予感と、原作ゲームの最悪の記憶が、私の脳裏をフラッシュバックする。

私は上着を羽織るのも忘れ、裸足のまま、ノア様の部屋へと全力で駆け出した。


廊下に出ると、そこには信じられない光景が広がっていた。

ノア様の部屋の分厚い扉が、内側から吹き飛んで粉々になっていたのだ。

そして、その部屋の中から、漆黒の、どこまでも淀んで重い『魔力の奔流』が、まるで竜巻のように噴き出している。


「ノア様ぁぁっ!!」


私は、黒い魔力の暴風が吹き荒れる部屋の中へと、一切の迷いなく飛び込んでいったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ