第12話 「お兄様、一刻も早く自動車を完成させようね……」
動力源とプロペラの連動と、不安のあった舵取りついては、セイクリッド公爵に紹介してもらった船大工の親方と相談することで解決した。残る問題は、いかにして消費魔力を軽減させるか、だ。
これに関しては魔術回路の効率化が肝となる。我が家の蔵書だけでは参考になる資料が足りなすぎて、僕はお父様に頼んで連日王立図書館に連れて行って貰った。この費用は、開発費としてフィロース子爵家の予算に計上されることになった。そう、自動船の開発は子爵領としての事業になったのだ。
僕らだけに任せるわけにはいかないと、お父様まで開発に加わることになり、一家揃って全力で取り組むことになった。
それもこれも、先に商業ギルドに登録した料理やドライヤーによる利益が思いのほか入ったお陰だ。やはり技術開発には先立つものが重要なのだと身に染みたね。
セイクリッド公爵家からは、何故かしょっちゅう公子様が遊びにくるようになった。自動船開発の進捗が気になったらしい。研究開発費を支援しようかという話もでたけれど、これは丁重にお断りした。もし公爵家の手を借りて、満足いくものができなかったらと思うと怖すぎる。
そんなこんなで二月ほど経過した、六の月の半ば。魔術回路の効率化と、魔力増幅の術式を組み込むことに成功した。動力となる魔石の魔力を動力炉で増幅させ、中型魔物の魔石ひとつで二十日は動くようになったのだ。魔石に魔力を再充填も可能としたし、交換も簡単にできるように設計してある。
さらに一ヶ月の試運転期間をもうけ、商業ギルドに設計図を登録した上で製品の作成・販売権をセイクリッド公爵家に売却。セイクリッド公爵家は、七の月の末に新型魔動船として、豪華に装飾を施したものを王家に献上し、量産品の小型のボートから販売を始めた。
中型、大型船舶用の設計図も頼まれて、これはセイクリッド公爵家が用意した船舶で試作をすることになったのが八の月。社交シーズンがそろそろ終わるという頃で。
どうにかシーズン終わりまでに設計を完了させた頃には、極貧に喘いでいた我が家は、大きく息を吹き返した。
なんと、社交シーズンの最後を彩る王家主催の舞踏会に、お母様が新しいドレスをあつらえて参加できたほどである。
お母様がドレスを新調するのは、実に三年ぶりのことだった。つまりお父様が爵位を継いでからは一度もなかったことで……。うん、フィロース子爵家がいかに貧相な領地なのかが丸わかりだなぁ。
夜会に出かけた両親は、魔動船を開発したことで、国王陛下からお褒めの言葉を賜ったらしい。販売権を得て普及に尽力しているのはセイクリッド公爵家だけれど、設計開発はお父様と僕、メアリーアンの三名の名前になっている。対外的には、僕とメアリーアンはおまけということにして貰った。多分他の貴族たちは、跡継ぎに箔づけするために共同開発ということにしてるのだと思っていることだろう。そうであってほしい。
今後の魔動船の普及具合によっては、お父様に陞爵の可能性もあるとかセイクリッド公爵がおっしゃってたけど、勘弁して欲しいところだ。
褒美として貰った領地が不毛の地で苦労した僕らとしては、そんなものより金一封貰える方がずっとありがたいのだから。
そんなこんなで、四の月から実に慌ただしい日々が続いていたが、九の月のはじめ、ようやく僕らは領地へ向けて出発することができたのだった。
「お兄様、一刻も早く自動車を完成させようね……」
王都から領地への長い道のり、馬車に揺られ続け。ようやく領都に辿り着いたメアリーアンの第一声がこれだった。
どうやら馬車の揺れが心身に堪えたらしい。
我が家の馬車は紋付きの旧型が一台しか残っておらず、馬も老いて売れなかった二頭が残っているだけ。そんな馬車では王都までの往復は厳しいし、高齢の家令が領内を巡るのに馬車は必要だ。そんなわけで、自前の馬車は領地に残し、王都と各地をつなぐ主要な街道を貸し馬車で往復したのだけれど。
行きよりグレードの高い馬車を借りられたんだけどなぁ?
前は文句も言わず乗っていた馬車も、前世での快適な乗り物のことを思い出してしまった今となっては、耐えがたく感じてしまうものなのかもしれない。
それはさておき、久しぶりの領地である。
フィロース子爵領都ブルウッドは、領都ではあるが規模としてはせいぜい少し大きめの街でしかない。ぐるりと石造りの防壁に囲われている、いわゆる城塞都市で、防壁の外側に農地が広がっている。
防壁の門をくぐるのは、流石にフリーパスだ。馬車は貸馬車だが、大きな窓が着いていて、外から中が見えるからね。お父様の顔を見て、門番はぺこりと頭を下げた。
「領主様、お帰りなさいませ!」
「やあ、ただいま。ご苦労様だね」
お父様が窓越しに労えば、若い門番はにかむように笑って敬礼して見送ってくれる。
防壁をくぐり抜け、車は中央大通りをしばらくまっすぐ進んだ。やがて左に曲がり、坂道を上り続けると、ようやく領主館が見えてくる。
「あれ、意外にボロくない……?」
やっと到着した懐かしの我が家を前に、メアリーアンは首を傾げた。王都の邸宅が年代物のボロだったから、こちらも覚悟していたのだろう。でも、そうだな。社交シーズンのはじめである花際りの前に王都へ出発したのだけれど、その時に比べてかなり綺麗になっているような?
「お母様、もしかして屋敷を修繕しましたか?」
「ええ。貴方たちのお陰で臨時収入がたくさん入りましたからね。領地へ着く前に修繕が終了するよう、手配しておいたのよ」
なんと、お母様は商業ギルドから得た各種料理レシピの収益で、領主館の修繕を手配していたらしい。タウンハウスの方は手つかずなのは、あちらを改修するとなると領主館以上の出費と工期が必要になるからかな。自動船の売り上げ次第では、来年は大規模改修にとりかかることもあるかも。いや、その前に使用人を増やすのが先か。今は本当に最低限しかいないからね。
なんせ一応貴族で領主であるお父様が、馬車からの荷物運びなんて従僕や下男がするような仕事をせっせとしているくらいなんだから。
出迎えに出てくれたローダス夫妻は旦那様がそんなことを、と言うけれども、夫妻は高齢なのだ。いくら重い荷物にはお父様と僕で量産した軽量化の術符が貼られているとはいえ……、ね。
王都から持ち帰った衣類や、買い込んできた食材や調味料、資材などを屋敷に運びこむのを僕も手伝った。
領主館は雨漏りの酷かった屋根や、壁や崩れかけていた外壁や厩舎なんかもしっかり修繕されている。壁も塗り直されていて、内装にも手を加えたのか、壁紙が新しくなっていた。
「坊ちゃん、頼まれていた魔物素材ですが、地下倉庫に運んでありますよ」
「ありがとう、ローダス」
自分の荷ほどきをしていたら、ローダスが大事なことを教えてくれた。冒険者に討伐依頼していた、ビッグフロッグの皮と粘液のことだ。
さっそく実験に取りかかろうと、僕は地下倉庫にかけおりた。
……残念ながら、すぐにお母様に見つかって、荷ほどきと掃除が先だと叱られてしまったのだけれども。
次回更新→明日7時
カクヨムにて「第2回GAウェブ小説コンテスト」参加中のため、先行連載しています。




