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「あ、あぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッ!!!」
ティルミお嬢様の悲鳴が鼓膜を突き破りそうになる。
彼女の記憶をこの目で見たから、少しわかる。どれほど、彼女が悲しみと絶望を背負っているのか。
死にたくなるのだってわかる。
それでも、僕は――。
「来ないでッ!」
ティルミお嬢様のいる場所に行こうした途端、邪魔が入った。
繭の動きと彼女の感情は恐らく連動している。
ティルミお嬢様を覆っている繭が刃物のように鋭く変形して、襲いかかってきたのだ。
なので、身を守るように〈光の刃〉を振るう。
「来ないでッ! 来ないでッ! 来ないでッ!」
何度も何度も僕を近づけさせないように刃物を飛ばしてくる。
それでも、僕は懸命に近づこうと〈光の刃〉を振るう。
「もう、嫌なの! 死にたいの! 見たんだからわかるでしょ!」
そう言って、彼女は僕のことを拒む。
その証拠として、鋭利にとがった繭を僕に飛ばしてくる。
「確かに、わかるよ」
鋭利にとがった繭を弾きながら、僕は彼女の言葉を肯定した。
「君が味わったのは、想像する限り最も深い絶望だ」
「そうよ。あれだけ疎まれて、憎まれて、罵られて。もう、嫌なの! 生きる意味もなにもかも失って、もう生きている意味がないの――ッ!」
確かに、そうだ。
彼女は国王になるという使命のために、ただ愚直に生きてきただけだ。
本来だったら聖剣に認められた彼女は国王に就任するはずだった。
それを国王陛下に簒奪され、幼い彼女は幽閉された。
そのまま死ぬはずだった彼女はリグルット家に陰謀により助けだされた。
リグルット家にとって、彼女の価値は国王になるということだけだった。
だから、彼女は頑張った。
誰よりも、がんばってがんばってがんばってがんばってがんばってがんばって――国王になろうとがんばってきた。
そして、国王になる後一歩のところで、最悪な形ですべてを破壊された。
国も家族も生きる意味もなにもかも破壊された。
僕だって、同じ目にあったら、彼女と同じ選択をしていたかもしれない。
「君が死にたいのは痛いほどわかるよ」
こんな目にあったら死にたくなって当たり前だ。
生きる意味を失って当然だ。
「じゃあ、なんで、私が死ぬのをさっきから邪魔をするのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」
喉が掻き切れるんじゃないかってぐらい大きな叫びだった。
邪魔をする理由か。
そんなの一つしかない。
だって――
「君のことが好きだから」
ただ、それだけだ。
「なに、それ……」
彼女の声が途切れ途切れになる。
「君のことが好きで好きでたまらなく好きだから、君が死ぬのは許容できない。だって、僕と一緒に生きて欲しいから」
「ち、違う、そんなの……だって、おかしい」
「君が、絶望したのはわかるし、それで死にたいのもわかる。だから、これは僕のわがままかもしれない」
「い、いやだ……。こないで」
「だから、君がいくら拒絶しようとも、僕のためだけに君は生きてもらう」
暴論もいいところだ。
理屈もなにもあったもんではない。
ただの僕のわがまま。
だが、僕が彼女を助ける理由にこれ以上のものはない。
「ふざけないでッ!」
「ふざけてない! 僕は本気だ!」
「嘘よ! 私は誰からも嫌われているのよッ!!」
「だから、どうした。世界中が君を憎もうが僕の気持ちは変わらない」
「私、死なないと魔王が復活して人類が滅亡するしもしれないのよ!」
「関係ない」
「関係あるわよッ!」
「関係ない! 君と一緒にいられるなら、人類が滅ぶことなんて些細なことだ」
「なによ、それ……っ」
「人類の破滅と君を選べと言われたら、僕は迷いなく君を選ぶ」
「そんな、おかしいっ」
「そうかもしれない。けど、僕の気持ちは本物だ」
気がつけば、目と鼻の先に彼女はいた。
「好きです。だから、僕とつきあってください」
気がつけば、僕は告白していた。
恥ずかしいのはもちろんだが、拒絶されたらどうしようかという不安がこみあげてくる。
てか、こんなときに、告白なんてしてよかったんだろうか?
するとしても、もっと落ち着いたときにすべきだったような気もする。
こんな唐突に告白されたら、誰だって困るに違いない。
「ず、ずるいよぉおおおお、こんなの、ずるいよぉおおおおお」
そう言って、彼女は泣き崩れた。
なんで泣いたのかわからず当惑する。まさか、告白がそれほど嫌だったなんてこともありうる。
「その、大丈夫ですか?」
泣き止むのをしばらく待ってから、僕はそう尋ねた。
「だって、私も、あなたのこと好きだから、そんなこと言われると、死のうとしていたのに、なんかおかしくなっちゃうじゃない」
泣き止んだ彼女はそう口にするのだった。
◆
「本当にいいの……?」
しばらくして、彼女が落ち着きを取り戻した途端、そう聞いてきた。
「な、なにがです?」
「つきあったりしたら、私あなたにすごく依存するかも」
「えっと、お嬢様に依存されるなら、むしろ嬉しいですけど」
「ものすごく依存するよ。四六時中、側にいてくれないと私発狂するよ」
「側にいれるのはご褒美なので、むしろ嬉しいぐらいですけど」
「それに私嫉妬深いよ。他の女があなたに近づくだけでも許せないかも」
「僕はお嬢様さえいればいいので、別に大丈夫ですけど」
「……そうなんだ」
彼女は押し黙る。
気まずい沈黙が二人の間を流れた。
「えっと、僕たちはつきあうってことでいいんですよね?」
ちゃんと明言していなかった気がするので、一応確認しておく。
「うん、アメツが私のこと好きで好きで仕方がないみたいだから、その、つきあってあげる」
改めてそう言われると、嬉しさがこみ上げてくる。
「お嬢様ぁー!」
だから、つい、彼女にだきついてしまった。
「そ、その、は、恥ずかしいから、は、離れて……っ」
と、彼女は真っ赤にさらながら、悶えていた。
その表情がまたかわいいかったので、彼女を抱き寄せていた腕が余計強くなってしまう。
「おい、侵入者がいるじゃないか?」
第三者の声だった。
振り返ると、そこには一人の男が立っていた。
見たことがある。
それは、第一王子のケネスト・ナーベル。
「ふむ、わたくしたちが不在の間に侵入を許してしまったようですねぇ」
その声は第一王子の後ろから。
そこには、異形の姿をした魔族が立っていた。




