第21話 「あっ、だから貴族は貴族としか結婚しちゃいけないの?」
午前中いっぱい身体を動かして、お昼ご飯を食べて食休みをし、午後からは魔法の勉強の時間だ。
メアリーアンはすぐに戦闘魔法の訓練に入ると思っていたようだけど、もちろんそんなわけはない。座学で基礎的な理論を学ぶのが先である。
というわけで、午後の講師役は僕だ。
ビクターおじさんは巡回の為に出かけてしまったので。
「さて、それじゃあメアリー。まずは魔法についてだけど……。一般的に魔法は生活魔法と戦闘魔法に分けられるのは知ってるね?」
「はい、お兄様」
学習室の机に差し向かいで座り、魔法入門の書を広げる。
「二つの魔法の違いは?」
「ええっと……戦闘魔法は、魔物に有効な打撃を与えられるほどの威力のある魔法で、魔力が強くないと扱えません。生活魔法は、ちょっとした火起こしや、水を出したり、洗浄したり……少ない魔力でも使える、生活に便利なものをさします」
「うん、一般的にはそうだね」
「……つまり?」
「対魔物との戦闘で役立つもの以外は、とりあえず生活魔法って大雑把に括られてるだけで、生活魔法が戦闘魔法に劣っているというわけではない。これはしっかり覚えていて欲しい」
民を魔物から守る義務がある、という理由からか、貴族の中では戦闘魔法ばかり重視する向きがある。確かにソレは大事だけれど、人には向き不向きがあるもので、攻撃系の魔法より防御の方が得意だとか、回復魔法の方が得意だとか、ばらつきがあるものなのだ。強い威力の攻撃魔法が使えなければ意味がない、なんて、そんなわけない。
「なるほど……。そうですよね、魔法で土木工事もできちゃうし、畑を耕したり、水を撒いたりもできますもんね! それだって良い使い道だわ!」
「あー。うん。そうか、そういう使い方も……。まあ、大がかりなことができるのは貴族くらいだろうけど……。一般的な平民の魔力量だとちょっとした花壇の世話ぐらいしか……。まあいいや」
攻撃の為の魔力を土木工事やら農作業やらに使いたがる貴族はそうそういないと思うが、有益なのは確かだ。
戦闘魔法以外を下に見ないでね、と伝えたかっただけなんだけど……メアリーアンはアレもできそう、これもできそう、と目を輝かせている。
「じゃあ次。平民と貴族の違いは?」
「はいっ! 平民は通常魔力量が少なく、貴族は桁違いに多いです」
「そうだね。そうなった理由は知っている?」
「ええっと……。知らないです」
とたんにしょんぼりするメアリーアン。まだ教えていないことなのだから知らなくて当然なのにね。ちょっと笑いそうになったのを堪えて、僕は話を続けた。
「この大陸において、おおよその国家の成り立ちは、魔物との攻防の歴史から始まっている。大陸中に点在する魔の森、そして山や海の魔物。その脅威から身を守り生存していくためには、固まって生きていく必要があった。そうして最初の都市国家が作られ、主導したのは強い魔法が使えた人々――それが今の王侯貴族だ」
「集団の中から、突然変異的に強い個体があらわれて、集団を統率するようになった、ってことでいいです?」
「うん。そうして国を導く立場になった貴族たちは、より強い子孫を残すために、魔力が強い者同士での結婚を奨励したんだ。魔力――魔法の才は遺伝する傾向が強いと、経験上知っていたからだろう」
「あっ、だから貴族は貴族としか結婚しちゃいけないの?」
「そうだよ。とはいえ、貴族家に生まれても、家督を継げない次男以下は、自分で身を立てない限り爵位はえられず、身分上は平民の扱いになってしまう。まあ、ほとんどは騎士になって騎士爵を得るか、宮廷魔道士になって魔道士爵を得るか……。文官になって準男爵を目指すのだけどね」
我が国において、騎士爵、魔道士爵、準男爵はいずれも一代限りだ。他の抜け道としては、一代限りでも爵位をもっている親が健在なうちに、他家に嫁入りか婿入りすること、がある。爵位を得られなくなった傍系も、主家が縁組みを取り持つことがほとんどだ。友好関係にある貴族家の、似たような立場の家同士で縁談をもうける、とかね。
「そうすると、平民と貴族との間の恋愛って……」
「御法度だね。法律で決まってることだから、平民との結婚は許可されないよ。その平民が貴族並に魔力が強ければ、貴族家の養子になるっていう手はあるけど」
そうでなければ、どんなに愛し合っていたとしても正式な夫婦にはなれないのだ。もちろん家族も認めないだろうし……良くて妾として囲うくらいじゃないかなぁ。
「なるほど……だからセレーナのお母さんは……」
ぶつぶつと考え込みだしたメアリーアン。いつもの独り言が始まった。どうやら今回は、ブランシュ公爵家の、今は市井にいるというご令嬢について思いを馳せているようだ。
でもいつまでもそれを考えられていても仕方ないので、コホン、とわざとらしく咳払いをした。
「続けても良いかな?」
「あ、ごめんなさい、お兄様」
「いや、前置きが長くなってしまったね。それじゃあ、基礎魔法理論の授業を始めるよ」
「はい!」
良い子のお返事に気を良くして、僕は入門書のページをめくった。
次回更新→本日19時
カクヨムにて「第2回GAウェブ小説コンテスト」参加中のため、先行連載しています。




