光芒の果ての真実
ナノマシンが発する高密度のプラズマが瀬戸の革鎧を眩く白く発光させ、継ぎ目から漏れ出た余剰エネルギーが火花のように激しくはじき飛ぶ。
倒れた異形の巨大ロボットの上へ軽やかに着地したまま、瀬戸は容赦なくビームサーベルを鋭く振り抜いた。
先ほどビームガンでソフィアを踏みつぶそうとした男の右足を一撃のもとに吹き飛ばし、続けて「次は腕だ」と言わんばかりに、暴れる両腕をも一刀両断する。
《な、なんで!? なんで復元できないんだよっ!》
男は全身から集めた異星物質の虫たちが、自分の思い通りに再生しないことに激しい困惑の声を上げる。
もっとも、瀬戸の放つ超高熱のプラズマとビームサーベルに焼き切られたことで、集合体を形作っていた異星物質の虫たちは分子レベルで文字通り焼き殺されている。当然、生命活動を停止した者が元に戻ることはない。
だが、その事実を知る由もない男は、ただ我が目を疑い、喚き散らすように叫ぶだけだった。
(――やっぱり、こいつも日本語をしゃべっているか……)
ソフィアが踏みつぶされそうな極限の状況を目の当たりにし、一時は怒りで頭に血が上っていた瀬戸だったが、男が発する母語の響きを聞き、急速に冷徹な理性を取り戻していく。
ただ処分するだけでは足りない。この男からは、すべてを聞き出さなければならない。
《ちょ、調子にのるなよ、この野郎っ……!》
男がヒステリックに絶叫すると、足元に這いつくばっていた異星物質の虫たちが一斉に形を変え、無数の鋭利な針となって瀬戸へと襲い掛かる。
「……お前がな」
瀬戸は冷ややかな瞳のまま、ビームサーベルを横にひと薙ぎして飛来する針の群れをまとめて切り裂く。そして、寸分の隙も与えず、そのまま剣先を真下へと向け、ビームガンを数発容赦なく撃ち込んだ。
『データ解析終了。そいつが使っているの、中身は完全にただの虫だね』
(このどす黒い塊、すべてか?)
『そのようです。ベースはゾウムシの一種ですが、異星物質の汚染によってその硬度と増殖力が異常に発達しています』
まるで作業でもするかのように淡々とビームガンを撃ち込みながら、敵の戦闘能力の核心を丸裸にしていく。今度こそ、絶対に逃がさない。胸の奥で冷たい闘志が燻る。
《ひぎゃあぁぁぁぁっ……!!》
男の断末魔のような悲鳴が響き渡ると同時に、無数の弾痕で穴だらけになった巨大ロボットの外殻が、まるで砂粒のように霧散して消えていく。
後に残されたのは、左肩を激しく打ち抜かれ、うなだれるように地面に這いつくばる男の姿のみだった。
瀬戸は静かに、しかし威圧感を伴った足取りで、ゆっくりと男に近づいていく。
《痛い、痛い、痛いよ……なんでだよ、なんで……僕は主人公なんだ……なんでも思い通りになるはずなのに……お前らが悪いんだ、そうに決まってる……!》
まるで呪言のように、自分にとって都合の良い言葉ばかりを繰り返し呟く男。
「おい」
瀬戸は小さく溜息を吐きつつ、冷たい銃口を男の眉間へと正確に向ける。
「お前らは一体何者だ? 何が目的だ」
《なんなんだよ、なんなんだよ、ぼくより強いなんて……ぼくが、ぼくが悪役じゃないか……あいつらはただの罪人のくせに、罪人のくせにぇぇ……!》
瀬戸の問いかけなどまるで耳に届かず、男は頭を抱えながらいまだに呪詛のような毒を吐き続ける。
「――いくら待っても、彼女たちは助けに来ないよ」
ふいに、静まり返った空間の背後から声がかかった。振り返れば、そこには激戦を耐え抜いたソフィアを優しく抱きかかえたナオミが立っている。
《な、なっ……何を言ってるんだい……マリアたん……》
男は半狂乱の状態で顔を上げ、嫌悪感を露わにするナオミをぎょっとした目で見やった。
ナオミは虫唾が走るものを見るような冷ややかな目で男を睨みつけ、言い放つ。
「何言ってるのか全然わかんない。けど、大まかな予想はつく。だから教えてあげる。あの子たちに巣食って操っていた気味の悪い虫は、私が全部取り除いた。もう、あなたには誰も操れない」
ナオミは腰に下げた漆黒の剣の柄にそっと手をかけ、冷徹な現実を男に突き付けた。
《……や、やっぱり3次元なんてクソだ! か、可愛い顔してるからって、ちょ、調子にのりやがって……ビッチが! ビッチがぁっ!!》
思い通りにならない現実とナオミへの恐怖を紛らわせるように、男は聞き苦しい暴言を喚き散らす。それは、彼らがかつて育った故郷の言語による汚い罵りだった。
あまりの聞き苦しさに、瀬戸は苛立ちを隠しきれず、這いつくばる男の左肩を足で容赦なく思い切り小突いた。
《がっ……!》
走る激痛に、男の意識は否応なく現実へと引き戻される。
「ようやく、話を聞く気になったみたいだな……。お前らは何人いる、仲間は他にもいるはずだ……お前と同じ黒ずくめの格好で、刀を振り回す奴を見た。お前と似たような気配と力……極めつけはその言葉だ。今更、言葉が分からないなんて言わせないぜ」
男を精神的に追い込むように、瀬戸はさらに足を強めに踏み込み、銃口をぐっと押し付ける。
「ぼ、ぼくは――」
《そこまでだよ》
[ディアーナ:異性物質反応、最大値! 攻撃が来ますッ!]
AIの切迫した警告とほぼ同時に、空間を引き裂くような無数のどす黒い異物を含んだ凄まじい斬撃が、瀬戸の背後から飛来した。
ナノマシンの出力を極限まで高めた瀬戸は、紙一重の機動でそれを華麗に躱すが、その生み出された致命的な隙を突き、漆黒の影のような何者かが這いつくばる男を瀬戸の足元から引き離した。
《幻灯殿、た、たすかったであります》
死の淵から救い出されたことに安堵したのか、男は助けに現れた影の人物に向けて必死に感謝の言葉を紡ぐ。だが、助けに来たはずの影――幻灯と呼ばれた影は、一言も返事をしないまま、異様な殺気を纏って目の前の瀬戸を警戒し続けていた。
《……幻灯殿? どうしたんです? さあ、あいつらを八つ裂きにしましょうよ!》
形勢が逆転したと勘違いした男は、調子を取り戻したように反撃を促す。
「お前も、こいつらの仲間か」
瀬戸は冷ややかな眼差しでビームガンの銃口を新たな標的へと向け、低く問い質す。幻灯は警戒しつつ男に質問する。
《粘田君。君、人形の回収は済ませたんか?》
《幻灯殿、本名で呼ぶのはやめてほしいのです。ぼ、ぼくは芭蕉です! そんなことより、今はそれどころでは――》
芭蕉、もとい粘田と呼ばれた男は、痛む肩を押さえながら言い訳がましく話をそらそうとする。
その往生際の悪い姿に、幻灯は深く溜息を吐きながら、冷ややかに言い放った。
《回収したんかって、聞いてんねん……》
《そ、それは……》
《ウチは最初に言うたやん。やるべきことをやってからにせえって……その結果がこれか》
幻灯は人間の実体を持たないかのような影のシルエットのまま、手にした小太刀をスッと構えた。
そのただならぬ戦闘態勢を見て、ナオミもまた一歩前に出て黒剣を強く握り締める。様子をじっと見ていた瀬戸は大きなため息を吐きつつ黒づくめの二人へと言葉をぶつける。
《これ以上答える気がないのなら、こちらも力づくでいくぞ》
ナオミは何を喋っているのかまでは理解できていないものの、一瞬の隙も逃さないように構えを解かず、いつでも次の攻勢に出られるよう神経を研ぎ澄ませていた。
《に,日本語……!? な、な、な、なんで、お前がそれを……!》
《ホンマ、えらいこっちゃで……ジブン、日本人なんけ?》
《だったらなんだっていうんだ》
瀬戸は感情を一切表に出さず、涼しい顔で淡々と返す。
その冷静すぎる返答に激昂したのか、粘田は顔を真っ赤に染め上げ、怒鳴るようにまくしたてた。
《な、ならなんで罪人をかばうんだよ! ぼ、ぼくたちをこんな散々な状況にしたのに……!》
《だからって、何してもいいってことにはならないだろ》
《うるさい! うるさい! うるさいっ! 僕らは選ばれたんだ! ならば、あんな罪人たちにどんなことをしようと、すべて許されるはずだ!!》
《粘田君、ちょっと黙っていようか》
《だって、幻灯が――え……?》
粘田のあまりのヒステリーに耐えかねたのか、幻灯は静かに振り返り、制止する言葉をかけた。
だが、次の瞬間。幻灯は持っていた小太刀を躊躇なく突き入れ、粘田の胸を一突きにして貫いた。
《幻、と、う……?》
《その名前、自分は好きやない。ジブンが勝手に考えた名前やから、特に愛着もないんや》
《そ、そんな……!》
《ほなな、さようならや、粘田俊樹君》
あまりにも唐突すぎる仲間の処刑劇に、瀬戸もナオミも、そして背後で息を呑むソフィアたちも、一瞬たりとも身体を動かすことができなかった。




