明かされた真実、突然の「父親」宣言
「では、そこの倒れている男に、急に襲われたということなのだな」
「うん」
遺跡の警備隊員とナオミが淡々と事情聴取を交わしている少し離れた場所で、瀬戸は周囲に怪しまれないよう注意を払いながら、微量のナノマシンを静かに大気中へ散布させていた。
「それで、そっちはトレントと一緒に落下して、そいつを倒してからここまで戻ってきたと……おいおい、あんためちゃくちゃな暴れ方するじゃないか」
オオカミの耳をピンと立てた獣人の警備兵に呆れたような目で見られ、瀬戸は苦笑いを浮かべながら愛想笑いでその場をごまかす。
「いや、俺としてはそんなつもりは全然ないんだが……なぜかいつもこういう面倒な事に巻き込まれる性質でね」
「はあ? あんた、もしかしてものすごい疫病神でも取り憑かれているんじゃないのかい? 一度、街の教会に行って厄払いでもしてもらった方がいいぜ」
警備兵はからからと笑い声を上げながら、被害状況の確認と実況見分を行うために再びトコトコと離れていった。その背中を見送りつつ、瀬戸は内密に通信回線を立ち上げる。
(それで、状況はどうだ? 敵のデータは十分に集められたか?)
[ディアーナ:はい。戦闘中も含め採取したサンプルのデータ収集は、ほぼ完了しています]
『こっちの解析も順次進んでるよ!さっきのあのトレントってやつさあ、あれ、中身を調べたら実は昆虫の変異種だったんだよ』
(昆虫だって? あの木そのものに見えた怪物が?)
ミアから返ってきた意外すぎる解析結果に、瀬戸は思わず心の中で眉根を寄せる。
『そう! あの、木の枝にそっくりなナナフシって虫、知ってる? ああいう系統の遺伝子がベースになってた』
(……あれが、か……)
地球にいた頃に図鑑などで見た昆虫の姿を脳裏に思い浮かべていると、背後からトタトタと軽い足音が近づいてきた。振り返れば、そこにはナオミの姿があった。
「どうした?」
「これ、返す。あと、ソフィアちゃんにもあとでお礼を言いたいんだけど」
そう言いながら、ナオミは漆黒の黒剣をスッと瀬戸の方へ差し出した。
受け取ろうと瀬戸が右手を伸ばした、まさにその瞬間――ピタリと、彼の指先が空中で硬直した。
今、ナオミは「ソフィアちゃん」と確かに口にした。
そして、よくよく思い出してみれば、先ほどの激しい戦闘の最中、彼女は自分の意志でその黒剣に組み込まれたナノマシンシステムを完全に起動し、操っていたはずだ。
瞬間、瀬戸の胸の内で、これまで抑え込んでいた疑念と警戒心が急激に跳ね上がる。
『たしかにあの時、この子、超振動剣のナノマシンを完全に使いこなしてた!』
『紬に組み込まれた生体ナノマシンとも、完璧に同期がかかっていました……!』
エマやミアも、戦いの最中に見過ごせなかったその異常性に今さらながら気づき、慌てて通信を通じてゼノ艦長へと意識を向ける。
『艦長は、最初から何かをご存じなのですよね……?』
『ディちゃんも、黙って聞いていたということは……このことについて、何か知っているんだよね? どういう説明をするつもりか、聞かせてもらうよ』
[ディアーナ:……艦長……]
すべての機微を把握しているはずの二人に、ステーション全体の視線が一斉に集中する。
「…みんな……なに怒ってるの? ひょっとして、ケンカしてるの?」
周囲のピリついた異様な空気を敏感に察知したのか、ソフィアが小首をかしげながら、不安げな瞳で瀬戸をそっと引っ張った。
「ソフィアがみんなの言うことをちゃんと聞かなかったから、怒られちゃったの……?」
今にもぽろりと涙をこぼしそうな少女の切なげな声が、静まり返ったステーションのフロアに小さく響き渡る。
『ソフィアちゃん、それはち――』
「大丈夫だよ、ソフィアちゃん」
ピリついた空気を切り裂くように、ナオミがその会話にすっと割り込んできた。
「おい、ナオミ。お前、さっきから俺たちの通信の会話が、どうして聞こえているんだ?」
瀬戸の鋭い問い詰めに対し、ナオミは一切怯むことなく、ただ静かに、そしてまっすぐにうなずき返した。
「艦長さん、私は大丈夫。みんなにも、本当のことを教えてあげて」
ナオミはすべての覚悟を決めた強い眼差しで、目に見えない存在であるゼノの居場所を見据えながら、自らの決意を言葉に乗せた。
『……わかった』
[ディアーナ:艦長、本当に宜しいのですか……?]
『ここまで来たら、説明せねば誰も納得すまい。それに……いつかは必ず話さねばならぬ、我が宿命でもあるのだからな』
ゼノもまた、ナオミの揺るがない覚悟を受け止めるように、深く息を吐き出して腹をくくったようだ。
『瀬戸, 彼女は……お前の――』
「そう, あなたは私の――」
『クロー「お父さんだよ」ンだ』
重々しい沈黙と、予想の斜め上を行く言葉が、完全に同時に、バラバラのタイミングで発せられた。
――ほんの一瞬の、完全なる静寂。
『『「えぇぇぇぇぇぇ――――っっっ!!!!?」』』
ステーションの通信回線をも揺るがすような、今日一番の絶叫と驚愕のどよめきが、あたり一面に盛大にこだまするのであった。




