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「やっと、見つけた……」


 後ろから話しかけられる。


「わざわざ僕を追いかけてきたんですか……」

「あなたにちゃんと言ったはず。スパイとして、あなたの情報を集めたいと」


 そこにいたのはスパイのエネだった。

 戦争の混乱ではぐれてしまったが、まさかこうして僕を追いかけてくるとは。


「フラれた人みたいな顔をしている」


 ふと、エネは僕の顔を見てそう言う。


「そんなこと言われなくてもわかっていますよ……」


 そう言いつつ、自分の顔を撫でる。

 自分がどんな顔をしているのか見ることできないが、きっとひどい表情をしているんだろう。


「それで、これからどこに行くの?」

「そうですね。帰る場所をなくしてしまいましたので……どうしたものか」


 ティルミお嬢様と別れてから、二つの陣営の争いを遠目に見ながら、それらから離れるように歩いていた。

 といっても目的地がないので、ただ闇雲に歩くしかなかった。

 なにせ、主人のクラビル伯爵をこの手で殺してしまったのだ。伯爵家に戻るわけにいかない。


「だったら、私の家があるので、ひとまずそこで暮らすのはどう?」

「え……っ、いや、流石に悪いですよ」

「これはエネにとってもメリットのあること、だから遠慮はいらない」


 ジッとエネは僕のことを見つめ返す。

 エネは、スパイとして僕のことを観察したいようだが、正直、買いかぶり過ぎな気もする。


「そういうことなら、お願いします」


 ひとまず落ち着くまで泊めてもらって、独立できそうだったら、いつでも家を出て行ける準備をしておこう。





 エネの家はクラビル伯爵領の中にあった。

 そのため、また何日もかけて歩く必要があった。まぁ、僕の魔術〈加速〉があるので、比較的短い期間で向かうことができたのだが。


「ここが私の家」


 エネが指さしたのは、特筆すべきこともないひどく一般的な家だ。


「お邪魔します」


 中に入ると、生活感のない部屋が広がっていた。

 物が極端に少なく、生活に必要最低限なものしか置かれていない。


「二人で暮らすことを想定していなかったから、色々と足りないけど」


 そう言って、彼女はベッドに腰をおろす。


「本当に僕がここに住んでもいいのですか?」

「最低限のお金も持っていないくせに、よく遠慮なんてできるね?」


 お金持っていないのはその通りなんだけどさ。

 ひとまず仕事を探して、最低限のお金を貯めたら出て行こう。





「父上ッ! また敗戦されたのですか! このままだと、賊共に王都を奪われるのも時間の問題じゃないですか!」


 王宮にて、国王陛下に苛立ちながら詰め寄るものがいた。

 国王を詰め寄るなんて無礼なことができる人物など、この世にわずかしかない。

 国王陛下につめよっていたのは、その息子、第一王子のケネスト・ナーベルだった。


「落ち着け」


 それに対し、国王は威厳を漂わせて、そう告げる。


「これが落ち着いていられますかッ! このままだと、王都が奪われるかもしれないのですよ!」


 確かに、第一王子の言うことは最もだ。

 ティルミ陣営の勢いはすさまじいものがあった。

 市民の間でも、このままだとティルミ陣営が王都を陥落させるんじゃないか、という声がちらほらと聞こえるようになった。


「そろそろ最悪の事態を考える頃合いか」


 陛下はぼそり、とため息交じりにそう口にする。

 そして、第一王子の目を見て、こう言った。


「ケネスト、今夜にでも、最低限の兵士たちと共に、聖剣をもって王都を脱出しろ。もちろん、このことは誰にも知られるなよ」

「父上……いくら聖剣を持ち逃げすることができても、王都を奪われてしまえば、意味はないと思うのですが……」


 この国において、聖剣というのは王の威厳をたらしめるものだ。

 とはいえ、限度はある。

 流石に、敗戦続きな上、王都を奪われてしまえば、例え聖剣を持っていても王位を主張するのは厳しい。


「いいか、ケネスト。ワシはお前に期待しているのだ。もし、王都が奪われたら、お前が王都を奪還しろ」

「さ、流石に、それは無茶です! 王位の正当性がこちらにあるとはいえ、王都を奪還されてしまうと、兵力を維持することができません!」


 第一王子の懸念は最もだった。

 だが、国王陛下は不敵に笑みを漏らす。


「これを見ても、同じことが言えるか」


 国王陛下はそう言って一枚の書状を見せる。 

 それを受け取った第一王子は急いで内容を確認する。

 読み終えた第一王子は大口を開けて笑った。


「ふはははははははっ!! そういうことですか、父上ッ!」


 その笑い声はどこまで狡猾で不気味な笑い声だった。


「まさか、父上が魔族とこのような密約をかわしていたとは思いもしませんでしたよ!」


 そう、書状の内容は、王都が奪われた場合、魔族の協力を取り付けるというものだったのだ。


「しかし、なるほど。魔族の力を借りるということは、ティルミは最初から勝てない戦いに挑んでいたということになるではありませんか。こんな残酷な運命ってのがあるんですねぇ!」


 そう言って、第一王子は笑い続ける。

 魔族の力が強力なことをそれだけ知っていた。

 人間がどれだけ束になっても魔族に勝つことはできない。

 そして、魔族というのはあまりにも残酷な生き物だ。

 兵士も一般市民も関係なく、王都にいる人間を容赦なく皆殺しにするだろう。

 もちろん、第一王子の中にも最低限の良心はある。

 市民が無差別に殺されるのが許されないことだって理解している。

 けれど、ティルミ・リグルットに王位が奪われるぐらいなら、魔族の力を借りて王都を焼け野原にしてしまっても、まったく構わないと思えた。


「フフッ」


 第一王子はニヤけていた。

 魔族の手によって王都が奪還されたとき、ティルミ・リグルットがどんな絶望的な表情をするだろうか。

 今から楽しみで仕方がない。



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