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「ティルミお嬢様が処刑された……?」


 そう呟きながら、視界が歪むのを意識する。立っていられるなくなった僕はその場にうずくまる。

 やはり、あのときティルミお嬢様を第一王子とクラビル伯爵に捕縛させるのを黙って見ていてはダメだったのだ。


 僕が力を尽くしてティルミお嬢様を守っていれば……。

 いや、僕が奴隷墜ちしてからでも軟禁されているティルミお嬢様を無理矢理にでも脱獄させるべきだっんだ。

 ティルミお嬢様が『なにもするな』と言ったからその命令を守っていたが、そんな命令を聞く必要なんてなかったんだ。

 契約魔術により、クラビル領から出られないとか言い訳するんじゃなかった。

 なんとしてでも王都に行ってティルミお嬢様を救い出す必要があったんだ。


「奴隷、目を覚まして!」


 パチン、と頬をぶたれる音が響いた。

 ビンタをされたとわかる。

 目と鼻の先にエネが立っていた。


「なにか勘違いしているようだけど、ティルミ・リグルット嬢はまだ死んでいない」

「……え?」

「もう一度言うから、よく聞いて」


 そう言って、エネは口を開く。


「国王陛下がティルミ・リグルット嬢の処刑を強行したとのこと。それをきっかけに、反発する民衆が暴徒化。しかも、軍の一部が反旗を翻し、ティルミ・リグルット嬢を王都の外へ逃がしたとのこと。そして、ティルミ・リグルット嬢はリグルット派の貴族たちと合流。これにて、国王陛下とリグルット派による内乱が勃発したとのことです」


 エネの説明を聞いて、ひとまず安堵する。

 ティルミお嬢様はまだ生きている。

 けど、同時にに不安もこみ上げてきた。

 本格的な内乱ってことはティルミお嬢様がいつ戦死してもおかしくないってことだ。


「ティルミお嬢様は大丈夫なんでしょうか?」

「さぁ? それは誰にもわからない」


 そりゃそうだ。この内乱の行方を言い当てる事ができる者なんて存在しないだろう。


「僕はティルミお嬢様の元に向かうべきなんでしょうか?」

「向かいたくても向かえないのでは。その契約魔術がある限り」

「契約魔術を解除する方法に心当たりは……?」

「契約魔術の解除ができる魔術師なんて、ほんの一握りだと思う」


 あぁ、そうだ。僕の契約魔術を解除したティルミお嬢様は特別だったんだ。


「奴隷とティルミ・リグルット嬢の間にどんなやりとりがあったのか定かではないけど――」


 エネはそう言って僕の目をまっすぐ見る。


「主人を信じて待つというのも、従者の立派な務めだとエネは思う」


 そう言われて、はっと気がつく。

 そうだ。

 ティルミお嬢様は誰よりも偉大で寛大なお方だ。

 僕の些細な力なんてなくても、彼女にはどんなこともやり遂げる力がある。

 彼女のすごさを一番知っている僕が彼女を信じなくてどうするんだろうか。


「ありがとうございます」


 目が覚めた僕はお礼の意味を込めてエネに頭を下げる。


「僕はティルミお嬢様を信じて待つことにします」





 ティルミお嬢様を信じて待つと固く決意したというもの、どうしても日々をそわそわして過ごしてしまう。

 といってもそわそわしているのは僕だけではなかった。

 内乱が勃発したことはリグルット家にいる者全員に知れ渡ったようで、使用人たちもどこかそわそわしながら毎日を過ごしている。

 当然、この家の当主であるクラビル伯爵も内乱には参加しているわけだし、その内乱の勝敗によって未来が大きく変わるわけで、誰もが落ち着かないのは仕方が無いことだった。

 ちなみに、クラビル伯爵は国王陛下側についているため、ティルミお嬢様の敵ということになる。


「今日はなにか連絡がありましたか?」


 ふと、使用人でありスパイでもあるエネと顔を合わせたので、そう尋ねる。


「残念ながらありません」

「そうですか……」

「気持ちはわかるけど、連絡なんて滅多に来るものではない。だから、顔を合わせるたびに聞かれても困るかも」

「それは、申し訳ないです」


 そう、連絡なんて滅多に来ないのだ。

 王都からこのグルット家の屋敷まで手紙を運ぶのに、何日もかかる。それに、国内情勢が荒れている現状では、さらに連絡が取りづらい状態だ。

 エネの口から内乱勃発したと聞かされたときだって、実際に内乱勃発したのは一週間前で、一週間後にその情報が僕らまで届いたのだから、連絡をとるのがどれほど難しいことかわかるだろう。

 だから、内乱の戦況がどうなっているのかとか、ティルミお嬢様が無事なのか知りたいことは山ほどあるが、その多くを知ることができない。

 恐らく、この内乱が終結してから、しばらくしてから結果を聞かされるのだろう。


「アメツ、伯爵夫人がお呼びです」


 メイド長のイネスさんが僕を見る度に、そう口にした。

 伯爵夫人が僕を呼ぶのは珍しいことではない。恐らく、いつものように魔物討伐を僕に依頼するんだろう。

 そう思って、伯爵夫人のもとに赴く。


「旦那様の手紙にあなた宛てに命令が書いてありました」


 伯爵夫人は僕の目を合わせずにそう告げた。


「一刻も早く旦那様に合流して、内乱に参加しろとのことです。あなたの魔術ならティルミ・リグルット陣営に大きな打撃を与えられるだろうとのことです」

「……は?」


 なにを言っているのか理解するのに、少々時間がかかった。





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