第27話 「樽で何をするおつもりで?」
「私も浮遊魔法覚えたいです」
「いいよ。じゃあ、ちゃっちゃと済ませて、修練場で生活魔法の訓練しようか」
「やったぁ! 洗浄魔法も教えてください!」
浮かせた樽を二人で押しながら、半地下の厨房から、さらに階段を降りて地下の洗濯場へと向かう。
そこではちょうどサリーとダーナが洗濯をしているところだった。
「まあ、どうしてお二人がこんなところへ!? いけませんよ、リオン坊ちゃま、お嬢様までお連れして……」
「サリー、ちょうど良かった! ちょっと待ってね、今お兄様がいいもの作ってくれるから!」
「ええ?」
また何をやらかすつもりだ、というサリーの視線が痛い。ダーナは僕らの登場にあたふたしている。メアリーアンとは週に三回、一時間ほど勉強の時間を設けているから慣れているようだけど、僕とはあんまり顔をあわせたこともないせいだろう。
「樽で何をするおつもりで?」
「洗濯を楽にできる装置を作るんだよ。ちょっと待ってね」
邪魔にならないよう壁際に樽を置いて、持参した瓶の蓋を開けて絵筆を突っ込む。樽に書くならペンよりこっちの方がいいはずだ。魔力を通すクラーケンの墨に自分の魔力を溶け込ませながら、樽の腹に魔術回路を書き込んでいく。洗浄魔法だけだから、そう複雑なものではない。
魔術回路を書き終わったら、中心のあけておいた部分を加工して魔石を埋め込む。小型魔石だと使用回数が少なく何度も取り替えないといけなくなりそうだから、使うのは中型だ。この前ビッグフロッグを大量に討伐したので、数は十分にある。
「よし、できた。試してみようか」
「サリー、それ今日の洗濯物? この中に入れちゃって!」
「坊ちゃん、お嬢様、これは……?」
「洗濯機? ううん、というより洗浄魔法だから洗浄魔道具って言ったほうがいい? どう思う、お兄様」
「名前は何でもいいんじゃない? 洗浄魔法が使える魔道具だよ。使い方を説明するね。ダーナも見てて」
サリーに樽の中に洗濯物を入れてもらって、樽の蓋を閉める。そうして魔石に触れて「洗浄」と唱えれば数秒だけ魔石が淡く光った。その光が消えれば、もうおしまい。蓋を開けて確認してみれば、ちゃんと洗浄がかかっている。
「まあ! これならまとめて洗浄できますわ!」
「す、すす、すごい……! すごいです!」
サリーもダーナもぱあっと表情を明るくした。
今まで、サリーの魔力が尽きたら、洗濯は全部手洗いするか、お母様が時間ができたときに魔法をかけるかのどっちかだったもんね。お母様が不在だったり忙しいときは主にダーナが手洗いしていたようだ。
手洗いでの洗濯は重労働だから、ふたりが喜ぶのは当然だろう。
「これもお嬢様の発案ですか?」
「そうだよ。箱か何かあれば、同じ魔術回路で皿洗いにも使えると思う」
「すぐに用意しますわ。木箱でよろしいですか?」
「うん、大丈夫だよ。この魔石でどのくらいの回数使えるか調べたいから、使用回数は数えておいてくれる? 魔石の魔力が切れたら僕かメアリーアンが補充するから」
「かしこまりました。本当にありがとうございます、リオン坊ちゃま。とても素晴らしい魔道具ですわ!」
ううん、ここまでサリーに手放しで褒められたのは初めてかもしれない。いつもは夜更かしするな、部屋に籠もるなと小言をもらってばかりだし。
結局この魔道具は、洗浄機と名付けられた。樽が衣類用、木箱が食器用だ。これにはサリーだけでなく、マルクも大喜びだった。
「こうなったらいっそ、冷蔵庫と冷凍庫も作りませんか、お兄様」
「それって確か、食品を冷やすものだっけ? 流石に、木箱ではダメだと思うよ。しっかり密閉できる金属製の箱が必要だよ」
「金属の箱かあ……それは金物屋さんとかですかね?」
「あとでローダスに相談してみようか」
「そうしましょう! 私も自分で作ってみたいです」
「うーん、じゃあ洗浄と浮遊の魔法を覚えたら、それぞれの術符を作る練習してみようか。それができれば道具に回路を刻むのもやりやすくなるよ」
「はい! 頑張ります!」
訓練場に向かう道すがらも、メアリーアンは大張り切りで上機嫌だった。僕としてはメネースの魔法をはやく覚えて欲しいのだけど……。まあ、あれは初心者には難しいだろうし、基本の生活魔法を覚えてから徐々に教えていくべきだろう。
メアリーアンは覚えもいいので、一般的な生活魔法くらいはすぐ覚えられそうだ。
次回更新→本日19時
カクヨムにて「第2回GAウェブ小説コンテスト」参加中のため、先行連載しています。




