トラック野郎2025 3/8
倉庫の中は広大なはずなのに、中央の通路以外は照明がついておらず、薄暗さが広がっていた。まるで闇が空間を侵食しているかのようだった。その不気味な雰囲気に辰雄の神経は研ぎ澄まされていく。慎重に車を停め、エンジンを切ると、静寂が辺りを包み込んだ。辰雄は一息ついてからゆっくりと車を降りる。
「お待ちしておりました、村田 辰雄様。」
静寂を破るように、声が暗闇の中から響いた。声の主が姿を現すと、倉庫内の薄明かりが彼の姿を浮かび上がらせた。薄い水色の上下作業着に紺色のキャップ、足元には黒いスニーカー。そのどこにでもいそうな服装とは裏腹に、その男から発せられる冷たい雰囲気に辰雄は目を細めた。
「そんなに警戒しないでください。約束通り、前金は支払います。それに、私たちは仕事のパートナーじゃないですか。」
作業着の男は、にこやかな笑みを浮かべながらそう言ったが、その目は笑っていなかった。辰雄は目の前の男を観察しながら、内心で警戒を強める。
「あんな形の依頼は初めてでね。それに、破格の報酬となれば、そりゃあ警戒もするさ。」
辰雄は得体の知れない相手に恐怖を感じてはいたが、表情には一切それを出さなかった。自分がこの場にいる理由――息子の命をつなぐため――その覚悟が彼を支えていた。
「それは失礼いたしました。では、早速ですが、仕事の話をしましょう。今回、村田さんに運んでいただきたいのは“特殊な海産物”です。」
「特殊な海産物?」辰雄は眉をひそめる。
「はい。とある国から買い付け、日本国内に納品するのですが、特殊ゆえに通常の輸入手続きでは難しい代物です。ですので、パージの夜を利用して運び入れ、目的地へ届けていただきたいのです。」
「なるほど。だから“あの日”に依頼をするってことか。」
「ええ。しかしご安心ください。村田さんにはただ運んでいただくだけ。何か法を犯していただく必要は一切ありません。もっとも……その日、犯罪行為はすべて自由に行えるわけですがね。」
男はそう言うと、不気味な笑みを浮かべた。その笑みには何ともいえない嫌悪感が滲み、辰雄は目をそらしたくなった。
「…理屈はわかった。だが、500万は高すぎないか?もっと安い報酬でも、この仕事を引き受けたドライバーや企業はいただろう?」
「ええ、もちろん他にも声をかけました。しかし、他の方々は審査に合格しなかったので、降りてもらいました。」
「審査?」
「はい。最初に送ったメッセージには“情報の取り扱いには慎重に”と記載しておりました。ですが、他の方々は同僚や家族に相談するなどしてしまい、簡単な“秘密厳守”の条件すら守れなかったのです。そのため、不合格となりました。」
作業着の男は穏やかに説明するが、その言葉には冷たい鋭さが宿っていた。
辰雄の背筋に冷たい汗が流れた。
――この数カ月で行方不明になった知り合いのドライバーたち。突然倒産した企業。それらの出来事が、この男、いや、その背後にいる何かの仕業だと、瞬時に結びついてしまったのだ。
知り合いの失踪や、突然倒産した企業はきっと、この男、いやこの男の背後にいる何かの力によって排除されたのだとつながってしまったからだ。
一瞬、依頼を断り、この場から逃げ出したいという衝動が湧いた。しかし、息子のことを思い出すと、その選択肢はなかった。悟られないよう深呼吸をしてから、平静を装い口を開く。
「なるほど。俺は報酬さえちゃんともらえれば仕事はする。今までどんな荷物でも依頼主の要望には必ず応えてきたか。」
「ありがとうございます。だからこそ、私たちも村田さんを選んだのです。ただし、今回の依頼は荷物の内容だけでなく、配達時間にも少々“高度な条件”があるため、このような高額報酬になっております。」
「高度な条件?」
「はい。説明させていただきます。」
男は少し間を置いてから、淡々と語り始めた。




