素戔嗚尊逝く
素戔嗚尊に取り入った妖精の正体は櫛名田姫である。
そう。彼女は本物の《櫛名田姫》では無い。
妖精なのだ。そして素戔嗚尊は最早この世の者では無くなっていた。
秘術は《傀儡の心臓》で肉体は奪われはしなかったが心臓を喰われ素戔嗚尊の全てを奪っていたのだ。
それは肉体だけに留まらず記憶や精神に至っても全てである。
故に王政もこなし側近すらも欺きのうのうと姫の座を射止めるのである。
姫の立場を利用し傍若無人な態度で贅の限りを尽くしていた櫛名田姫だったが素戔嗚尊の嫁の手前誰も意見する者はいなかった。
素戔嗚尊が人ならざるものである事は火神の一撃で周知の事実になったが、周りには死体と瀕死のオロチ丸、難陀がいるのみ。
死人に口なしとはこの事であろう。
『くそぅ!くそぅ!なんでお前には我が魂喰が効かなぃんだ?お前も私に喰われてしねよぉ?けっけっけっ』
不快な笑いを浮かべ火神に攻撃を仕掛けるが櫛名田姫は魂喰が効かず焦っていた。
しかし彼女の本当の力は魂喰に非ず。
妖精族の本来の強さの源は妖力の強さである。
櫛名田姫は近衛兵300名の魂を全て妖力に変え、自らの力としていた。
今の彼女の妖力は妖精族10人分を溜め込んでいるのだ。
更にオロチ丸と難陀の魂を吸い続け、華奢だった櫛名田姫はパンパンに膨れ上がっていた。
『ぐひひひ、、、この溢れる妖力を見よ。一介の神如き妾の敵ではないわ!喰らえ!《妖樹百連撃》!』
彼女は妖精族の住む妖樹海の樹々を異世界召喚し、妖樹槍の100連撃を放った。
流石に火神も腕や足に数回突き刺さり体から出血し始める。
穴の空いた腕や足からは紫の煙が発生する。
どうやら毒素の含む樹液を体内に注がれたようだった。
「くっ、、、目が、、、見えにくい、、、」
『ぐひひひひひ、、、その毒は神経毒さぁ。徐々に神経を殺し貴様は体内から腐り死ぬのだぁーひゃははははは!』
『火神様!大丈夫ですか、、、?我もそちらに、、、、』
『那岐様!くそ、、、僕が助けなきゃ、、、う、、うう、、、』
オロチ丸と難陀も魂喰によるダメージで動けなくなっていた。
しかし火神の目は死んでいなかった。
「、、、これは、、、キツイけど、、、木って火に弱いはず、、、よし、、、」
火神は残る全ての力を込めて詠唱する。
「我は火を司る火之夜藝速男神なり。カグツチの名により命ずる。冥界の守護者《滅炎龍ヴァルバリー》よ。我が肉体之左手を糧にその姿を現せ!召喚!」
火神はこの最大のピンチにカグツチの記憶の一部を呼び覚まし、冥界の守護者たる邪竜を自らの左手を生贄に召喚したのだ。
それは決して最善の策では無かった。
しかし櫛名田姫を圧倒する滅炎龍を召喚する事で仲間を護ることが出来ると直感的に感じたのだ。
そして、、、、
『いやぁぁぁぁぁーーーーー』
滅炎龍ヴァルバリーの滅びの炎で櫛名田姫は一瞬で消し炭になる。
その隙に火神は飛行で鳥籠に囚われている夜叉姫の救助へ向かう。
「夜叉姫?大丈夫?」
『、、、は、、、はい、、、大丈夫です!まぁ、、、、アナタハココデシヌノダケド!!!』
夜叉姫は急に体を漆黒の瘴気で包むと懐に隠し持っていた短刀で切りつけてきた!
どうやら、、、夜叉姫は偽物の様だ。
夜叉姫の放った斬撃は火神を捉えることは無かった。
しかし勢いそのままで地上にいるオロチ丸へと矛先を変える。
『死ねぇぇぇぇぇぇ!!!憎い憎い憎い憎い!!!龍など全て殺してくれるわーー!』
キェェェェェェエエエエエィィィィーーー
奇声を上げながら切りかかる。
しかしオロチ丸は酒呑童子との約束の手前直ぐに偽物と判断して倒す訳にはいかないのだ。
『くっ、、、体が重い、、、普段の僕ならこんな雑魚なんか無力化は容易なのに、、、』
オロチ丸は先程の櫛名田姫の魂喰でのダメージがまだ残っていた。
火神も毒素が肉体を蝕み始め、穴の開いた箇所から肌は紫に変色していた。
しかも滅炎龍の召喚によって生贄に使った左手は無くなり片手状態である。
滅炎龍は夜叉姫を睨みつけるが俺の命令を待っていた。
素戔嗚尊は櫛名田姫が滅んだことで不死の呪いが解け、体が崩壊を始めていた。
うがががががぁぁーーーー、も、、もう、、、ご、、、ごろ、じで、、ぐれぇ、ぇぇーーーー
素戔嗚尊は液状化し始めるが不死の呪いの影響か中々死ねないようだった、、、
火神は滅炎龍に素戔嗚尊を消滅させる命令を下す。
せめてもの救いを与えるためだ。
「冥界の守護者滅炎龍よ。素戔嗚尊を瞬く間に冥界へと送り届けよ!」
素戔嗚尊は冥界の炎に焼かれ消滅していく。
その炎の中に居た素戔嗚尊は安堵の表情で微笑しているかのように見えた。
それはきっと見間違いであっただろう。火神はそう思っていた。
しかし、素戔嗚尊は自身の無念を晴らしてくれた火神に死ぬ直前、消えゆく意識の中で感謝の意を必死で唱えた。それが伝わるかどうかではなくただ感謝を伝えたかったのだ。
そして、、、
夜叉姫は妖精へと姿を変える。




