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 それからティルミお嬢様の手足を縛っていたロープを外し、猿ぐつわも外す。

 ひとまず、目を覚ますまで待とう。

 彼女からなにがあったのか聞かなくては。

 いや、その間に彼女に食べさせるための食料を調達したほうがいいだろうか。

 といっても、彼女をここに残すわけにもいかないし。

 そうこう考えているうちに、ティルミお嬢様がゆっくりと瞼を開こうとしていた。


「あぁああああああああああああああああああああああああッッッ!!」


 甲高い叫び声だった。

 あまりにも大きな悲鳴に鼓膜がおかしくなる。

 それがティルミお嬢様の口から発せられたことに気がついたのは数秒後だ。


「お嬢様……?」

「ごめんないッ! ごめんないッ! ごめんないッ! ごめんないッ! ごめんないッ! ごめんないッ! ごめんないッ! ごめんないッ! ごめんないッ! ごめんないッ! ごめんないッ! ごめんないッ! ごめんないッ!」


 お嬢様は全身をガタガタと震わせながら、なにかに対してひたすら謝罪の言葉を口にする。


「お嬢様、大丈夫ですか!?」


 なんかお嬢様を覚まさないと、そう思い、語りかける。

 すると、ビクッと体を上下させ、今度は半狂乱になって泣き叫び出す。


「やめてください! やめてください! ごめんなさい、謝るから許してください! お願いします! なんでもしますから!」


 お嬢様はなにか怯えるようにそう口にする。


「お嬢様、僕です。アメツですって」

「あ、あぁあああああああああああああああああッッ!!」


 何度も語りかけて気を狂ったとはがりに彼女はただひたすらわめく。


「お嬢様、落ち着いてください」


 何度も何度も語りかける。

 それでも彼女は僕の存在に気がつかない。


「失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した」


 泣きわめくのに疲れた彼女は今度はブツブツと虚ろな目でそう口にし始める。

 どうしたらいいんだ?

 気が狂ってしまったお嬢様を前にして、僕はただひたすら狼狽していた。

 お嬢様になにがあったのかわからない。

 想像を絶するなにかがあったのは確かだ。

 せっかく生きて再会できたのに、お嬢様がこの調子ではなんの解決にもなっていない。


「お嬢様、落ち着いてくださいッ! 僕です、アメツですッ!」


 結局、僕にできることは語りかけることしかなかった。

 そして、少しでも落ち着かせるために彼女を胸に抱き寄せる。


「落ち着いてください、アメツです。もう、大丈夫だから、安心してください」


 そうやって何度も何度も何度も何度も何度も話しかけて、そうやって――


「……アメツ?」


 彼女は僕の存在に気がついてくれた。





「お嬢様、落ち着きましたか」

「うん、落ち着いた。でも、もう少しだけこうしていたい……」

「お嬢様はそう望むなら、僕はかまいませんよ」


 彼女がそう言うので、僕たちはもう少しの間お互いに抱きついていた。


「アメツ、私ね、なにもかも失敗しちゃった……」


 落ち着きを取り戻した彼女がゆっくりとそう口にする。

 肯定も否定もできなかった僕はただ黙っていた。

「なにがあったのですか? お嬢様」そう言おうとして、やめる。

 今の彼女にそれを聞くのはひどく酷なような気がしたから。


「魔族にとって勇者の血は価値があるんだって。だから、私だけ生かされちゃった」

「……そうなんですか」


 彼女の言葉どう反応すればいいのかわからなかったので僕は曖昧に頷くしかなかった。


「ねぇ、これを見て」


 ふと、彼女は着ていたドレスの上着をめくろうとしていた。

 いきなり服を脱ごうとするので困惑する。彼女は一体どいうつもりなんだろうか。

 と、その答えはすぐにわかった。 


「魔王復活の触媒になった証だって」


 そう言って彼女は下腹部にある黒い入れ墨が見せた。


「魔王復活……?」


 言葉の意味がわからず困惑する。


「ねぇ、アメツ。私、このまま生きていたら、またたくさんの人に迷惑かけちゃう」


 そう語る声は、今にも泣き出しそうな声だった。

 魔王復活がどういうものか、詳しくはわからないが、このまま時間が経てば、魔王が復活してしまうということなんだろう。


「だから、お願い。私のことを殺して――」


 それは、あまりにも悲痛な訴えだった。

 同時に、心の底から出た願いだった。


 どうすべきなんだろう?

 いや、僕の答えは決まっている。

 答えは一つしかない。

 だから、僕は、口を開いた――。


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