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ネオ・テラ:降下者セトの選択 ―あの日の残業、2000年後の誓い―  作者: totoさけ
長い残業の始まり ―2,000年後の地球と、白銀の騎士―

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大地の吐息、死の予兆

着陸の衝撃は、最小限だった。ポッド『イカロス』は熱を帯びた船体から蒸気を上げながら、静かにアメリカ大陸の未知なる大地へと降り立った。


[ディアーナ:……被災状況を報告します。外部装甲の80%が損壊。姿勢制御スラスター大破。通信モジュールは緊急回線のみ機能。ただし、生命維持装置は生存圏内で稼働中。……瀬戸紬の生存を確認。バイタルは安定に向かっています。]


瀬戸は、シートに深く沈み込み、大きく息を吐き出した。


「……生きてるな」


その呟きが漏れると同時に、脳内のインターフェースを通じて、かすかなノイズと共に声が響いた。


『……紬? 応答して! 無事なの!?』


エマの声だ。宇宙の彼方から、心配しきった彼女の表情が目に浮かぶ。瀬戸は柔らかく笑い、システムを通じて返信した。


「ああ、大丈夫だ。……心配かけたな、エマ」


『よかった……! 本当によかった……』


通信越しに、彼女が安堵の息をつくのが分かった。


『瀬戸、改めて聞くが大丈夫なんだな?』


ゼノの低く落ち着いた声が通信に割り込む。


「ああ問題はない。ナノマシンのおかげで体には異常はない。」


『了解した。ミア、今後の作戦に支障がありそうか?』


ゼノの問いかけに、すぐさまミアとディアーナが応答する。


『テレメトリデータを解析中……。イカロスの機体状況は芳しくないかな。メインスラスターが沈黙してるし、姿勢制御も手動バックアップに頼るしかないかも』


[ディアーナ:補足します。機体外壁の冷却システムが機能不全に陥っています。現在、降下地点の環境データと干渉しており、通信モジュールの出力が低下中。今後はインターフェイスを介しての通信を推奨します。]


『せとのバイタルだけは正常範囲……というか、降下時のオーバークロックの影響で一時的に異常な高数値をたたき出してるけど、身体機能に深刻な影響はデータを見る限りないかな。』


[ディアーナ:しかし、機体そのものの回収は絶望的です。これ以上の長居はリスクを伴います。放棄を推奨します。]


瀬戸はミアとディアーナの会話を聞きながら、自分でも体の状態を確認する。ナノマシンを移植したことで、多少の傷ならば瞬時に自己修復してしまう。もともと人体自体が強固になっている為、多少のことでは怪我を負わなくなっている。


『了解した。瀬戸、今のを聞いていたな?』


「ああ、俺的にも何ら異常はない。」


万が一を考え、瀬戸は続けて告げる。


「ディアーナ、索敵を頼む。」


[ディアーナ:了解しました。索敵を開始します。半径5km圏内に大きな生命反応は見られません。]


『わかった。ではこれより、ハッチを開放し、外気を確認する』


ゼノの指示を受け、瀬戸はハッチのレバーに手をかける。しかし、降下作戦の衝撃で歪んでいるのか、何度力を込めても動く気配がない。


「……力づくでいくしかないか」


瀬戸は踏ん張り、重厚なハッチを思い切り蹴り破った。金属が悲鳴を上げ、勢いよく飛んだハッチが真正面の大木に食い込んで止まる。

その瞬間、外の世界から湿った空気がポッドの中に流れ込んできた。宇宙服を着ているのにその湿気を感じるほどだ。よほどの環境なのだろう。


『紬、大丈夫?』


「ああ、今のところは問題ない。」


[ディアーナ:周辺へのナノマシン散布開始。現在毒素のようなものは検知なし。]


「了解。それじゃ次のシークエンスに移るぞ。」


『紬、無理はしないでね』


瀬戸は意を決して、ヘルメットのロックに手をかけた。2000年の時を超え、未来の地球と直に触れ合う瞬間だ。


ゆっくりと、ヘルメットを外す。


次の瞬間、激しい衝撃が瀬戸を襲った。


「ぐっ……!?」


[ディアーナ:警告。大気接触を確認。未知の病原体、およびウイルスを大量に検知。生体適合指数、急降下中]


『紬! バイタルデータが乱れてる! 一体何が……!』


エマの悲鳴に近い声が、脳内に響く。


『ダメだよ、あんなに急激に大気に晒しちゃ! せと、すぐヘルメットを戻して! 今の環境、2000年前とは別物だよ!』


[ディアーナ:警告。瀬戸の白血球および抗体生成プロセス、通常値の300%を超過。自己免疫の暴走が始まっています]


『落ち着け。想定内の適応現象だ』


ゼノの冷静な声が、パニック寸前のハンガーに響く。


『ミア、ナノマシンの同期を最適化しろ。瀬戸の身体への負荷を軽減させるんだ』


『わかってる……! よーし、やってやる! せと、耐えて!』


全身の血液が沸騰するような、猛烈なめまい。視界が上下に激しく揺れ、胃の中のものが逆流しそうになる。


「くそっ……! 落ち着け……!」


『紬、頑張って!』


倒れ込みそうになる身体を、ポッドの縁に手をかけて支える。視界の端ではナノマシンが猛烈な勢いで数値を書き換えている。まるで細胞の一つ一つが、見えない敵と戦う戦場と化していた。


『よーし、生命維持に必要なもの以外全部抗体リソースにまわしたよ』


[ディアーナ:自己免疫細胞活性化を確認。バイタルいまだ通常時を超えたままです]


ナノマシンが外気から取り込んだウイルスを分解し、瞬時に抗体へと変換していく。熱い。血管の中を溶岩が流れているような感覚だ。瀬戸は奥歯を噛み締め、その猛烈な自己免疫反応を意志の力で統御する。全身を駆け巡るナノマシンが、彼の肉体を2000年後の地球に適応させるための「設計図」を強引に書き換えていく。


抗体生成の熱が収束し、暴走していた数値が少しずつ安定を取り戻し始めた。荒い呼吸を繰り返し、数分が過ぎた頃――ようやく身体の芯に力が戻ってきた。


めまいが引いた世界は、驚くほど鮮明だった。


顔を上げると、そこには自分が知る「地球」があった。頬を撫でる風の感触。森の奥から聞こえる、聞いたことのないような鳥のさえずり。清流が岩を打つ水の音。そして、鼻腔をくすぐる、瑞々しい土と草木の匂い。


「……あぁ」


気づけば、瀬戸の目から涙がこぼれ落ちていた。2000年。自分は確かに、ここへ帰ってきたのだ。景色はどれだけ変わろうとも、この大地は、この風は、間違いなく故郷のものだった。


(ああ、帰ってきたんだ。……二千年の、独りぼっちだった眠りから)


感慨に浸る時間は、ほんの一瞬だった。エモーショナルな余韻を切り裂くように、脳内のナノマシンが冷徹な警告を鳴らした。


[ディアーナ:警告。急速に接近する生命反応を検知。敵性反応数、3。]


瀬戸の背筋に、氷のような戦慄が走った。茂みの奥から、今までとは全く異なる、濁った殺気を感じる。彼は涙を拭うこともなく、再生された右腕を握りしめた。


「出張帰りの歓迎会にしては、随分と野蛮だな」


向かってくるであろう方向へ向け、瀬戸は低く身を構える。2000年後の地球の「住人」たちが、獲物である彼を狙って、すぐそこまで迫っていた。

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