第8話 「驚いた! この料理、姉さんが考えたの?」
王立図書館には、古今東西の貴重な書物が大量に集められている。本は高価なので、入館には身元保証人と銀貨三枚が必要。身元保証には、貴族ならば家紋を見せればいい。貸し出しは不可。手書きでメモを取る程度ならば許可されている。
ただし、汚したら弁償だ。
ひとりあたり銀貨三枚は我が家にはなかなかの痛手なので、図書館にはお父様と僕だけで行くことになった。メアリーアンも行きたがったけれど、僕ですら入館許可ぎりぎりの年齢なのだ。妹の年齢ではお父様が一緒でも入館を断られてしまう。
なので、メアリーはお母様とサリーと留守番だ。
僕とお父様は辻馬車に乗り、王宮敷地内にある王立図書館に朝早くから出かけて、閉館時間ぎりぎりまで本を読みあさってはメモを取って帰宅した。
蒸留装置のしくみも調べられたし、自動船や自動車に使えそうな魔術回路のヒントも得られた。やはり王立図書館の蔵書は最高だ。我が家の図書館も、お祖父様達がこつこつ集めた貴重な書籍が残されているけれど、まるで比べものにならない。
王都のタウンハウスにある本も、領地の領主館にある本も、ほとんど読み尽くしてしまった僕にとって、王立図書館はいっそここに住みたい、と思ってしまうほど素晴らしいところだった。
「お父様、僕は将来、王立図書館の司書になりたいです」
「ああ、お父様も子どもの頃同じことを夢見たなぁ」
「何故ならなかったんですか?」
「高等学院で農学研究をなんとなく履修したらはまってしまってね。品種改良の楽しさに目覚めてしまったというか……。土壌をよくするにはどうしたら、とか試行錯誤して考えるのが好きなんだよねぇ」
帰りの辻馬車で、ほくほく顔のお父様とそんな話をした。多分僕も同じような顔をしていただろう。
僕たちが帰宅してすぐ、ラルフ叔父様が訪ねてきた。ラルフ叔父様は、お母様の三番目の弟だ。上の二人は騎士になったが、叔父様は商業ギルドに就職し、順調に出世しているらしい。
「驚いた! この料理、姉さんが考えたの?」
「私じゃないわ。メアリーよ」
いつもの野菜スープの代わりに、いろんな野菜を煮込んだポタージュスープ、サラダもいつもより見栄え良かったが、このあたりは普通によくあるもの。叔父様が驚いたのはもちろん、ハンバーグやフライドポテトだ。デザートのプリンも好評で、食後に談話室に移動して、酒のつまみにと出されたのは二種の芋チップス。
芋チップスはお土産に持って帰って貰おうと、紙袋に詰めたものも用意してある。
「凄いな、メアリー。どれも美味しかったよ。レシピもよく書けてる。これならこのまま商業ギルドに権利登録できるね」
「本当!?」
「良かったわ、ラルフ、すぐに登録をお願いできる? それからこれも見て貰えるかしら。メアリーの発案で、リオンが作ったの」
「これは……魔道具かい? うわ、熱い風が!」
メアリーアンとお母様のふたりがかりで、ドライヤーの用途説明が始まった。ラルフ叔父様ははじめはぽかんとしていたけれど、次第に目に熱が宿っていく。どうやら商業ギルド職員の目からみても、この魔道具は売れそうなのだろう。
「リオン、このドライヤーは一日どのくらい作れる?」
「そうですね……。材料があれば、日に十個くらいでしょうか」
「十か……。試用期間は一ヶ月だったね。すぐに設計図を権利登録するから、ひとまず一週間以内に五十、数をそろえてくれるかな。それをギルド内でも試用者を募ってテストしよう。一ヶ月様子を見て、問題なければ商業ギルドで販売……していいんだよね?」
「ええ、もちろんよ。我が家には独自の販売路なんてないもの。頼りにしてるわ、ラルフ」
「それじゃあ一度ギルドに話をして、はやくて明日の午後、ギルドの顧問弁護士の先生と書類作成の為に再度訪問するよ。量産する場合の生産ラインについてはその時また改めて詰めよう」
試作のドライヤー二種と、各種芋チップスのお土産を持って、ラルフ叔父様は帰っていった。
次の日、僕は午前中、メアリーアンに文字の読み書きを教えながら、自主学習をして過ごした。前世の記憶があるメアリーは、飲み込みがはやい。あっという間に基本の文字は習得した。この分なら、簡単な文章くらいならすぐ読み書きできるようになるだろう。
午後にはラルフ叔父様が商業ギルドの顧問弁護士とやってきて、お父様とお母様と応接間で長いこと話し合っていた。その結果、我が家にとって満足いく取引ができたようで、それからしばらくの間お母様は上機嫌だったし、その日から食卓のおかずも一品増えた。
この週の終わりのメアリーアンの誕生日は、我が家にしては過去最高に豪勢なご馳走でお祝いすることになった。メアリーアンのレシピの、砂糖や卵、バターをたっぷり使い、贅沢にもクリームとベリージャムまで挟んだケーキまで出てきたのだ。ビクトリアケーキというらしい。
ラルフ叔父様も招かれていたのは、このケーキのレシピも商業ギルドに登録するつもりだったからだろう。
これらのレシピは、メアリーアンとお母様の共同名義で登録されている。レシピの中には、正確な分量が不明で、お母様が試行錯誤して最適な分量を導き出したものも多かったからだ。
メアリーアンが前世の記憶を元に口述し、僕やお母様が書き留めたレシピは順調に増えていったけれど、その全てを商業ギルドに登録しているわけではないようだ。今のところ、比較的材料が入手しやすく、作り方も簡単なものをいくつか登録しているようだった。
それでも結構な利益になっているようで、ドライヤーの試用期間が終わり、そちらも正式に商業ギルドで取り扱いが始まった頃、僕とメアリーアンにもそれぞれ金貨一枚渡された。
大貴族の子どもならともかく、僕らにとっては、とんでもない大金である。
今後僕らが発明したものをギルドに登録することを見越して、僕とメアリーアンの銀行口座も作ったらしい。
嬉しいことだ。
メアリーと相談して、この金貨二枚はまず自動船を作る資金とすることになった。
次回更新→明日7時
カクヨムにて「第2回GAウェブ小説コンテスト」参加中のため、先行連載しています。




