―42―
「結論から言いましょう」
エネがもったぶった態度でそう言う。
瞬間、僕の心臓が大きく高鳴った。
もし、密書の内容がティルミお嬢様の戦死だったらどうしようか? そう書かれていたら、間違いなく僕は発狂する。
「ティルミ陣営は戦いに勝利し、王都を掌握。その上、現国王陛下を捕縛。それから、ティルミ・リグルット嬢は護国卿に就任したとのこと」
わからないことがいくつかあるが、ティルミお嬢様が生きているのは間違いないようだ。
よかったぁ。心の底から安堵する。
「ティルミお嬢様が勝ったということでいいんですよね?」
「ティルミ・リグルット嬢が実質的に権力を握ったから、そういう認識で間違いないかと」
「よかったぁ」
そう呟きつつ、その場に崩れ落ちる。
安心しすぎて足腰に力が入らない。
「ただ、まだ安心することはできない。第一王子を中心とした国王軍が反撃の準備をしているみたい。なので、戦争が終結したとは言いがたいのかと」
「そうなんですか」
じゃあ、ティルミお嬢様に会えるのはもう少し先になるかもしれない。
とはいえ、ティルミお嬢様の陣営が有利なのは非常に喜ばしいことだ。
「もう少し詳しくお話をきかせてください」
「もちろんかまわない」
ティルミ陣営と国王軍の戦いは互いに一進一退の攻防が続いていたらしい。けれど、全体的にティルミ陣営のほうが優勢だったらしい。
そして、王都周辺での決定的な勝利を契機に、ティルミ陣営は王都を掌握したとのことだった。
ただ、いきなり国王を処刑してティルミお嬢様が女王に就任するのは、簒奪者として見られてイメージが悪いので、ひとまず国王を捕縛するに留め、護国卿という国王とそう大差ない権力を持つ役職に就任したとのことだ。
あとは、国王の威厳をたらしめる聖剣さえ手にすれば、ティルミお嬢様が女王として君臨できるが、まだその聖剣が見つかっていないらしい。
それと、王都からうまく逃げ切ることができた第一王子が、軍を組織しているらしく、反撃する準備を整えているとのことだった。
ついでに、第一王子が聖剣を持って逃げたという噂もあるんだとか。
だから、ティルミお嬢様が権力を握ったとはいえ、予断を許さない状況下ではあるらしい。
「まだティルミお嬢様に会いに行くのは早いですよね……」
「エネは、あなたとティルミ陛下の関係をよく把握してないから、なんとも言いがたいけど、まだ王都は混乱しているはずだから、落ち着くまで待ったほうがいい気がする」
「……そうですよね。待つことにします」
そう返事をしつつ、はやる気持ちを抑える。
早く、ティルミお嬢様に会いたい。
◆
ティルミお嬢様が護国卿に就任したと聞いてから、1ヶ月ほど経った。
まだ王都は混乱しているらしく、落ち着かない日々を過ごしていた。
とはいえ、ティルミお嬢様のことだ。きっと、なんとか平定するに違いない。
「王都との連絡が途絶えた」
あるとき、ふと、エネがそう口にした。
「どういうことですか?」
「わからない。ただ、王都にいる仲間になにかがあったのは間違いない」
「心配ですね」
ティルミお嬢様が心配だ。
なにか不測の事態でも起きたのだろうか。
助けてに行くべきか?
とはいえ、ティルミお嬢様に信じて待ってくれと言われてしまった手前、その期待を裏切るのも気が引ける。
どうしたものか? と悩んでいたとき、エネが、
「誰かがこの家に近づいている」
と、口にした。
「え?」
「ちょっと確認してくる」
エネはそう言って、扉を開けて外にでた。
ほどなくして外からエネが戻ってくる。
その肩には人が抱えられていた。
その人は、どうやら怪我をしているようで血を流してた。その上、立つのも難しいようで、エネによって支えられている。
「って、ナルハさん!?」
そう、エネが肩に抱えていたのはナルハさんだった。
「不埒物……」
ナルハさん僕の顔を見て、そう呟く。
その目つきはどこか虚ろげだ。
そういえば、ナルハさんは僕のことを不埒者と呼ぶんだった。
「どうしたんですか?」
そう聞くと、彼女はこう口にした。
「恥を忍んでお願いします。ティルミお嬢様を助けてください」




