第26話 やってみたいこと、試してみたいことが多すぎる。
お母様と家政婦のローダス夫人の指揮の元、メイドのサリー、ジゼル、メイド見習いのダーナ、従僕見習いのドニ、料理人のマルク。使用人一丸となってお客様を迎える準備を始めた。
……いや、こうして羅列してみて思うけれど、やっぱりウチの使用人ってめちゃくちゃ少ないよなぁ。
ローダスはお父様と朝から晩まで書類仕事や領民からの陳情で追われてるし。ビクターおじさんは領兵を引き連れて、街道周辺の巡回強化の為走り回っている。
使用人だけでなく、召し抱えている騎士も領兵も、必要最低限を更に下回ってるレベル。うん。どう考えても子爵家の規模ではない。普通ならこの三倍は居て当たり前だ。この人数では領主館を維持するのも厳しい。
だって領主館って、一応城だからね。戦闘のための城塞ではなく城館だけど。それでも有事の際に領民を避難させるための場所でもあるから、広さだけはそれなりなのだ。
「もっと人を雇わないとダメですよね、きっと」
「そうだねぇ。本来なら領主の館は領民の大事な雇用場所であるわけだし……」
「少なくとも下働きはもっといるでしょ。洗濯機もないんだし……」
「洗濯機?」
朝からドタバタと騒がしい城館内で、少しでも落ち着ける場所を……と図書室に籠もって、メアリーアンに魔法を教えていた最中のこと。ちょっと集中が途切れたタイミングでの雑談で、またメアリーアンが面白いことを言い出した。
「自動で洗濯するための家電……道具ですよ」
「ああ、電気で動くというやつだね。どんな構造なの?」
「えっ、流石に構造は知りません……」
「ふむ……」
それもそうか。僕が作ったドライヤーだって、既に売り出されてるけれど、使う人は内部の構造なんて知らないまま使ってるはずだ。便利な道具ってそういうものだよね。
「洗浄魔法があるんだし、どうにかなりません? ちなみに見た目はこんな感じでした」
メアリーアンはさらさらとノートに絵図を書いてくれたけれど、なるほど? 箱形の機械とやらに水を引き込んで、内部に設置した籠を回転させることで衣類の汚れを落としてるのかな?
手作業での洗濯を自動でやろうと思ったら、こういう形になるんだろう。
水を入れて、回転させて、排出して、また水をいれて、回転させて脱水……うーん……。
「いっそ箱に洗浄魔法の魔術回路を刻んで、魔石で稼働するようにした方が簡単じゃないかな。それなら洗浄魔法が使えないくらい魔力が少ない平民でも使えるし」
うちではお母様もサリーも生活魔法が使えるから、洗濯は基本人力じゃなくて魔法でやってるけど。サリーなんかはそんなに魔力がないから、少しずつしかできなくて大変そうだったし。
多分セイクリッド公爵の護衛の騎士たちもくるだろうから、洗濯物はとても増えるだろう。
「それだわ! 洗浄魔法なら別に機械……鉄で作る必要はないんだし、大きい樽とかでもいいんじゃないですか? 同じ要領で皿洗い機とかも作れるんじゃ? でもやっぱり水と石けん使って洗った方が清潔な感じはするのよねぇ……。魔法で綺麗になるのはわかってるけど、なんかもぞもぞしちゃうっていうか……」
「その感覚は僕にはよくわからないけど、どっちも術式は同じものでいけると思うよ。空き樽なんてあったかな……」
「厨房ならひとつくらいあるんじゃないですか?」
洗浄魔法の術符は既に存在する。裕福な商人などが長旅の合間に使用するので、需要があるのだ。高ランクの冒険者の間でも人気があるらしい。やっぱりみんな、不潔なのは嫌だよね。
術符は基本使い捨ての割に、買うと高い。極貧時代にはお父様と僕の主な内職が術符作りだった。自分で作るなら、紙と魔力を溶かし込めるインクさえあればいくらでも出来るんだし。
でも、そうだな。単純なことなのに、なんで今まで気付かなかったんだろう。
やっぱりメアリーアンは凄いな。僕にはこんなポンポンと思いつかない。
そもそもこれがあったら便利だとか、あったらいいなとか、そういう考えが浮かばないのだ。去年は貧乏領地の役に立ちたいと農具の改良を試みたりもしたけれど、それだってお父様がそういうのがあればなあ、と言っていたから作ってみようと思っただけだし。失敗したけど。
あれもそのうち再挑戦したいなぁ。自動車が完成すれば、メアリーアンが前に言っていた農業用の車だというトラクター? とやらも作れるかもしれない。
セイクリッド公爵領は良質な小麦の生産地だ。肥沃で広大な農地を保有している公爵なら、トラクターにも興味を示すかもしれない。それようの資料もまとめておかなきゃな。
「お兄様? 行かないんですか?」
「あ、ごめんごめん。ちょっと他のこと考えちゃってた」
ひとまず今は、すぐにできるものから作ってしまおう。
メアリーアンと一緒に半地下の厨房に降りると、マルクがひとりで忙しそうに野菜の下ごしらえをしていた。
「おや、坊ちゃん、お嬢様。どうしたんですか」
「マルク、忙しいところごめん」
「あのね、マルク。空いてる樽ってない? できれば大きい奴」
「樽ですか? ちょうど空いたのがありやすよ」
「ありがとう」
僕とメアリーアンでは、木製の大きくて重い樽を運ぶのは大変だ。そのままなら。
「よっと」
「わっ、坊ちゃん、危ないですよ! 俺が運びますから!」
「大丈夫だよ、軽量化の魔法かけてるから」
僕が樽を抱え上げると、マルクが慌ててしまった。
「はぁ……。しかし、それじゃ前が見えねえんじゃ?」
「うっ……」
確かにその通り。重さは本一冊程度になってるけど、樽が大きすぎて抱え上げると前が見えない。
「お兄様、浮かして運んだりできません?」
「そうか。浮遊させて引っ張るか押せばいいのか」
浮遊魔法は対象の重さに比例して魔力を食うけど、空の樽くらいならたいしたことない。
メアリーアンの助言に従い、一度樽を下ろして軽量化を解除し、浮遊魔法を付与する。……あれ? 軽量化と浮遊を組み合わせた魔術回路を刻めば、重い車体も浮かせられるのでは? 車体が浮いていれば車輪……タイヤは要らない? いや、それじゃ人が乗るには安定性に欠けるし、姿勢制御も必要か。ただでさえ自動で動かすだけでもかなりの魔力を食う。実現は難しいか……。
これも要研究だなぁ。
ああ、やってみたいこと、試してみたいことが多すぎる。
次回更新→明日7時
カクヨムにて「第2回GAウェブ小説コンテスト」参加中のため、先行連載しています。




