第32話 できればついでに、ちょっとだけ、冒険者ギルドも。
子ども――特に男の子というものは、好奇心と冒険心の塊である。同じ年頃の子がちょっと危険な冒険に繰り出していると聞けば、自分も! と思ってしまうものだ。
そのあたりの心理は、領地の子どもたちを見ているうちに学んだのだが、この心理に平民も貴族も違いはないらしい。
何が言いたいかというと、僕らの話を聞いたウィル様の冒険心が大爆発してしまった、ということである。
「父上、お願いします! 俺も自分で狩りができるようになりたいんです!」
「うぅーん。しかしなぁ……」
「魔物狩りは貴族の義務でしょう!?」
晩餐の後、談話室でセイクリッド公爵に、ウィル様がウチに残って冒険者登録したい。ビクターおじさんに戦闘魔法を学びたいと言い出してしまった。
これには流石に、公爵様も困り顔だ。
「それはそうなんだが、お前はまだ子どもで……」
「リオンだって僕とたったふたつしか違いません! なのにもうEランク冒険者なんですよ!? 冷蔵庫や冷凍庫に使われていた中型魔石、全部自分で狩ってきたって!」
「なんと!? それはすごいな!?」
ぱっと公爵の顔に感嘆が浮かんだが、今は僕のことより、ご子息を説得する方に集中していただきたい。さっきからお母様の背後に「余所様の大事なご子息に何を吹き込んでいるの……?」という怒りのオーラが立ち上って見えるのだ。
「ウィリアム公子、マロウ卿は戦闘の専門家ではありますが、教員としての資格は持っておりません。公爵家できちんと専属の家庭教師を雇った方がよろしいと思いますよ」
流石に余所様の子を預かって戦闘魔法の訓練だなんて、そうそう引き受けられることじゃない。何かあれば責任問題待ったなしだと、お父様も受け入れるつもりはなさそうだ。公爵としても、嫡子の教育を親戚でもなんでもない他家の騎士に任せるわけにはいかないだろう。
「そうだぞ、ウィリアム。そもそも魔法の訓練は、八つになってからという約束だっただろう?」
「でも……」
ちら、と悔しそうにこちらを見るウィル様。
うん。年上の僕はまだしも、五歳のメアリーアンももう習っているのに? という感情が抑えきれないのだろう。
「そんなに言うのなら、年が明けたら魔法の先生をつけてやろう。それまでは、剣術と乗馬の訓練を頑張りなさい。体力がなければ戦闘魔法も扱えないのだからな」
「…………はい」
公爵様にきっぱりと言われて、ウィル様はしょんぼりと頷いた。
うう、なんだ、この罪悪感。ものすごく悪いことをしたような気になってしまう。メアリーアンも同じ気持ちのようで、とてもそわそわしていた。
「……父上、それならせめて、ブルウッドの冒険者ギルドを見学してみたいです」
「ふむ?」
「はっ!?」
「こ、公子様!? それは……」
ちょっと涙目で、ウィル様はおねだりモードに入った。どうも公爵様は愛息子のこの眼差しに弱いらしく、あっさり許可を出しそうな雰囲気だ。それに慌てたのはもちろん、うちの両親である。
ブルウッドの冒険者ギルドは、このあたりで一番大きな支部だ。それだけに冒険者の数も多い。つまり、荒くれ者が多い。しかも今は冬を前にした最後のかき入れ時――それだけに、殺気立っている者もいるのだ。
「ドラグールの森だって、浅層は平民の子どもたちが薬草や木の実の採集をしている場所だと聞きました。一番浅いところなら、ほとんど魔物も出てこないと」
「……まあ、そう聞いてはいるな」
「ジョセフだけじゃなくて、護衛の騎士も連れていきます。フィロース子爵家の領兵にも、冒険者にも迷惑はかけません。少しだけ。少しだけ現場の空気に触れてみたいんです」
「ううーむ……」
そんなに冒険者ギルドに行きたいのなら自領で行けばよいのでは……と思ったけど、脳内に地図を開いて無理だな、とすぐ察した。
セイクリッド公爵領には、ごく小さな魔の森しかなく、内陸の為海の魔物に対応する必要もない。その為、領都と魔の森の近くに小規模なギルドがひとつずつあるだけだ。
領都のあたりは魔物は出ないはずだから、旅の護衛を担う冒険者ばかりで、ウィル様の見たい冒険者ギルドとは雰囲気がことなるだろう。かといって、セイクリッド公爵領は領地が南北に長く、領都は北側で、魔の森は南側。自領とはいえ、まだ七歳のウィル様は、領地でも領主館からそうそう出られないはずだ。南部の方なんて……気軽には行けない場所なんだろうなぁ。
だから今すぐそこにあるギルドをちょっとだけでも覗いてみたい、と。
「……フィロース子爵、防水布の工房は冒険者ギルドの近くにあるとのことだったね?」
「はぁ……」
「すまないが、明日、そこを少し見学させてもらえないだろうか」
できればついでに、ちょっとだけ、冒険者ギルドも。
という本音がダダ漏れだった。
「…………今の時期、冒険者たちは冬前の備蓄のために慌ただしくしております。浅層でも、冬籠もりの為に領民が採集に入っているので、騎士を引き連れて近づくのは好ましくありません。ですので、森にはお連れできませんが、防水布工房であれば」
「そうか……! いや、無理を言ってすまない。ありがとう!」
ぱああっとセイクリッド公爵家の父子の表情が明るくなった。お父様とお母様は諦め顔。
実は公爵様が冒険者が活躍する冒険小説の愛読者だと知ったのは、翌日の朝。ギルドへ向かう道中のことだった。
次回更新→明日7時
カクヨムにて「第2回GAウェブ小説コンテスト」参加中のため、先行連載しています。




