―37―
「それで、奴隷はどうするつもりなの?」
伯爵夫人のもとを離れると、エネが近くまでやってきてそう言った。察するに僕たちの話の内容を聞いていたらしい。
「……まぁ、クラビル伯爵のもとに向かう必要はありそうですね」
僕にはクラビル伯爵のほどこした契約魔術がある。
契約魔術がある限りクラビル伯爵の命令に背くことは出来ない。
「合流してどうするの? 内乱に参加するの?」
「どうでしょうかね」
エネの質問をはぐらかしつつ、内心ではどうするか決意していた。
クラビル伯爵に協力することはできない。なぜなら、それはティルミお嬢様の忠義に反することだ。
だったら、やるべきことは一つ。
クラビル伯爵をこの手で殺そう。
◆
「なぜ、エネがここにいるんですか?」
伯爵夫人から命令がくだった僕は早速、合流地点に向かおうと準備を済ませて屋敷の外に出た。
すると、なぜかエネが外に立っていた。
しかも、いつものメイド服ではなく動きやすそうな服に着替えている。
僕を見送ろうとしているわけではなさそうだ。
「エネも一緒についていこうと思って」
「いや、任務はどうしたんですか」
「あの家で集められる情報はだいたい集めたし」
彼女の目的がわからないな。
このまま連れてきて本当に大丈夫なんだろうか。
「まぁ、エネの本音を教えると、このまま屋敷にいるよりあなたについていったほうが価値があると判断したまで」
「どういう意味ですか?」
「それほど、奴隷の魔術に関心があると捉えてほしいかも」
あぁ、なるほど、僕の魔術に関する情報を他国に流そうってことか。
「それにエネを連れて行くと色々と便利」
「例えば、なにをしてくれるんですか?」
「エネが代わりにクラビル伯爵を殺すとか」
と、彼女は声を潜めてそう口にした。
確かに契約魔術による誓約がある以上、僕の手で殺せない可能性が大いにありうる。
「わかりました。それなら一緒に行きましょうか」
仮に、エネを経由して僕の魔術に関する情報が他国に流れても、大した問題にならないだろうし。
◆
クラビル伯爵の手紙に書かれていた合流地点は、クラビル領から馬を一週間で走らせたら着くところだ。
とはいえ、僕の魔術なら三日もあれば着く。
「多分この辺りがクラビル領の領境かと」
先行していたエネがそう言う。
僕は契約魔術でクラビル領に出ることができないという制約を科せられている。
とはいえ、クラビル伯爵が領地の外に出るよう手紙を送ってきた以上、その制約は解かれているはずだ。
と、頭でわかっているもののやはり領境を超えるのは緊張する。
「……どうだった?」
「えっと、なにも問題ないかな」
エネの問いに僕はそう答える。
制約がある場合、それを破った場合激痛が全身を襲うはずだが、その気配はなかった。ということは、クラビル伯爵は制約を解いてくれたのだろう。
「さて、それじゃあ行きますか」
そう言って、先に進む。
クラビル伯爵のいる合流地点はまだ先だ。
◆
「おーっ、アメツ。やっと来たか。これで、我が陣営は安泰だ!」
数日後、クラビル伯爵がいると思われる軍団と合流した。
そして、予想通りクラビル伯爵がいた。
「はい、ご主人様のお役に立てるようで光栄です」
そう言いながら、顔に笑顔を貼り付ける。
さて、こいつをどうやって手にかけようか。




