第7話 「もしかしたら水飴くらいは作れるかも……!」
昨日はなかなか大変な一日だった。
一家揃って出かけた王都の朝市。
普通は貴族が直接買い物に行くことはなくて、使用人が買い出しもするものなのだけれど、我が家のように使用人の数が少ないとそうも言っていられない。お母様も元々庶民に近い騎士爵家の出なので、食材や必要なものはできるだけ自分の目で選んで、安く手に入れたいと考える方だ。
僕もお父様もその方針には賛成だし、王都の朝市は珍しいものも集まっていたりするので、見てるだけでも楽しいものだった。
一番はしゃいでいたのはもちろん、初めて朝市に連れてきてもらったメアリーアンだ。
中央広場いっぱいに並ぶ屋台をあっちにふらふらこっちにふらふら。油以外にもいろんな調味料や食材を欲しがった。その中には砂糖や塩のみならず、胡椒をはじめとしたスパイスなどの高価なものも含まれる。どれも少量なら、とお母様は購入してくれた。最初は渋っていたけれど、先行投資! というメアリーアンの説得に折れたのだ。
他にも小麦粉やミルク、卵にチーズ、バター、ベーコン、干し肉などの加工肉も購入。
正直、こんなにたくさん食材を買い込んで大丈夫なのかと不安になった。そんなお金どこから……? と不思議に思っていたが、どうやら両親がいざというときのために貯めていたへそくりを放出したようだ。
それほどお母様は、メアリーのレシピとドライヤーに期待をかけているのだろう。
恐らく既に、両親ともにメアリーアンがオーシスの忘れ物を持っていることに気付いているんだろうな。買い物の間、メアリーはしょっちゅう前世で得た知識に関するひとりごとをこぼしていたから、気付かない方がおかしいのかも。
「街並みは中近世ヨーロッパ風なのに排泄物の悪臭がない!? 下水道が整備されてるおかげ? インフラ技術の水準はどのくらいなんだろ……。あ、公衆浴場がある! 水が豊富だから? それなら庶民もお風呂に入る文化があるってことだし、香り付きの石けんだけじゃなくてシャンプーとかリンスが安価で作れたらきっと売れるわよね。家にあった石けんはあんまり泡立ちも良くなかったし……。あっ、これ家にあったのと同じ……たっか!」
「屋台の料理は塩味か香草を使ったのがメインかぁ。お店で出してるのは煮込みやスープが多いのね。お菓子はやっぱり贅沢品ね。砂糖が高いからなぁ。砂糖……砂糖……サトウキビか甜菜……はそう簡単に見つからないよね。麦芽糖ならできそう? 昔自由研究で作ったことあるし……。あの時はもち米で作ったけど、サツマイモでもできたよね。紫芋ってサツマイモでしょ? もしかしたら水飴くらいは作れるかも……!」
「蒸留酒! 蒸留器があるなら、化粧水が作れるし精油も作れる!」
ちょっと書き出しただけでもこれだ。
砂糖の代用品が本当に作れるなら、我が家は大富豪になれるかもしれない。お母様が思い切ってメアリーアンに投資する気になったのは、いずれ麦芽糖とやらを作れるのなら、というのが大きかったのだろう。
僕としては、蒸留器でどんなものができるのか、の方が気になった。蒸留器は近年東方から入ってきた輸入品で、我が家にはない。うちの蔵書にも絵図くらいしか記載されていなかったから、内部の仕組みまでは不明だ。
けれど、たぶん王立図書館なら詳細な記述のある書籍も揃っているだろうということで、明日お父様に連れて行ってもらえることになった。
そうしてこの日の夕食は、メアリーアンのレシピをお母様とサリーが再現してくれたのだけれど……。
悪くなりかけていたため格安となっていたブロック肉を細かく包丁で叩いてミンチにして作った「ハンバーグ」と、くし型に切って揚げた芋に塩を振った「フライドポテト」はとても美味しかった。デザートのプリンはプディングに似ているけど、ちょっと違う。甘いのに少しほろ苦いカラメルソースというソースも、初めての味だ。プリンと一緒に食べるとより美味しい。
祝祭日でも何でもない日に、格安とはいえ、加工肉でない肉料理をお腹いっぱい食べられるなんて、ここ数年で初めてのことである。今日は本当に大盤振る舞いだ。
各種芋チップスも、揚げた方が美味しい、という結論となった。
明日の晩、ラルフ叔父様を晩餐に招いて、試食して貰った上でレシピ登録を依頼することになったので、明日も同じメニューが決まったけれど、我が家はこれまでも野菜スープと硬い黒パンばかりだったので、二日続けて豪勢な料理というのは、さほど食に関心の無い僕にも嬉しいことだった。
……けれど、食べ過ぎて胃もたれをおこしてしまったので、明日はハンバーグをもうちょっと小さくしてもらおうと思う。
次回更新→本日19時
カクヨムにて「第2回GAウェブ小説コンテスト」参加中のため、先行連載しています。




