おかわりとおかえり
四方を壁に囲われている。
いや、四方をというよりは身体が瓦礫に挟まっている。って言った方がいい。
俺は件のダンジョンの裏に来ていた。
ミュートはまだ、ここに封印されている、そう思ったからだ。
けどこの状況は流石にどうしようもない。
思案を巡らしていた時に、ふと、不思議に思った事があった。何も考えずに転移してきてしまったが、今考えれば凄く恐ろしい事なのではないか?
ここは見ての通り崩れたのだ、だがここに転移してきた時に丁度、人間一人が存在できうる隙間に転移してきたのか……
「違うよな?」
そう独り言をボソリ
怪我の巧妙というかは別として転移というskillを少々勘違いしたいたかもしれない。
試しにもといたあの魔物が転がる場所に行ってみた。
「やっぱり……」
そこにはこの街には似つかわしくない瓦礫が転がっていた。
「入れ替える…のか?」
自分を任意の場所に飛ばすそう思っていた。
事実、そのように認識して使用していた感はある
もう一度あの祭壇まで行けるかもしれない
その光明を胸に宿への道を歩き出すのだった。
痛い頭を抑えゆっくりと起き上がる。
魔力を使いすぎたのが原因か、それとも只の疲労から来るものなのか、それを確かめる術はもうない。
ナナシは心の片隅で思っていた、鑑定のskillを失ってしまったのが必然だとすれば、それは今のタイミングで良かったのかもしれないと。
もし、この鑑定を使いこなし、且つどの状況下においてもまず鑑定を通す程に使い込んでいた時期に奪われていたら……今よりも、もっと辛い状況になっていただろう。
「まぁ、元々なかったとでも思うしかないな。」
多少楽観的に思えるが、それは多分必要な事。
勿論生きる上でだ……
「さてとっ!遅い朝飯でも食いに行くかな。」
そう思い立ち上がった時、不意にドアが叩かれる
コンコン
「はい、どなたでしょうか?」
「あっ!あの私です!ティアです!」
出来るだけ静かにそして優雅にドアを開ける。
「どうなさったんですか?何か私に御用でも?」
努めて平静を装ってはいるが、内心は若干焦っている。女子とふれ合うことなんかあまりなかったという記憶はないが感覚的にそうであったことは間違いない。
過去の記憶は無くしても知識は無くしてはいない。
けれどもその知識の中には自分の部屋を訪ねてくる女子のあしらい方はないようなのだ。
「いや、ナナシさんが心配だったんですよ!
昨日もあんな騒ぎ起こったし、今日ギルドに来ないし!」
「抜けてきたんですか?!ギルド」
「いえ、非番ですので休みなんですが、ナナシさんにこの間のお礼をと思って……」
なんか顔を赤くして……可愛いなぁ。
俺まで顔赤くなってないだろうな?!?!
「お、あおあ、お礼なんて飛んでも8分歩いて10分ですよ!全然気にしないで下さいよ!あれはむしろ俺の不注意が招いたことなんで!」
「いえ、それじゃあ私の気がすまないんです、良ければお昼ご飯一緒にどうかなぁって。ダメ?」
上目遣いとは……わざとだ!それでダメなんて言える男は俺は男と認めぬ!!
「いやいやいやいや!ご一緒させてください!」
恐悦至極の至りにござ候
いつもの酒場でパスタかなと思っていたが、
ティアに「今日は私がエスコートします。」
と言われてしまった。
だが、流石はここに住んでるだけの事はある。
店選びがうまいというか、料理が非常に美味しいのだ。頬が落ちそうになるのを必死に耐えながら食事の時間は粛々と過ぎていく。
途中話題が続かなくなることもなく、自然と喋れている自分に、多少の驚きと、幸せな気持ちで心が満たされていた。
実はこの間におかわりを2度ほどしてしまった。
美味しいのだからしょうがない。
「ティアさんは将来はお父さ「あの!ちょっといいですか……?」
「はい?なんでしょうか?」
「敬語辞めませんか……?あの、なんか、他人行儀で特に、ナナシさんには使ってもらいたくないというかですね、できればですねあの、ティアと、呼び捨ててはいただけないですか?」
「わかったよ、ティア。」
満面の笑みになるティア
正直この申し出はありがたい。俺も変な気を使わずにすむからな。
「今日はありがとな。なんかご馳走にまでなっちゃって。」
「これは御礼なんだから、御馳走しないと意味ないでしょ?」
「ははッ確かに。じゃぁ今度は俺が誘ってもいいか?」
「ふぇ?も、もちろんっ!!!絶対だよ?!約束だよ?!」
「ああ。約束だ。それじゃあまた、な」
「うん!それじゃあまたね!」
こんな気持ちになったのは久しぶりかもしれない。人と話をすると言うことにあまりにも距離を置いていたのかも知れないな。
ティアと別れてから一つ目の曲がり角を曲がる。
次の瞬間にはこの街から姿を消していた。
くっ!
やっぱり窮屈過ぎだなここは。
ダンジョンの裏に来ていた。
今日まさに、確かめてみたい事があった。
転移が場所を入れ替えるというならば……
転移!
成功か?あまりにも実感がない、なぜなら少しだけ前方に転移をしたのだが、窮屈な場所から窮屈な場所へ行っただけで、景色も変わらずに変化を感じ取れなかったからだ。
これは少し骨が折れそうだ。
まず街の外れに転移をする。そして瓦礫を積んでも大して問題にならなそうな場所に瓦礫を積んでいく。これは転移の場所入れ換えによる裏技的な発想だ。少しづつ前に進みまた戻るを繰り返し行っていく。
転移を繰り返していくうちにあることに気付いたのだ、同じ転移を繰り返していても持ってくる瓦礫の量に差があるのだ。
まだ魔力の細かい扱いに慣れていないからではあるのかもしれないがこれはチャンスかもしれない。
静かに魔力を転移というskillに流し込む。
「転移っ!!!」
すると先程とは比べ物にならないほどの量の瓦礫が転がっていた。
成功だ……。
これなら大して時間はかからないな。
---―やっと……あの祭壇があった場所と思われる場所までやって来た。
「こりゃ酷いな。封印と言うのがどれを指しているのか、これじゃわかんねーな。」
祭壇の上にあの綺麗な石があったよな、ただあれは罠だったっつーな。
それならどこにその封印はあるんだ?
ふと目を落とすと祭壇の木の下に掠れた字が見える。
これは……
「魔方陣か…?!」
急ぎ魔力を練り上げその魔方陣に流してみる。
これは……魔力を流せば流すだけ足元から人の形が浮かび上がっていく。
魔力の底を垣間見ながらも、何とか封印を解く事に成功した。
正しくはこれが封印を解いたという事になるならばという1文が入るのだが。
目の前の少女はあの時まんまと騙された魔物が化けていた少女と違いなかった。肩より少し長めの灰色の髪 そして健康的な褐色の肌。
ただ一つ違うのは、今この少女はなにも着ていないと言うことだけだ。
これは倫理的に非常に不味い。
自分のジャケットを掛けてやると、どうやって連れ出してやろうか。少し戸惑っていた。
そんな時のそり、と起き上がるとこちらを寝惚け眼で見ている。
「お、あおオッス!オラ、ナナシ!」
緊張して噛むわ、言葉のチョイスは緊張感の欠片もないし、強い男を彷彿とさせるような言葉な割には絶対にこっちの世界じゃ伝わらんのよね…
少女はその寝惚け眼をこれでもかと言うほど見開いて、次の瞬間には顔を崩して泣きながら抱き付いてきた。「ナナシさぁん、戻ってきてくれないかと思ったよぉ!怖かったよぉ」
抱き締めて頭を撫でてやる。
「ミュートは見えていたのかい?」
「うん、見えてたよぉ、僕の目と守護者の目は繋がっているから。何度も!何度も何度も!それは僕じゃない!気付いてって!けど……全然伝えられなくて。守護者が消えて、真っ暗になって、何も見えなくて……こわかったぁぁぁ!ぅぅ」
「もう大丈夫だ。」
「おかえり、ミュート。」




