勇者マサユキ
「なんだ? どうした?」
黒ずくめの男たちの中で動揺が広がる。
「お前ら、全員動くな!!」
倒れた男の後ろから、一人の青年が姿を現した。金と青の装飾を施した鎧を全身に着込んだその男は、金色の柄の両手剣を構える。
「……ふっ、一人か。命知らずめ」
リーダー格の男が笑う。茶髪の男も振り返り、振り上げていた片手剣を青年に向けなおした。
「やれ」
その一言を合図に、黒ずくめの男たち全員が剣を抜いた。
「はああぁぁーーーーーーーーーーーっっ!!!!」
走り出す両手剣の青年。取り囲む黒ずくめの男たちを、一人、また一人と倒して行く。まさに一騎当千の勢いだった。
「なんだアイツは?」
涼しい顔をしていたリーダー格の男が血相を変える。
「くそっ!」
僕を牢屋に押し込み、走り出す金髪の男。両手剣の青年は迫り来る毒々しい短剣をひらりとかわし、剣の柄で金髪の男の頭を殴りつけて気絶させた。
続いて、後ろから切りかかってきた男に即座に反応。数秒の鍔迫り合いのあと、敵の手元をブーツで蹴り飛ばして武器を飛ばす。
「ーーーー終わりだ。奴隷を解放してもらおうか」
両手剣を片手で突きつける青年。気づけば、黒ずくめのローブを着込んだ男たち全員が地面に倒れ伏していた。
「すごい……」
思わず感嘆の声が漏れる。
「……鍵はあの茶髪の男が持ってる。好きにしろ」
聞き終えるや否や、両手剣の青年は剣の柄で男を殴り、一瞬で気絶させた。そのままこちらへ振り返り、鍵を拾って歩み寄って来る。
「ユーリエを知らないか?」
「ユーリエ?」
リングにぶらさがった無数の鍵を順番に試しながら、青年は続ける。
「あぁ。水色の長い髪に、色白で小柄な少女で、歳は俺と同じくらいだ。ここにはいないようだが……」
「奥にまだ捕まっている人たちがいるみたいなの。ひょっとしたらそこかも」
「そうか」
ちょうど言い終わるタイミングで鍵が開き、牢屋の扉が開いた。青年は扉が開くのを確認すると、何も言わずに奥へと向かっていった。
顔を見合わせる僕ら。
「とりあえず、出よう。やつらが起き上がる前に」
「そうね」
状況がのみこめないらしく、ぎこちないペティ。
「助かった、のよね?」
「うん……多分」
ひとまず階段を登り、バルグの洞窟の入り口で青年を待つことにした。しばらくすると、ぞろぞろと捕まっていた少女たちが出て来たあとに、肩を落とした様子の両手剣の青年が現れた。
「あ、あの!」
ペティが声をかけると、青年がこちらを振り返る。
「助けてくれて、ありがと」
「礼なんていらない。俺はユーリエを探しに来ただけだ」
「その、ユーリエって子、大切な人なの?」
「あぁ。だがここにもいなかった……無駄足だったな」
「無駄足ってーーーー」
「言ったろ? 俺はユーリエを探しに来ただけだ。お前らを助けたのは、たまたまそこにいたからだ。だから礼なんていらない。それより、ユーリエを見かけたら教えてくれ。酒場の受付に、勇者マサユキといえばわかる」
「勇者マサユキ!? それって、各地の奴隷たちを解放して回ってるっていう、あの!?」
ペティの言葉に、マードラたちも驚きを隠せないようだ。
「そんな噂が立ってるのか? まぁいい。見かけたら知らせてくれ。じゃあな」
それだけ言って、勇者マサユキは去っていった。僕らや、助け出された少女たちになど、見向きもせずに。




