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スポットライトの届かない場所で  作者: あかぎ


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18/20

第18話 斉藤さんとお茶会

 干支が変わり世間がお祝いムードに包まれた新年早々に私は外にいた。本当は寒空の下で出歩くなんてまっぴら御免なのだが、相手方と予定が合ったのが今日だけなのだから仕方がない。

 日本全土にある謎の女神がシンボルの喫茶店が今日の目的地である。女子高生たちの会話に登場する飲食店ナンバー1は今も変わっていないのだろうか。


「お待たせしました」


「いえいえ、僕もちょうど今来たところですよ。ささ、どうぞお先に」


 斉藤さんは手慣れた仕草で店の扉を開けて私を案内する。なんか小っ恥ずかしい。暖かく、コーヒーの香りがほんの僅かに漂う店内は私が学生の頃よくお世話になっていた時と何一つ変わりは無い。


「竹鶴さんはなにを頼まれます? 僕は普通のホットにするんですけど」


「じゃあ私もそれで。えーと、値段はいくらでしたっけ」


「いやいや、ここは僕に払わせてください。今日来ていただいたお礼もこめて」


 私に財布を出す隙を一切与えずに、初心者に優しくない注文をこなす斉藤さん。やたら慣れた感じだけど、よく来るのかな。ボックス席ではなく、特徴的な開けた空間はどこに座るのか非常に迷う。結局私たちは窓際の一番端の席に腰を降ろした。


「…………」


 えーと、何話そうかな。仕事の話がぱっと思い浮かんだけれど休日に、それも新年早々に話題に出すのはどうなのだろうか。


「竹鶴さんの服かっこいいですね。黒と白ですっきりまとめられていてセンスがあるっていうか。背も高いですし、モデルさんと間違われることもあるんじゃないですか?」


「そ、そんなことないですよ」


 やっぱり「かっこいい」か。本音は「かわいい」方が好きなんだけど。けど、みんながこういった服装が似合うと言ってくれるなら、こういう系統の服を着るのが正解に違いない。


「服に気を遣ってる人は社会人として素敵です」


 恥ずかしげもなく、そんなセリフを言われてむずむずする。気づかれぬようにそっとコーヒーを一口。


「竹鶴さんは趣味とかあります? 背が高いのでバスケとかバレーの経験ありそうですけど」


「スポーツ観戦はしたことないかも。しいて言えばアイドルの応援、ですかね。最近は仕事が忙しくてあまり見れてないですけど」


「奇遇ですね! 僕もアイドル好きなんですよ。推しのグループとかいます? 僕はノヴァという韓国のグループが好きなんですけど」


 本当にアイドルが好きなようで斉藤さんの体が前に乗り出す。ちなみに斉藤さんが挙げたノヴァというのは韓国のトップアイドルであり、パステルリボンと並んで世界的に有名なグループである。


「私はパステルリボンの京華さんが……好きでした」


「好きでした?」


 私の言葉に違和感を感じたのか斉藤さんは首を傾げる。なんと答えればよいのか分からず、再びコーヒーをひとすすり。ほのかに苦い味が口の中に広がる。


「えーと、例の件で……」

「あー、大変でしたよね。推しにああいった記事が出てしまうと。まあ間違いを犯してアイドルが成長する姿もファンからしたら応援しがいがあるんじゃないですかね。あはは」


 まさか目の前の私が事件の当事者だと知るはずもなく、斉藤さんは勘違いした様子で笑った。やっぱり私と京華の恋は間違い……だったのだろうか。


「そうかもしれないですね」


 そう言いながら心のどこかで違う思いがある。ダメだ、私と京華の関係を続けるのは間違いだった。そう認めれば全部楽になる。


「竹鶴さん、どうしました?」


「……っ、すみません。つい考え事を」


 ダメだ、今日は楽しまなきゃ。そして過去を上書きするんだ。テーブルの上に再び神経を戻した時、斉藤さんのコーヒーに視線が吸い寄せられる。

 あれ、一滴も減っていない。喫茶店で注文を受けたら最初に一口飲むのは全人類共通の習性のはず、という私の偏見まみれの思考がわく。


「斉藤さんはコーヒー飲まないんですか」


「うっ。今からの、飲みますよ。飲みますからね⁉︎」


「どうぞ?」


 なぜ私に確認するんだろう。昭和の顧問じゃあるまいし水分補給はご自由にしてほしものだ……ってまさか。


「斉藤さんコーヒー飲めないんですか?」


「ま、まさか。コーヒーが苦すぎて飲めないのに、背伸びしてコーヒーを買ってしまったと。そんな小学生みたいなこと、あ、あるわけないじゃないですか。」


 図星だ。あまりにも分かりやすくて、笑ってしまう。そつなく仕事をこなすという印象だったのだけれど、もしかしておっちょこちょい?

 無理ならやめとけばいいのに。案の定、覚悟を決めて飲んだ途端「に、にがっー」と涙目になる。この人……意外と面白いかも。


「斉藤さんって意外と面白いんですね」


「それって褒めてます……?」


 斉藤さんは苦虫をかみつぶしたように、しかめっ面でコーヒーをテーブルに置いた。もうコーヒーには一切手を付ける気はないようだ。もしかしたら、今日は想像以上に楽しい会になるかもしれない。少しだけ中身の減ったコーヒーカップを見ながら、そう思った。

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