番外編2 ウィリアム②
九の月には我が家もフィロース子爵家もそれぞれ領地に戻ったが、俺はメアリーアンとリオンと文通を続けていた。
リオンはあまり筆まめな方ではないようで、返事はほとんど近況報告書のようなものばかりで、とても短い。メアリーアンの方は、まるで彼女の元気に跳ねる声が聞こえてきそうな、物語を読んでいるような気分になる楽しいものだった。
そんなある日、自動船に続いて、自動車の開発だけでなく、新たな大発明があったとかで、父上がフィロース子爵家に詳しい話を聞きに直接出向くことになった。俺に内緒で準備を進めていたのは、俺がついて行きたがるとわかっていたからだろう。
もちろん俺だって、十歳未満の子ども連れで他家に押しかけるのは少々マナーに欠けるというのは理解している。しているけれど、どうしても行きたくて、ジョセフの制止も振り切って、無理矢理荷馬車に忍び込んでしまった。
出発直後に見つかってしまったが、そこまでしても行きたいなら、と父上はしぶしぶ同行を許してくれた。
そうして訪れたフィロース子爵の領都、ブルウッドは、大規模な魔の森に面した領地だけあって、堅牢な防壁に囲まれた街だった。
門番の兵の数は驚くほど少ないが、馬車から見た街の様子は活気があって、人々の表情も明るい。田舎の街ではあるが、寂れた様子はなく、魔の森が近く冒険者の街と言われている割には治安も良さそうだった。
「おい、ありゃあどこの馬車だ?」
「知らねぇけど、絶対貴族様だろ。てことは、領主様のお客様じゃねぇか?」
「あんな見るからに裕福そうな馬車に乗る貴族様が? 領主様の? 何で?」
「知るわけねぇだろ。領主様にだって貴族の付き合いってのがあるんだろうよ」
「そういや領主様も貴族様だもんな」
「そういやってなんだ、立派な貴族様だ」
「いやだって、たまに農民に混じって畑耕してるじゃん。農民より手際いいしよぉ……」
ゆっくりと大通りを馬車で移動していると、そんな領民の声が聞こえてくる。……フィロース子爵が農民に混じって畑を耕してるっていうのは、きっと農地の改良とか、農作物の品種改良のためだろうと、父上はおっしゃった。なるほど、子爵の専門は農学だというから、納得だ。
自ら率先して研究に励む姿は素晴らしいと思うが、貴族が野良仕事なんて、と馬鹿にする輩もいるだろうから、あの会話を聞いていただろううちの騎士たちにも、後で口止めしておかないと。
ブルウッドのフィロース家の領主館は、王都のタウンハウスに比べて設備も最新に改築されていた。内心ほっとしてしたのは、あんなに素晴らしい発明をもたらした子爵家が、不遇を囲っているのは納得がいかない、と常々思っていたからだ。
魔道船も今爆発的に売れていて、受注が後を絶たない。セイクリッド公爵家に莫大な富をもたらしてくれた子爵家は、さしずめ金の卵を産む鶏か。父上が重視するのも当然だろう。その富が、子爵家にもきちんと還元され始めているのが目に見えたのが嬉しかった。
最近学んだ魔法の歴史の授業でも、ヒューゴ・フィロース博士の功績が記されていたのだ。なんでも、神から授かった故に誰も読み解けなかった魔法陣を解明し、その法則を応用して魔術回路という画期的なものを作り出したのは、ヒューゴ博士だったのだ!
博士が魔道具研究の礎を築いたと言われるのも当然の功績だった。
しかし何故か、最初に魔術回路を術符にして販売した貴族家が巨万の富を得て、フィロース家は窮乏している。まったくもって訳がわからない。魔術回路という大発明の特許だけでもかなりの資産になっただろうに。
……その原因は、実に単純明快なものだった。当時はまだ、特許法がととのっていなかったのだ!
流石に発明者の権利が阻害されすぎている、ということで、この一件がきっかけで特許法の制定が進んだという、なんとも悔しい話だった。
もしかして、時の王が領地を授けたのは、博士の発明を守れなかった罪滅ぼしも兼ねているのだろうか? でもそれなら、もっと豊かな土地を授ければよかったのにと、どうしても思ってしまう。
いや、でもこれからは違うはずだ。我が家が魔道船を売れば売るだけ、フィロース家も豊かになれるのだから。
次回更新→本日19時
カクヨムにて「第2回GAウェブ小説コンテスト」参加中のため、先行連載しています。




