ガーゴイルの蛇3
松明のかがり火が見えてきたところで馬車を止めてもらい、そこからは歩きで向かった。
案の定二本のかがり火はバルグの洞窟の入り口を照らす明かりだった。
森の茂みから様子をうかがう。
「……あれだ。イアン、用意はいいか?」
返事がない。
「ん? イアン?」
振り返ると、ついさっきまでいたはずのイアンがいなくなっていた。
「おい、イアン!?」
立ち上がり、あたりを見回す。それでも返事はなかった。
「っ!?」
背後に気配を感じた次の瞬間、首を手刀で殴られ、僕はそのまま意識を失った。
目がさめると、ゴツゴツとした岩肌の天井があった。
「……なんだ?」
一瞬、さっきまでのできごとを思い出せなかった。視界がぼんやりとして、焦点が合わない。そのままあたりを見回すと、徐々にピントがあいはじめ、状況が見えてきた。
三方向にそびえ立つ岩肌、そして、
「ここは!?」
牢屋の中だった。
「気がついた?」
ペティやマードラ、イアンも一緒だった。手錠も何もはめられていないので、すぐには気づけなかった。
「ここは『ガーゴイルの蛇』のアジトの中よ。私たち、捕まったの」
「そんな!」
「しっ! 聞いて、さっきから様子がおかしいの」
「え?」
牢屋の外の様子をさりげなく横目でうかがう。見張りらしい見張りは誰もおらず、アジトの中はがらんとしていた。
「アキヒト、今なら逃げられるかもしれないんだ」
「どうゆうことだ?」
「さっき、入り口の見張りが倒されたとかで、みんな外に出て行ったんです」
「見張りがやられた?」
「やっぱり、アキヒトたちがやったんじゃないのね? なら、助けが来たのかも」
ペティが言い終わらないうちに、奥の階段から複数の足音が聞こえて来た。
「誰か来るわ」
期待とは裏腹に、おりて来たのは黒ずくめのローブを着込んだ集団ーーーー『ガーゴイルの蛇』だった。
「……やっと起きたか。おい、お前ら。お前らが呼んだんだろ」
「なんのことだ?」
「しらばっくれるな!!」
牢屋のおりを乱暴に蹴り上げる男。ほほの傷と、フードの隙間から見える長めの金髪が特徴的だった。どうやらこの男がこのアジトのリーダーらしい。
「見張りがやられた。お前ら、仲間を呼びやがったな」
金髪の男の後ろから、鍵を持った茶髪の男が近づいて来た。そのまま牢屋まで来ると、茶髪の男は牢屋の鍵を回す。
「おっと、妙なことはするなよ。女さえキズモノにしなけりゃ、あとはどうでもいいんだ。うっかり殺しちまうかもしれねぇぜ」
言いながら、リーダー格の金髪の男が毒々しい紫の柄の短剣を取り出す。そうでなくても頭数は向こうが圧倒的に上だ、勝機はない。
「やれ」
リーダー格の男がアゴでさすと、一番手前に座っていた僕が引きずり出された。
「なんだよ」
襟をつかまれたまま睨みあげる僕。無論、なんの効果もない。
「ぐはっ!」
「アキヒト!」
いきなり、茶髪の男に腹をブーツで踏みつけられた。
「吐けっ!! 仲間は何人だ!!」
「……知らないっ! 本当だ!!」
「爪をはぎますか」
奥の男が前に出ようとするのを、金髪の男が制す。
「いや、時間がない。一人殺せ」
「っ!?」
「りょうかいー」
軽薄な声を上げながら、背中の剣を抜く茶髪の男。血走った目が、笑っていた。
「マジかよ……」
茶色の柄の片手剣が、ひょろ長い腕で振り上げられる。狙いは、僕。
ーーーー死ぬのか? こんなところで?
片手剣が今にも振り下ろされようというそのとき、
「敵襲です!!」
駆け込んできた一人の男が、不意に白目をむいて倒れた。




