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第4話 「貧乏か! 貧乏が悪いのかっ!! ちっくしょう!」


 メアリーアンの前世の知識は、実に素晴らしいものだった。


 僕がもっとも興味を引かれたのは、自走する馬車……馬が引いていないので自走する乗り物というのが正しいか。メアリーは車とか自動車とか言っていた。他にも空を飛ぶ船もあれば、海に浮かぶのではなく、潜る船もあるようだ。


 本当に素晴らしいアイディアだ。何故今まで誰も思いつかなかったのだろう。動力源の確保が問題になるからだろうか。確かに人が乗れるほどの大きさの箱に車輪をつけて自走させるとなれば……。運転者の魔力を流し込むことで走らせるよう、魔術回路を設計すればいけるのでは?


 ああ、でも魔力消費効率をかなりよくしないと、大貴族並みの魔力を持つものでないと数分で魔力切れになってしまうかもしれない。流石にそれでは使い物にならないか。魔石を動力にするとしたら、安定して走らせるにはかなりの大型が必要になってしまう。

 車体を用意するだけでも大変だろうに、動力源も高価となると……うーん。


 すごく作ってみたいけど、研究開発にはかなりの費用がかかりそうだ。流石に今の我が家でまかなうのは無理だろう。残念。


 自走するボート……自走船なら、家にあるボートで試せる……けど。動力の問題は変わらないし、万が一失敗したらものすごく怒られるよね……。今の我が家には小型のボートだってそうそう購入できるものじゃないんだし。


 自転車とかいうやつなら作れそうだけれど、金属加工が大変そうだ。メアリーが書いた絵図でなんとなく仕組みは理解できたので、時間をかければなんとか? 問題はこれも……。

 素材を集めるのがね……。鉄もかなり高いから……。

 枠組みだけ木製にしてできないかな。車輪には、メアリーが言うには「タイヤ」という「ゴム」とやらで出来た素材を使うのがいい、らしい。弾力性のある筒状の素材に空気を入れることで、衝撃を吸収するクッションになるのだとか。

 自動車の車輪もこの「タイヤ」の方が乗り心地は断然いいようだ。


 弾力があって、水も弾いて、ある程度伸び縮みする、簡単に穴が開いたりしない丈夫な素材かぁ……。


 ビッグフロッグの皮が近いかな? ビッグフロッグは領地の魔の森で毎年大量発生するから、冒険者ギルドに依頼して討伐して貰ってる魔物だ。肉も泥臭くて不味く、皮もぬるぬるの粘液まみれで使いどころもないと良いトコ無しで、魔石以外は廃棄対象だったはず。今年は取って置いてもらって、実験してみよう。


 うう、ギルドへの討伐依頼費用もなかなかかさむんだよなぁ。もしビッグフロッグの皮が素材として使えるようになるなら、売れるようになるかもしれないな。

 ビッグフロッグが大量繁殖するのは五の月から六の月頃だから、今連絡すれば間に合う。領地に手紙を出してもらうようお父様に相談しよう。領地に帰れるのは九の月だから、それまで研究はお預けだ。


 それよりも、今できることを考えないと。


「難しいなぁ~。車とか冷蔵庫とか冷凍庫とか、絶対高くても大貴族が買ってくれそうだけど、研究費と初期費用がかさむから無理みたいだし……。電灯……じゃない、魔道灯は曾お祖父様が開発済……。安価に作れそうで、庶民くらいの魔力でも手軽に使えそうなもの……?」

「ねえメアリー。この瓶のようなものは、どういうものだい? それからこの、筒に取っ手のついたようなものは何? あと、これ。この紐がついた棒のようなものは何に使うの?」

「ああ、えっとね。それはシャンプーボトルで、この上のところを手で押すと、内部の液体が出てくるしくみで……。こっちはドライヤーっていって、温風を出して髪を乾かす道具で、ヘアアイロンは……」


 メアリーアンの用意したメモには、たくさんの絵図と、丸っこい記号なのか小さな絵なのか良くわからない文字が記されている。絵図の方は、前世で彼女が使っていたものの見た目を描いたものだ。内部の構造を把握しているものは、それも描いてくれている。シンプルな線で描かれた絵図はとてもわかりやすい。文字の方は全然読めないけど。


 なんとなく、構造が理解できたもの、構造不明で用途しかわからないものとあるが……。


 絵図と、口頭による用途や材料の説明からして、この中ですぐに出来そうなものは、ドライヤーかな。ヘアアイロンは鉄がある程度手に入れば作れる。まずは木工で素体がつくれそうなドライヤーを作ってみよう。ボトルはガラスでつくればいけるかな? これは動力に魔力は不要だし、設計図さえきちんと作れれば小物職人に量産させられるかもしれない。


 手洗いようの液体洗剤とセットで売り出せば王都や金持ちの多い地区では売れそうだ。貧しい田舎では、そもそもあんまり手洗いの習慣がないからなぁ。石けんだって高級品だからね。


「とりあえず、ドライヤーは出来そうだと思う。需要があるのかはわからないけど」

「絶対あります! 女性なら欲しいはずです!!」

「そうか。なら作ってみようか。あ、そうだ、メアリー。我が家は築百八十年。貧乏で改築がほとんどできてないからトイレは旧式で水も井戸から汲んでるけど、普通の貴族の家は水洗式で水道設備も整っているよ」

「なっ!? なんですってー!? はぁ!? なんでそんな文明的な生活ができるのにできてないの!? 貧乏か! 貧乏が悪いのかっ!! ちっくしょう! 絶対お金稼いでリフォームしてやるーっ!! お兄様!! 私ちょっと、他に商売のタネがないか探してくるので! ドライヤー開発お願いします!」


 そういえば昨日気にしてたな、と思ってトイレと水道のことを教えてあげたら、メアリーは一瞬にしてやる気倍増したようだった。元気でいいことだ。

 しかし、これは言っておかねばなるまい。


「メアリー、十歳未満は子どもだけで外出禁止だからね。家の敷地から出てはいけないよ」

「はーい!」




明日から7時と19時に更新予定です。


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