炎上する
「ユーリエ!!」
炎上する馬車。耳がつんざけるほどの悲鳴、怒号が飛び交う中、青年は腕に寄せた一人の少女に呼びかける。
「ユーリエ、ユーリエ! しっかりしろ!!」
炎が草木に燃え移り、燃え盛る草原の中、青年はそれでも少女に呼びかける。
「マサユキ、さん……」
その声がついに届いたとき、目の前の馬車が音を立てて崩れ落ちた。
「ユーリエ……」
青年から流れ出たしずくが少女のほほにあたり、涙となって垂れ落ちる。少女の服や肌はすすけ、あちこちから血がにじんでいた。その様相はまさに満身創痍だ。それでも、少女は力を振り絞り、言葉をつむぐ。
「信じてました、信じてました。ずっと……」
「ユーリエ……今、今助けてやるからな」
青年が懐から回復ポーションを取り出そうとするのを、そっと手のひらをそえて少女がとめる。
「いいんです。他の方のために、使ってあげてください」
「そんな、ユーリエ」
その言葉の意味を、少年は誰よりも理解していた。
それは世界一優しくて、残酷な言葉だった。
少女が、目を閉じる。抱き寄せられた少女の震えが、温もりが、しだいに弱まって行く。
「ユーリエ?」
返事はない。
「ユーリエ……ユーリエ!!!!」
青年が、肩を握りしめ、強く揺さぶる。返事はない。
それでも、青年はいつまでも呼びかけ続けた。
が、いつまでも、返事はなかった。




