離す気はない
ある日の縁側。
サイガが、茶を片手に腰を下ろした。
「ねえ、ユーリス。
なんかすごい噂聞いたんだけど」
向かいに座るユーリスが、ちらりと視線を向ける。
「ユーリス様の恋人、
蒼の総大将まで惚れさせたって。
……何かあったの?」
その瞬間、
ユーリスの眉間に皺が寄った。
「……ユイカは気づいてない。
戸惑っていただけだ」
低い声。
それ以上は言わない。
風が、二人の間を抜けていく。
「ケルヴィンだっけ?
あいつとも、いつの間にか仲良くなってたみたいだし」
サイガが肩をすくめる。
「ほんと、予想外のことばっかりするよね。
ユイカって」
一瞬の静寂。
やがて、ユーリスが口を開いた。
「……ユイカが、俺を選んでくれる限り」
赤い瞳が、まっすぐ前を見据える。
「離す気はない」
静かな声だった。
けれど、その響きだけで十分だった。
サイガは小さく息を吐く。
「……まあ、頑張りなよ」
遠くで、
鴉が一羽、鳴いた。
ユイカの物語はKDP版『無口な将軍は、戦場で覚醒した私を離さない』にも収録されています。
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両想い後のふたりや蒼の國編なども加筆しています。
気になる方はどうぞ。




