↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の妹は転生者らしい。  作者: あいより碧


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/48

番外編1 ショーン① 



 青白い光に、眼が灼けるようだった。

 空から降り注ぐ雷が絶望を薙ぎ払うその様は、まるで神話の一幕のようで――。


 きっとオレは、この光景を――生涯忘れることはないだろう。




 *****



「ショーン! お父様とバーデンを見なかった!?」


 声変わりもしていない、高い少年の声に、オレは大斧を磨いていた手を止めて振り返った。


「リオン坊ちゃん? メアリーお嬢さんまで」


 冒険者ギルドのロビーには不似合いな、幼い兄妹。フィロース子爵家の子どもたちは、ブルウッドのギルドでは知らぬ者などいない有名人だ。


 まだ十にもならないだなんて信じられないほど、冷静で魔法の扱いにたけた長男のリオン坊ちゃん。その坊ちゃんに手を引かれているのは、まだ五歳のメアリーアンお嬢さん。お嬢さんが魔法を使っているのは見たことはないが、とんでもない発想力で防水布やらテントやらエアマットやら、美味い料理やらを開発しているという。


 どちらもいろんな意味で規格外な兄妹は、いわゆる天才児と言っていいと思う。だが、まだ子どもなのだ。本来ならこの非常時、領主館で守られていてしかるべき領主の子たちが、なんだって今ギルドにいるのか。


 領主様は自分と奥様の魔力で足りなければ、防護結界の維持にお子様たちの魔力も使うとおっしゃっていたが、それは最悪の場合という話だろうに。


「領主様とギルド長なら、上に居るはずですよ」


 先ほど街を守る結界を起動した領主様は、随分とくたびれた様子だったが、今後の方針をギルド長たちと相談してから仮眠に入る予定だと聞いている。少しでも魔力を回復させるためだ。


 今や領主様の魔力に、俺たち全員の命がかかっている状況だ。

 何もできないのがもどかしいが、魔力なんざからっきしのオレにはどうしようもない。

 せめて万が一、結界に綻びが出たときに備えて武器の整備をしていたのだが……。坊ちゃんたちは随分と険しい表情だった。


「ありがとう。行こう、メアリー」

「はいっ」


 オレなんかに礼を言って、坊ちゃんたちは階段を駆け上がっていく。どうにも気になって、オレもその後に付いていった。


「お父様! バーデン! 鍛冶屋に至急の依頼を出してください!」

「リオン? どうしたんだ、いったい」


 突然会議室に飛び込んできた兄妹の姿に、領主様は眼を丸くした。


「お父様、以前僕がビッグフロッグの群れを仕留めたのを覚えていますか?」

「ああ、もちろん……まさか! いや、しかし……あれはまだ未完成だと……」

「はい。けれど結界の内側から、メアリーと二人がかりで時間をかければ、群がっている魔物の大多数は仕留められるはずです」

「なんですって!?」


 リオン坊ちゃんの言葉に、ギルド長とガトーが腰を浮かせた。オレもあんぐりと口をあけてしまう。


 坊ちゃんがビッグフロッグの群れをひとりで仕留めたという噂は聞いていた。ギルド長が聞いても、フィロース家の秘法だと詳細は教えて貰えなかったとかなんとか。まさか、その魔法を使えば、あの魔物の群れを――全ては無理でも、大幅に減らすことができるってか?


 いや、いくら貴族の魔力は平民と桁違いとはいっても、そいつは無理があるだろう。


「リオン様、それは……どのような魔法なのですか」

「雷雲を呼ぶ魔法よ!」


 ガトーの問いに答えたのは、リオン坊ちゃんじゃなくてメアリー嬢ちゃんだった。


「これの、何万倍もすっごいやつ!」


 可愛らしい幼女の声が、得意げに言い放ったかと思えば、その小さな手のひらの上でバチチッと光が弾けた。

 ――まさに、雲の狭間でほとばしる稲光。その、極小版とでも言うような、ソレ。


「――……雷、魔法」

「フィ、フィロース家の秘法って、雷魔法だったんですか!」


 大きく目を見開き、愕然とした表情のガトーなんぞ、そうそう見ることはないだろう。しかしそれをからかう余裕は、オレにもなかった。ギルド長に至っては、今にも腰を抜かしそうだ。


 それも仕方ない。雷魔法だなんて、魔法使いでなくたって、神話や伝説の大魔道士たちくらいしか扱えない代物だと知っている。あとは――竜の中には、雷を操る者もいると聞く。いずれにせよ、人智を超えた神の御業とも言うべきものだろう。


 だが、たった今、目の前で――五つの幼女が事もなげに操って見せた。


「しかし、リオン、メアリー。雷雲を呼べたとしても、まだ制御はきかないのだろう」

「ええ。ですから通常の魔物狩りではとても使えませんが、幸い今回は向こうから押し寄せてきてくれてますから。それに、雷の性質を利用すれば、少しは落下位置を誘導できるはずです」

「前に話した、避雷針ですよ! 電気を通しやすい銅で矢を作って、大きくて強い魔物に打ち込めば、落雷を誘導出来るはずです」

「……なるほど、確かにそれなら」


 領主一家が何を言っているのか、オレにはさっぱり解らなかった。理屈は何も理解できなかったが、領主様からみても、坊ちゃんたちの提案は検討に値するものであったようだ。

 どうやらガトーも同じく可能性を見いだしたようで、すっかりと前のめりだ。


「鏃だけが銅では意味がないのですね?」

「うん。雷には高所や尖ったものに落ちやすいという性質がある。避雷針というのはその性質を利用して、高所に設置した金属製の棒であえて雷を受けて、電流を地面に流すというしくみだ。今回は地面じゃなくて、深層の魔物に受け止めてもらおう」

「なるほど……。では、矢そのものが金属でなければいけない……。強弓でなければまともに射てそうにもありませんな。人を集めます。弓も調整せねば」

「ありがとう、ガトー。お願いするよ。お父様、街中の鍛冶屋に大至急、一本でも多く銅で矢を作ってもらっても? 最悪、棒の先をとがらせるだけでも構いません」

「わかった。領主命令として協力してもらおう。バーデン、ギルドと契約のある鍛冶屋に声をかけてもらえるか」

「は、はいっ!」


 そこからは、時間との勝負だった。街中の鍛治師を総動員し、ありったけの資材で銅製の矢を作っていく。強弓でも飛距離はそう伸びそうになかったが、防壁に備えてあった古いバリスタならある程度飛ばせそうだと言うことで、バリスタ用の矢を優先させることになった。


 その間、リオン坊ちゃんは防壁を回ってバリスタの点検修理。メアリー嬢ちゃんは奥様と屋敷のメイドたちとで炊き出しの手伝い。領主様は魔力回復のため仮眠に入られた。


 オレはガトーと弓使いたちを集めて事情を説明し、弓の調整やら、資材の運搬やらを手伝った。


 本当は、作戦が失敗したときのためにも体力を温存すべきだったのかもしれない。

 だが、防壁の外を取り囲む魔物の気配に、じっとしていることができなかった。

 長く冒険者をしてきたが、こんなことは初めてだ。


 オレが知る限り、この国で最後にスタンピードが起きたのは、二百年くらい前。南部のダンジョンから増えすぎた魔物が溢れだしたのが最後だ。

 ……あの時は、ダンジョン都市が壊滅寸前に陥ったのだったか。


 いや、いや。大丈夫だ。

 あれはダンジョン都市という特性上、市街地の中心にダンジョンがあり、そのためあっという間に市街が魔物に蹂躙されてしまったのだ。防壁に囲まれたフィロースとは条件が違う。


 防護結界はこういう万が一の事態に備えて、一定の規模以上の魔の森のある地域に備えられている。この結界の中は安全だ。

 ――結界維持の為の魔力が持つ間は。


 ああ、チクショウ。少し気を抜けば、不安ばかりが膨れ上がっていく。


 いっそ街を放棄して、みんなで逃げた方がいいのではないか。

 何度となく浮かぶ弱気な考えを口にせずに済んだのは、冒険者として魔物から街を守ってきたという自負が、少なからずあったおかげだろう。


 だから。

 正直なことを言うと、坊ちゃんたちの言うことはさほど信じていなかった。


 ビッグフロッグの群れを一掃した秘伝の魔法だとしても、それを坊ちゃんと嬢ちゃんのふたりがかりで行使したとしても、何千何万という敵が数十、あるいは数百減った程度では、どうにもなるまい。


 だが、それでも、何か少しでも結界にかかる負荷を減らす方法があるのなら。少しでも生き延びる可能性を高められるなら。どうせ結界内にいる間、魔力のない平民にできることなんてないのだから――。


 坊ちゃんたちを手伝っていたのは、そんな藁にも縋るような気持ちからだった。




次回更新→明日7時

カクヨムにて「第2回GAウェブ小説コンテスト」参加中のため、先行連載しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。