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僕の妹は転生者らしい。  作者: あいより碧


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第17話 「うん? 言ってなかったっけ?」


 メアリーアンに冒険者ギルドや領地の周辺について教えた翌日。僕はメアリーにせがまれて、お隣のビクターおじさんの家を訪ねた。


 領主館の隣の、裏庭に畑と馬房のあるなかなか広いその家は、お屋敷と言っても過言ではない。なんなら領主館より新しい分、住み心地は上かもしれないほどだ。


 昔聞いた話では、お祖父様がビクターおじさんに下賜したらしい。本当は村ひとつくらい貸し与えて騎士爵として面目が立つようにしたかったみたいだけど、残念ながら我が家にそこまでの甲斐性はなかったのである。実に申し訳ない。


 ビクターおじさん本人は、村長なんて柄でもないし管理が面倒だからごめんだ、と、家を貰えただけで十分と喜んでいたらしいけど。


 さて、そのビクターおじさんお気に入りの屋敷は、領主館の門前から徒歩五分の距離だ。田舎だけに庭が広いから、そのくらいはかかる。

 王都では子どもだけでは隣家にも行けないのだけれど、ここはウチの領地だし、少しくらいなら目こぼししてもらえる。そんなわけで僕はメアリーアンの手を引いて、マロウ家のノッカーを叩いた。


「はいはーい、どなた……あら、リオン坊ちゃん。お嬢様まで!」

「ごきげんよう、マロウ夫人」

「ごきげんよう」


 僕らを出迎えてくれたのは、マロウ家の女主人、ミシェル・マロウ夫人だ。もう五十近いというのに、十は若く見えるほど若々しく、柔らかな雰囲気の愛らしい夫人である。

 貧乏子爵家の雇われ騎士なだけに、マロウ家もそう裕福ではなく、マロウ夫人と下働きのメイドのふたりで家事を切り盛りしているのだ。


「ビクターおじさんはいらっしゃいますか?」

「ウチの人ですか? 馬房にいるはずですわ。呼んで参りますから、どうぞ中へ……」

「いえ、大丈夫です! 私たちがそっちに行くので!」

「あ、メアリー、待って。すみません、夫人、お邪魔します」

「あらあら」


 幼い頃から頻繁に出入りしているために、親戚の家よりも気軽にメアリーアンはマロウ家の母屋をぐるっと回って、裏手に向かった。僕も急いでその後を追いかける。マロウ夫人もいつものことだからと、この程度では怒ったりはしない。もちろん、お母様に知られたら雷が落ちるのは間違いないけれど。


「ビクターおじさーんっ!」

「おう、お嬢じゃねぇか。坊ちゃんまで、朝っぱらからどうしたんです」


 マロウ家の裏庭は、半分は畑、半分は馬房とちょっとした訓練場になっている。その馬房からちょうど出てきた初老の男性に、メアリーアンが飛びついた。


 既に五十過ぎであるはずだが、頑健なビクターおじさんの身体は、子どもに飛びつかれたくらいでは小揺るぎもしない。初老に入った今でも我が領の唯一の騎士として現役で働いてくれているだけあって、ビクターおじさんは筋骨隆々とした立派な体躯の持ち主だ。

 こんな田舎領主のお雇い騎士なんてもったいないくらい剣の腕もたつし、魔法の扱いにも優れている。


「あのね、冒険者ギルドに行きたいの! お父様がビクターおじさんが一緒なら、ちょっとだけならいいよって!」

「冒険者ギルド? お嬢がか?」


 怪訝そうな顔で、ビクターおじさんは僕を見た。眼が「坊ちゃんじゃなくて?」と言っている。


「私も行きたいの! お兄様は行ったことあるって聞いたのよ。私も連れて行って」


 メアリーアンの声音も言葉使いも、ここ最近聞き慣れたものに比べると随分子どもっぽく聞こえる。物心つく前からの付き合いで、ビクターおじさん相手には愛嬌を振りまき、子どもらしく駄々をこねるのが最適だと導き出したのだろう。


 その考えは間違いじゃない。ビクターおじさんには息子がひとりしかおらず、娘が欲しかったとお酒を飲むたびに管を巻いて、メアリーアンをことさらお姫様のように可愛がっていたのだから。オーシスの忘れ物を思い出す前のメアリーアンが少々我が儘なおチビさんに育っていたのは、ビクターおじさんの甘やかしが原因ではないかと思ってしまうくらいには溺愛している。


「うーん。しかしなぁ……。あんな荒くれ者が集まるようなところにお嬢を連れて行くのは……」

「お兄様は良いのに!?」

「坊ちゃんだって、俺が出したテストに合格して初めて連れて行ったんですよ」

「えっ、そうなの!?」


 そうなのだよ。

 魔石欲しさに小さな魔物狩りをしたくて、ビクターおじさんに相談したら、剣術と魔法戦闘の基礎を叩き込まれたのだ。合格を貰うまで一年以上かかったんだよ。どうにか合格したのが昨年の今頃で、冬までの間必死に一角ウサギや棘ネズミをはじめ、小型魔物を中心に狩りまくったんだ。


「せめて浅層で自力で身を守れるくらいでないと、冒険者登録なんてとてもさせられやしやせんぜ」

「冒険者登録!? してたの、お兄様!?」

「うん? 言ってなかったっけ?」

「聞いてないです!」

「去年したんだよ。小型魔石集めたかったから。それよりビクターおじさん。メアリーは冒険者ギルドを見学したいだけだよ。どのみち七才にならないと登録できないじゃない?」

「ああ、なんだ。見学だけですか。てっきり坊ちゃんに感化されて無茶言い出したかと……」


 どういう意味かな?

 僕は別に無茶なんて言ったことないと思うけど。一角ウサギなんて、魔法も使えない領民の子どもたちだって狩ってるじゃないか。


「冒険者登録はちゃんと七才になるまで我慢するから、見学だけでも! できればすぐに行きたいの!」

「やっぱりするつもりじゃねぇか! 貴族の令嬢は、冒険者登録なんざするもんじゃねぇんですよ!」

「そんなの偏見よ! 冒険者は七才以上なら性別も出自も関係なくなれるって聞いたわ。お兄様だって貴族の坊ちゃんだけど冒険者なんでしょ!?」

「いや……坊ちゃんが冒険者やってんのも大概おかしいんすけどね……?」

「ビクターおじさん、仕方ないじゃない。うち貧乏なんだし」

「旦那様から、今後は財政が上向きそうだって聞いたばかりなんですがねぇ……」

「大丈夫、おじさん。私もちゃんとお兄様と同じテスト受けてから登録するわ。それならいいでしょう?」

「えぇ…………」


 全然良くない、とビクターおじさんは顔に書いていたけれど、メアリーアンは綺麗に無視した。僕もそれについては止める気はない。どうせ止めても無駄だろうし。今後も魔石や魔物素材が大量に必要になるのは目に見えているからね。


 安価なものなら購入すればいいといえばそうなんだけど、研究開発には数が要るのだ。自分で狩ってくればタダ。気兼ねなく研究に費やせると、僕は去年学んだのである。


「魔物退治は貴族の義務だものね! ちゃんとできるように、鍛えるわ! よろしくね師匠!」

「それも俺ですか!」


 ぐっと両手を握りしめて決意表明するメアリーアンに、ビクターおじさんは薄くなった頭を抱えて天を仰いだ。


 だけど諦めて欲しい。なんといってもフィロース子爵家に、剣術や戦闘魔法をまともに教えられるような騎士はビクターおじさんだけなのだから。



次回更新→本日19時

カクヨムにて「第2回GAウェブ小説コンテスト」参加中のため、先行連載しています。


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