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第11話 「そのお値段では承諾いたしかねますわ」


 我が家に一艘しかなかったボートを大破させ、お母様から大目玉を食らった数日後。すっかり熱も下がった僕らの元に、訪ねてきたのはなんと、セイクリッド公爵様と、公子のウィリアム様だった。


「湖に落ちた息子を助けてくれたと聞いたよ。ありがとう」


 どうやら我々をお叱りに、ではなく、お礼を言いに来てくれたらしい。

 うちのボートが壊れたのも、公子の救出を急ぐあまり、ということになったようで、お礼もかねて、と同じサイズのボートを手土産に持ってきてくれた。なんて有り難い。流石公爵家、太っ腹だ。

 ……と、思っていたら、壊れたボートの代わりというだけではないようだった。


「それで、息子に聞いたんだが、魔力を動力に自動で動く船とやらに改造したそうだね? 破損した船の残骸を見せてもらったんだが、あれはどうやってどういう風に動くものなのかな? このボートを改造して同じように動かすことはできるかい? もしくは設計図があればその通りに船大工に作らせることもできるが、どうだろう。成功した暁には、自動船として販売しないか。もちろん開発特許は君たちのものだ。設計図を買い取らせてもらえるなら少なくとも金貨五百枚は用意しよう」


 がっしと僕とメアリーアンの手を握り、つらつらとまくし立てる公爵様。目がギラギラしている。これは獲物を狙う猛獣の目だ。

 僕はぞっとして固まってしまったのだけれど、ここで待ったをかけたのは、何とメアリーアンだった。


「恐れ入りますが、公爵様。そのお値段では承諾いたしかねますわ」

「ちょっと、メアリーアン!」

「おや、そうかね?」


 ツンとすまし顔で公爵様にたてついた娘に、お母様は真っ青だったけれど、公爵様の方は楽しそににやりと唇の端を持ち上げた。なんだか悪役の笑い方みたいだ。隣の公子様はちょっと呆れた顔で自分の父親を見ている。


「自動で、従来よりずっと速く動く船ですよ。市場に出回れば物流に革命が起こります。なんせ我が国では、水運は主要な運搬方法ですもの。となれば、販売時の利益も含めていただかなければ、とてもとても。確かに私どもには船大工に伝手はありませんけれど、商業ギルドに権利登録したなら長期的に見て金貨五百枚を優に超える利益が見込めますもの」


 商業ギルドの権利登録は、二種類ある。詳細な設計図を一般公開し、一定の使用料だけを受け取るもの。もうひとつは、設計図は非公開とし、他者が一切利用できないようにするもの、だ。


 前者は開発者が自分で製品を生産するラインを持てない場合、または簡単に模倣できそうな場合に利用される。自前で生産できるなら後者で登録する場合がほとんどだ。登録済みの製品を勝手に誰かが模倣して販売したら、罰金が科せられるのはどちらも同じだ。


 メアリーアンは、一般公開の特許料だけでも金貨五百枚以上の価値がある、と断言したわけだが……。いや、本気? そこまで言い切って大丈夫? 魔力が多い方の僕ですら三十分しか走らせられないんだけど?


「もちろん、まだ開発中で、試作を重ねなくてはなりません。最終的には自前の魔力のみならず、魔石を動力源として稼働する仕組みを目指しています。それが可能になれば金貨五百枚どころではないでしょう?」

「……ふ、なるほど、面白い。いいだろう。魔石稼働で実用に耐えうるものができあがったなら、設計図を金貨千枚と売り上げの二割でどうだね?」

「ふむ……。よろしいでしょう。船の次は、馬の代わりに魔力で動く車も開発する予定ですので、そちらもどうぞよろしくお願いいたしますわ」

「なんと!? 陸上移動にも革命が起こりそうだな。ははは! これは実に楽しみだ!」

「うふふ、それはもう、すんごいものを作ってみせますので、楽しみになさってくださいませ!」


 楽しそうに笑い合い、がっちりと握手を交わす、ナイスミドルな公爵様とちんちくりんの幼女。

 なんだかよくわからないうちに、今後の開発する予定のものが決まった上に、完成したら公爵家に設計図を売ることになっているんだが……?


 まあ、公爵家なら生産ラインをしっかり作った上で大量生産して販売も可能だろうから……商業ギルドで設計図を一般公開するより、利益は大きくなる? のか? 売れるの? そんなに?


 物流に革命とか言っていたけど、果たしてそこまでのものが作れるだろうか。

 解らないけど、妹と公爵様は楽しそうだし、公子様もワクワクした顔をしている。同席していたお母様とお父様は真っ青だ。


 これが、セイクリッド公爵家が我がフィロース子爵家の後ろ盾となった日のことだった。



次回更新→本日19時

カクヨムにて「第2回GAウェブ小説コンテスト」参加中のため、先行連載しています。


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