第19話 「坊ちゃんもようやくまともに使える物を作れるようになったんですねぇ」
「まあ、まあ。お嬢様までいらっしゃったんですねぇ。初めまして、あたしは受付のマリッサです」
「マリッサさん! とってもお綺麗ですね! 栗色の髪がつやっつやで素敵。よろしければお手入れはどんな……」
「メアリーアン、それは後にしてくれるかな?」
髪の毛の手入れ方法には興味はないので、僕としてはさっさと用事を済ませてしまいたい。ばっさり遮ったら、メアリーアンは不服そうに唇をとがらせたが、褒められたマリッサはまんざらでもなさそうだ。
「大繁殖の時期はとっくに過ぎてるけど、生息地に行けばいくらでも沸いてるでしょ? 最優先は粘液だけど、皮も少し欲しいから、とれるだけとって欲しいんだ」
「ビッグフロッグですかぁ。不人気素材ですから、今の時期は依頼料上乗せしないと数を集めるのは難しいかもですよぉ?」
「うーん……。本当は僕が自分で狩りにいければいいんだけど……」
「ダメですよ、坊ちゃん。あれは中層の魔物でしょ。まだはやいです」
「えぇ~? レオン坊ちゃんなら大丈夫だと思いますけどねぇ」
「ダメだダメだ。せめてもう少し基礎体力上げてからじゃねぇと。大事な跡取りに何かあったらどうすんだ」
「あははっ! そうでしたぁ」
笑いながら、マリッサは手早く依頼書を作成していく。
ビッグフロッグは素材としては活用できるのはせいぜい皮が少しで、あとは魔石くらいしか得るものはない割に、素早くてぬるぬるの粘液で厚い皮を保護していて、攻撃を上滑りさせるという面倒くさい魔物だ。初夏に大量発生するので、その時はこの街の冒険者総出で大討伐を行う。みんなが避けたがるからこそ、参加義務を設けないといけないくらい不人気な魔物だ。
肉も不味い、ぬるぬるの粘液も皮も用途は特にない。皮は水筒とかには使えそうだけど、別にビッグフロッグじゃないといけないってわけでもないからね。そりゃあ人気も出ないに決まっている。
いや、でも……待てよ?
「マリッサ、実はビッグフロッグの粘液が良い素材になりそうなんだ」
「えぇ? そうなんですかぁ?」
「うん。あれを加工して、防水で弾力のある素材ができたんだよ。荷車とか馬車の車輪に張って、衝撃吸収できそうでさ。他にも、薄めたのを布にしみこませたら防水の布ができそうなんだ」
「えっ!?」
「防水布なら、昨日作ったばっかりの試作がありますよ! ほら、これ!」
「えええっ!?」
粘液が有益だと知られれば、みんなこぞって狩りに出るかもしれない。ここぞとばかりに有益性をアピールしてみたのだが、マリッサの反応は思っていたよりも良かった。
メアリーアンが差し出したハンカチに、持参していた水筒の水を少し垂らしたが、水滴は布にしみこむことなく、玉のようになって留まっている。ハンカチを持ち上げれば、つうっとそのまま机の上に伝い落ちた。
「す、すごぉい……! 本当に濡れてない!」
「これだとまだちょっと、布が重くなっちゃうから、もう少し配合は研究したいんです」
「これはすごいですよぉ! この布でテントとか幌を作ったらぁ、すごく売れると思います! 素材の買い取り相場もきっと上がりますよぉ。ちょっと待ってくださいねぇ、ギルド長呼んできますからぁ!」
きらきらと目を輝かせ、マリッサはカウンター裏に引っ込んだ。ドタバタと大きな音をたてて、ギルド長がやってくるまで、ほんの一分。
こうして、冒険者ギルドでもビッグフロッグの有益性が見直されることとなった。
まだ素材の買取料は安いけれど、僕の依頼書の他にもギルドとしても依頼料上乗せして、冒険者にも積極的に討伐依頼を出すと約束してくれたので、研究用としては十分な量を確保できそうだ。
「いやぁ、まさか、毎年処分に困ってたビッグフロッグが金の成る素材に変わるかもしれないだなんて……。坊ちゃん、防水布の開発に手伝いが必要でしたら、いくらでも声をかけてくださいね」
にっこにこで揉み手をしながら言うのは、ギルド長のバーデン。ビクターおじさんと同じくらいの年齢で、体格も負けず劣らず立派だ。元A級冒険者だと聞いている。顔に十字の大きな傷があるのだが、ソレを見たメアリーアンが「抜刀斎……!」とかなんとかつぶやいていたのは、多分前世由来の何かだと思うので聞き流しておいた。
「今のところ手伝いは……。あー、でも、そうだな。メアリーアン、防水布の配合ってどのくらいでできそうだい?」
「え? そうですねぇ。お兄様が作ってくれた配合表をまだ全部試してないので……。厚手の、幌とかテントとか、用途によって配合比率も違うだろうし、それぞれ最適なのを追求するには……。まあ、二、三日あれば?」
「防水布は、できあがったあと何か作る予定ある?」
「いえ、特には。商業ギルドに登録したら、後は使いたい人が好きに作ってくれればいいのでは?」
「うーん。それなら、バーデン。お父様に相談してからになるけど、防水布作りの工房を建てようと思うんだ。従業員として、元冒険者を雇ったらどうかな。加工液を作るのも子どもの僕らでもできるくらいだし、あとは布を浸して、絞って乾かすだけだからね」
「……! それなら、多少手足が不自由でもどうにかなりますな!」
僕の思いつきによる提案に、バーデンはぱあっと顔を輝かせた。
ブルウッドは冒険者の街でもある。それだけに、中には負傷し、腕や足に重傷を負って、ひどいと手足を失ってしまっている者も多い。そういった冒険者は、どうしたって仕事にあぶれてしまう。
薬草摘みでどうにか最低限の稼ぎを得て糊口をしのげれば良い方で、物乞いになる者もたくさんいるのだ。
領内にそういう人が増えると、どうしたって治安が悪化するから、なんとか彼らに職を与えられないかというのはお父様の悩みの種だった。ギルドでももちろん、身体の具合によっては出来そうな仕事を斡旋したりしてるんだけど……。都会ならともかく、こんな田舎ではなかなかちょうど良い仕事は見つからないんだよね。
「お兄様、それはいいですね! 私、防水布を使った商品も考えてみます! いっそのこと製法は一般公開しないで、ウチの特産品にしちゃいましょ!」
「そういうことなら、ギルドでもできる限り協力しますよ」
「うん、よろしく、バーデン。……まあ、お父様の許可が出たら、だけど」
「大丈夫でしょう。旦那様なら大喜びなさいますよ。いやあ……それにしても、坊ちゃんもようやくまともに使える物を作れるようになったんですねぇ」
ビクターおじさんがしみじみとしてるけど、ちょっと待って、何だその台詞。
それじゃあまるで、今まで僕がまともな魔道具を作れてなかったみたいじゃないか。
次回更新→本日19時
カクヨムにて「第2回GAウェブ小説コンテスト」参加中のため、先行連載しています。




