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 王都にドラゴンが現れてからは、街はパニックに陥った。

 逃げ惑う人々をドラゴンは蹂躙していく。

 ティルミお嬢様たち貴族は兵を募って、ドラゴンを討伐しようとするが、全く歯が立たない。


『なによ、これ……』


 呆然とするティルミお嬢様。

 目の前には、火に包まれた街があった。


『もう、終わりだ……』


 誰かがそう嘆く。そして、誰もそのことを否定しなかった。

 誰の目にもそれは明らかだった。

 この街はじきに滅ぶ。


『ティルミ、お前のせいだぞ。お前が王位を簒奪しなければ、こんなことにはならなかったッ!』


 そう叫んだのは、国王陛下だった。

 混乱に紛れて、捕縛から逃れたらしい。


『いいか、こんなことしなければ、この国は安泰だったんだよッ!』


 国王陛下は下卑た表情でティルミお嬢様をそう罵る。


『あぁ、そうだ。こんなことになったのはティルミ陛下のせいだッ!』

『王位を簒奪しなければ、こんなことにならなかったッ!』

『そうだ、お前のせいだ』

『この売国奴めッ!』


 国王陛下が発端となった罵倒は段々周囲に伝播していく。さっきまでは味方だったはずの家臣までもがティルミお嬢様のことを罵っていた。

 そして、気がつけば、昨日まではティルミお嬢様を新しい君主として受けいれていた民衆までもがティルミお嬢様のことを口々に罵り始める。


『お前のせいだッ!』

『この簒奪者がッ!』

『死ねやーッ!』

『ふざけんなー!』

『余計なことしやがって!』

『お前のせいで、この国は滅ぶんだッ!』

『なにもしなければ、こんなことにならなかったのにッ!』


 本当に憎むべきは魔族のはずなのに、なぜかお嬢様が悪意の標的にされている。

 魔族という圧倒的暴力を前にして、その責任を一人の少女にもとめることで心の平穏をもとめようとしたのだろうか。


『あがっ!』

『助けてくれ……ッ』

『うわぁああああああッ!!』


 襲ってきた魔族はドラゴンだけではない。

 人型の魔族が何体もやってきては、次々と民衆たちを殺していく。それは、さっきまでティルミお嬢様に悪意をぶつけてきた者たちも容赦なく殺していく。


『これは、お前のせいだぞッ!』


 中にはそう叫びながら、死んでいく者もいた。


『あ、あ……わ、私のせいなんだ……』


 気がつけば、ティルミお嬢様はそう言って、地面に崩れ落ちていた。


『私のせいで、こんなことに……』


 これだけの悪意をぶつけられて壊れないはずがなかった。

 見ているだけのはずの僕でさえ、背けたくなるほど最悪な気分に陥っている。

「ティルミお嬢様のせいなんかじゃない」と、叫びたい衝動に駆られるが、見せられているは過去の記憶だ。僕がなにを言ったところでも意味がない。


『ティルミ! お前はここで大人しく、街が滅ぶ様を見ておくんだな』


 魔族を連れ歩いた第一王子がティルミお嬢様を捕らえてはそう言った。


『なんで! なんで、私は殺してくれないのッ!』


 次々と民衆たちが殺されていく中、ティルミお嬢様だけは殺されない。


『俺もよくわからんが、魔王を復活させるのに、お前が必要なようだ』


 そう第一王子が説明すると、隣にいた魔族がティルミお嬢様に対し、呪文を唱えた。



「は――っ」


 気がつけば、時間が飛んだかのように場面が切り替わっていた。

 見ると、廃人のような姿になったティルミお嬢様が床に転がっていた。

 ティルミお嬢様を魔王復活の触媒にする魔術的な儀式はすでに済んだのだろう。


『そうだ、お前にいいものを見せてやる』


 呆然としているティルミお嬢様に第一王子が語りかける。


『起きろ。これから楽しいことが起こるっていうのに、見なかったら損するぜ』


 反応を示さないティルミお嬢様にいらついた第一王子がその腹を蹴り飛ばしながら、そう言った。


『来いよ!』


 そう言って、連れてこられたのはティルミお嬢様の義理の父親のフアン侯爵と、母親のアルムデナ侯爵夫人、そして弟のダニオール。

 全員、魔族によって捕らえられている。

 これからなにが起こるのか察知したティルミお嬢様が飛び跳ねるように起き上がる。


『や、やめてッ! やめてって――』

『おい、動くんじゃねぇよ! ここで大人しくしてろ』


 家族のもとに駆け寄ろうとしたティルミお嬢様を蹴り飛ばして動けないようにする。


『お願いだから、やめてッ! お願いだからっ! ねぇ、お願いします。お願いだから……ッ』


 それでも必死に彼女は懇願する。

 けれど、現実は無情だった。


 グサッ、と血が飛び散る音が聞こえた。

 凄惨な光景が繰り広げられた。気がつけば、アルムデナ侯爵夫人とダニオールの遺体が転がっていた。


『あ……っ、あぁ……』


 気が狂ったんじゃないかというぐらいティルミお嬢様は動揺していた。

 次は、父親のフアン侯爵の番。


『あのとき、お前を助けるんじゃなかった』


 そう言って、フアン侯爵は死んだ。


「あ、あぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッ!!!」


 割れんばかりの悲鳴が鼓膜を突き破った。

 記憶の中のティルミお嬢様が悲鳴をあげたのではない。

 現実の彼女が悲鳴をあげていた。


 そうだった。

 僕は今、彼女を救うべく、黒い繭の中を進んでいたのだ。

 知らずして繭の中枢まで来ていたらしく、目の前には悲鳴をあげているティルミお嬢様がいた。

 彼女の記憶の中を旅するのは、もう終わりのようだ。



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