ガーゴイルの蛇
町の宿屋に戻る頃には、朝方だったはずの空がすっかり夕焼け色に染まっていた。
「結局、今日も昼食抜きになっちゃったわね。今日はもう疲れたし、シャワー浴びたら、夕食食べて、ちゃっちゃと寝ましょ」
「そうだな」
その後はペティの言った通りシャワーに入ったあと夕食を囲み、昨日と同じような時間が流れた。
事件が起きたのは、深夜のことだった。
「ーーーーアキヒト、アキヒト、起きてくださいっ!」
「ううん、なんだよ」
イアンに肩を揺さぶられ、起こされる。
「さっきから隣の部屋がなんだか騒がしくて、眠れないんですよ」
「隣って? ペティたちのいる方か?」
「はい」
「……枕投げでもしてんじゃないの?」
「そんなわけないじゃないですか、絶対おかしいですって」
「いや、でもーーーー」
『キャーーーーーーーーーーッッ!!』
「ペティの悲鳴だ!」
「いきましょう!」
イアンに腕を引っ張られて飛び起き、隣の部屋の扉を蹴破るように入った。
「ペティ、マードラ、どうした!?」
「っ!?」
そこには、それぞれペティとマードラを抱きかかえた二人組の黒ずくめの男たちがいた。
二人ともローブを目深に被っており、人相はうかがえなかった。
「なんだお前ら!?」
僕が叫ぶと、ローブの男たちは開け放たれた窓を一斉に飛び降りた。
「そんな!?」
ここは二階だ。人一人抱えて受け身も取れない状態で飛び降りたら無事ではすまないはず。慌てて窓辺に駆け寄ると、真下に馬車があり、男たち二人はそのほろの上に飛び降りたらしかった。
「ハイヤーーッ!!」
バシンとムチのしなる音がする。ペティたちを抱えた男二人組を荷台に乗せ、馬車は今にも発進しようとしていた。
「僕たちも行くぞ!」
「え!?」
躊躇なく窓から飛び降りほろに向けて落下。遅れてイアンも後に続く。
「なんだ!?」
ホロに落ちて来た僕らに驚き、馬車を操縦する男が野太い声をあげた。
「構うな、ふり落とせ!!」
「ハイヤーーッ!!」
「うわっ!」
再びパシンとムチがしなり、馬のいななきとともに馬車が急発進する。必死にほろにしがみついていた僕らだったが、左右に大きく揺さぶられ、ついに振り落とされてしまった。
「いたたた……」
「待て! った!?」
腰を打ったらしいイアンを放置し、追いかけようとしたところで、足をくじいてしまった。ばたんと前のめりに倒れる僕の視界で、走り去る馬車がどんどん小さくなっていき、あっという間に闇夜に紛れて見えなくなった。
「くそっ!」
地面に拳を振り下ろしても、状況は何も変わらない。ただただ手が痛くなるだけだった。
「あいつら、ペティたちをどうするつもりだ!?」
「あの黒ずくめのローブ、……聞いたことがある。多分あいつらは、『ガーゴイルの蛇』だよ」
「『ガーゴイルの蛇』?」
「うん、人身売買をなりわいにした盗賊集団だ。人をさらって、奴隷として売りさばくんだ!」
「そんな! ちくしょう、よりにもよってなんでペティたちが!?」
「わからない、わからないけど、……昼間のボスゴブリンの死体と、関係あるかも」
「何?」
「あのとき、人の気配を感じたんだ。ひょっとして、あそこで目をつけられたのかも……」
「とにかく、どうすればいい!?」
「わからない……僕だって、ペティたちを助けたいけど、わからないよ」
泣き崩れるイアンの背後に、見知らぬ影がさした。
「誰だ!?」




