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「まだ、先が続いているのか……」
さっきから黒い繭の中を切り開きながら進む度に、ティルミお嬢様の記憶が蘇っていく。
けっこう進んだんだけどな。
まだまだ終わりは見えないようだ。
ふと、見ると、黒い部屋の中に新しい映像が映し出される。
どうやら次の記憶のようだ。
『私は国王にならなくていけない』
ティルミお嬢様の頭の中ではその言葉が常に反芻していたようだ。
私は国王にならなくてはいけない。だから、どんな努力も惜しまない。
国王にならなくていけないのだから、勉強ができなくてはいけない。
国王にならなくていけないのだから、魔術が優秀でなくてはいけない。
国王にならなくていけないのだから、人を魅了するような美しい見た目にならなくてはいけいな。
国王にならなくていけないのだから、どんな人にも優しく振る舞うことで、その人の人心を掌握しなくてはいけない。
国王にならなくていけないのだから、完璧な人間になる必要がある。
彼女は国王になるために、あらゆる努力を惜しまなかった。
『ティルミ、どうやら君の存在が国王陛下にバレてしまったようだ。恐らく、近いうちに、君を捕らえるべく襲撃を図るだろう』
『では、わざと捕まろうと思います』
『ふむ、つまり、どういうことかね?』
『国王になる以上、王都の人々に支持される必要がありますので。そのためには、私自ら王都に行くのが一番かと』
『だが、そんなことをしたら、国王が君を処刑しようとするかもしれない』
『そうなっても大丈夫なように、王都に私の味方を配置しているんです』
そうティルミお嬢様が言うと、フアン侯爵は笑い出した。
そして、一言こう口にした。
「やはり、私の見立ては間違ってなかった。君こそ、王になるべき人間だ」
と。
それからもフアン侯爵とティルミお嬢様による計画に関する話し合いが続く。
『そうだ、君が連れてきた魔術師、アメツくんだったかな』
ふと、僕の話題が出たことに驚く。
『彼は私の部隊が預かってもいいかな。彼はすごい魔術師なんだろう? だったら、戦争になっても活躍してくれそうだ』
『え、えっと、彼に関してなんですが……』
今までハキハキと発言していたティルミお嬢様が僕の話題になった途端、言いづらいことでもあるのか言いよどむような態度になった。
『その、彼をこの戦争に参加させるつもりはありません』
『ふむ、なぜなんだい? 見たところ、彼は君にすっかり心酔しているようじゃないか。君の助けになるなら、どんな協力だって惜しまないと思うがね』
『ただの私のわがままです』
そう言って、ティルミお嬢様は苦笑いをする。
すると、フアン侯爵はなにかを納得したように『そういうことなら、わかった』と頷いた。
それから、場面は次々と入れ替わった。
僕がクラビル伯爵の屋敷にいる間、ティルミお嬢様は激動な毎日を過ごしていたのだ。
王都に軟禁されている間は、市民から支持を得るべく演説をし、ティルミお嬢様が本当の王族だという噂を流すべく内部工作して、地盤を固めていった。
国王陛下がティルミお嬢様を処刑しようとしたときも、様々な人の協力を得ることで、王都から脱出した。
『大丈夫よ。すべてが計画通りに進んでいる』
彼女は口癖のようにそう言うことが増えた。
どんなことが起きても、計画通りだと言いながら、冷静に対処する。そうやって、王位を奪還するために、一歩一歩進んでいった。
内乱が勃発しても、彼女は率先して指揮をして、味方の勝利に貢献した。
そして、最後には、王都を占拠しては、国王陛下を捕らえ、護国卿に就任した。
そう、ここまではエネから伝え聞いた情報と一致している。
この後、なにが起こったのか、ティルミお嬢様から多少は聞いたが把握しているとは言いがたい。
それは、ティルミお嬢様が護国卿に就任してから一ヶ月後だった。
黒い霧が王都全域を覆ったのだ。
『おい、なんだ、この霧は!?』
『今すぐ、原因を解明しろ!』
ティルミお嬢様の側近らしき大人たちは混乱していた。誰もが、今なにが起きているのか、わかっていないようだった。
『ふっはっはっはっ、ケネストのやつ、やりおったな――ッ!』
そんな中、一人だけ事態を把握している者がいた。
捕らえられた国王陛下だ。
『知っているなら、すべて吐いてください』
ティルミお嬢様の言葉に国王陛下はニタリと笑う。
『ケネストが聖剣を穢したのさ。この黒い霧は瘴気だよ。まもなく、恐怖の大王がこの国を滅ぼすのさッ!』
ケネスト。それは、第一王子のことだ。
第一王子が聖剣を穢したことで、瘴気が王都を覆ったのだ。この瘴気は魔族を異界から呼び寄せる力がある。
『グォオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!』
獰猛な雄叫びが街の中を木霊した。
見ると、街の上空に巨大なドラゴンが顕現していた。




