第22話 「大丈夫。君がオーシスの忘れ物をもってることはみんな知っているから」
魔法の基礎は、魔力操作にある。
ざっくり言えば、体内にある魔力を放出し、望むカタチに変化させるのが魔法だ。
大気を動かし風を作るとか、水や炎、光をうみ出すのもそう。
自己の体内の魔力で、世の理を書き換え、望む現象をひき起こすわけだから、そもそもの魔力が少なければ小さな変化しか起こせない。
「はい、リオン先生」
「何かな、メアリーくん」
僕の説明を聞いていたメアリーアンが、ピッと挙手をしたので、指名する。
「魔力の強さって、生まれたときから変わらないんですか?」
「いや。まったく変化がないわけではないよ。二十歳くらいで成長は止まるけれど、それまではある程度は増える」
「じゃあ、それってもしかして……、あれですか!? 魔力枯渇するまで使い切ったら、回復後に魔力量が増えるとか!?」
「メアリー……。それは絶対にやってはいけないよ。命に関わるからね」
「えっ」
どうしてそんな危険な発想が出たんだ、と思ったら、どうやら前世の世界にあったラノベとやらでは定番の修練方法だったらしい。でもラノベでよく……とかもごもごつぶやいていたので。
いつもながら、この妹はオーシスの忘れ物のことを隠す気があるのだろうか。
正直別に隠す必要はないのだが、何故かメアリーアンは隠すべきだと思っているらしく、家族に突っ込まれそうになると焦って誤魔化すのだ。
僕としてはその奇行を観察するのが楽しいからいいのだけれど。お父様とお母様は多分、メアリーが自分から打ち明けるまではそっとしておこうと考えているんだろうな。
しかし、前世に読んだ物語の影響で無茶をされては困るので、これはしっかり教えておかないと。
「どう説明したらいいか……簡単に言えば、生物の身体には魔力を精製し、蓄える器がある。この大きさは身体の成長とともに多少増えるけれど、生まれ持った大きさがものいう。成長率はせいぜい1.5倍から2倍が限度だ。急激な魔力の枯渇やポーションでの無理矢理の回復は、この器……魔臓の機能を壊してしまう危険性があるんだよ」
「ひょえ……」
「一度壊れた魔臓を治す術はない。今のところはね」
なので、ポーションでの魔力回復は、魔力量が半分程度に減った時点で行うのが鉄則だ。それも即効性の高いものは危険なので、徐々に回復させるのが基本である。
「そ、それじゃあ、魔力を増やす方法ってないんですか?」
「基本的には身体の成長によって、なんだけど……。あとは、そうだな。魔物を倒せば倒すほど魔力が増えるっていう俗説もある」
「俗説?」
「平民の冒険者でも魔物を倒しているうちに戦闘魔法が使えるようになったっていう事例があってね。まあ一般的には、魔力量が増えたと言うより、元々平民にしては魔力が豊富だった人が、戦ううちに魔力操作の腕が上がって魔法を使いやすくなったんじゃないかって言われてるね」
「えっと……つまり魔力が上がるんじゃなくて、練度が上がって強くなっただけ?」
「そういうことになってるけど……。伯父様はもしかするとこれは俗説じゃなくて真実かもしれない、と言って研究してる分野なんだよね」
「そうなの!?」
そうなのだ。
二番目の伯父様は王都の王立魔法研究所で研究員として働いている。血統を維持する以外に魔力を底上げする方法はないのか、というのが主な研究テーマだ。
「まだ仮説の段階なんだけど、自分より少し格上の魔物を倒すと魔力が上がる、というのがあってね。まあ微々たる変化らしいけど」
「なるほど……レベリングスタイルかぁ……」
何やら納得するところがあったようだ。
「とはいえ、魔力量ばかりに固執しても仕方がない。きちんと運用できなければ宝の持ち腐れだからね。僕としては、いかに効率よく自分の魔力を使うかを極める方が、よほど重要だと思うよ」
「んむ……。確かに、そうですね……。く……っ、地道な努力が必須かぁ……」
「メアリーはもう魔力を魔道具に流すのは出来てるから、媒介があれば放出はできてる。まずは体内の魔力の流れをきちんと認識するところからだね。それ以上の実技は、明日ビクターおじさんに教えてもらいなさい」
「はぁい」
こうして第一回目の座学は終了した。
まだまだ教えるべきことはあるけど、あんまり詰め込みすぎてもいけないからね。
午後の残りの時間は自由時間ということにして、僕はタイヤの研究の続きを。メアリーアンは魔法理論入門を読破することになった。
なんとか木枠に薄くのばしたビッグフロッグの加工液を乾かし、一枚の布のようにペラペラのゴム素材を作ることに成功した頃には、すっかり陽がくれていた。あとはこれを丸めて……どうにか空気がもれないように筒状にできないだろうか。
と、地下倉庫の横に作ってもらった簡易工房で試行錯誤していたら、メアリーアンがやってきた。
「お兄様、もう日が暮れますよ」
「えっ。もうそんな時間か」
「夕食の前に、お風呂にして着替えた方がいいのでは? すごいことになってますよ」
「ああ……」
メアリーアンが言うとおり、僕の服は加工液が付着したまま固まったりして、酷いことになっていた。これはこのまま洗濯に出したらサリーが嫌な顔をしそうだ。
「洗浄。……こんなもんかな」
「うわっ! すごい! 一瞬で綺麗になった!」
「生活魔法はこんな風に、凄く便利だからね。メアリーアンも覚えるといいよ」
「そうします。あ、そうだ。お兄様、ちょっと聞いてもいいですか?」
「うん?」
出しっぱなしだった加工液や素材を片付けて、食堂へと向かう道すがら、メアリーアンの質問タイムだ。
入門書はしっかり読破したらしい。
「雷系の攻撃魔法ってないんですか?」
「ああ、そりゃあ、雷は神の御業だし……というのは神殿の言い分で、雷の発生原理がよくわかってないからなぁ」
「え?」
「火や水、土は目に見えるから、みんな想像しやすいだろう? 湧き水とかを思い浮かべれば、水が湧き出るイメージはできる。風は空気の動きを再現すればいい。火は着火の方法はわかってる。だけど雷は……災害というイメージしかないせいもあってか、再現出来る人がほとんどいないんだ」
嵐の日に天空でとどろくものであって、人智の及ぶものではない……だから雷魔法はごくごく一部の大魔法使いや、それこそ人の埒外……竜くらいしか扱えないものだ。
と、いうのが常識だったのだけれど……。
「そっか……この世界ってまだそこまで気象学が発達してないのか」
ぼそっとつぶやいたメアリーの言葉に、僕はぴたりと足を止めた。
「メアリー、もしかして、雷の発生原理を知っている?」
「はっ! え、えっとぉ……」
「知ってるなら教えて欲しいな? 一番上の伯父様はそれこそそういった、天候や気象の研究をしているんだよ」
「へ、へぇ……」
「これはお父様にも聞いて貰おう。お父様のところに行こうか」
「お、おお、お兄様っ!」
メアリーアンの手を引いて、急いでお父様の執務室へと向かう。この時間ならまだそこにいるはずだ。
「大丈夫。君がオーシスの忘れ物をもってることはみんな知っているから」
「えっ」
ニホンとやらでは、雷の発生原理まで判明していただなんて。僕が思っていた以上に文明が高度に発達していたみたいだ。
もはやメアリーアンの奇行を観察するより、どんな学問があったのか知りたいという欲求の方が圧倒的に上回っている。
混乱しているメアリーアンを説き伏せて、すぐにも気象学とやらについて教えて貰おうと思っていたのだが――。
夕食が先だ、というお母様の雷が落ちたので、それは夕食後に持ち越しになったのだった。
次回更新→明日7時
カクヨムにて「第2回GAウェブ小説コンテスト」参加中のため、先行連載しています。




