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ネオ・テラ:降下者セトの選択 ―あの日の残業、2000年後の誓い―  作者: totoさけ
侵食する過去と今

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群がる悪意

男の身体へと、床や壁から這い出た異星物質が狂おしいほどの勢いで集まっていく。そのただ中で、男は我が物顔でうごめく黒い澱を従え、ただ不気味に笑みを浮かべていた。


どれほど強大なエネルギーを練り上げている最中であれ、無防備に隙を晒している状況を、百戦錬磨の傭兵が見過ごすはずもない。


「逃がさない!」


ナオミは一足飛びに床を蹴り、空間を引き裂くような超高速の斬撃を繰り出した。男の首元を捉え、その禍々しい覚醒を文字通り断ち切るための渾身の一閃。


しかし、その致命的な一撃を阻む異変に気付いたのは、後方で息を整えていたリズだった。


「ナオミ、危ない!」


男の背後、虚空の空間から突如として巨大な影が膨れ上がる。それはぞっとするほど不気味にうねる、空中に浮かぶドス黒く禍々しい腕だった。


リズは反射的にナオミの元へと走り、その身の前に割って入るようにして飛来した拳を受け止めようとする。だが、咄嗟の行動で踏み込みが甘く、圧倒的な質量を誇る異形の腕を完全に受け止めきれない。


「っ……あ……!」


重撃の衝撃はリズの防御を貫き、背後にいたナオミごと激しく吹き飛ばした。廊下の壁に叩きつけられ、二人は激しく床を転がる。


「リズ、ごめん……!」


「いいの……っ、それより、あれなんですか……!」


痛む身体を押さえて跳ね起き、二人は警戒を露わにして男を見やった。


男の両脇には、先ほどナオミを襲ったドス黒い両腕が、まるで生きた蛇のようにゆらゆらと浮かんでいる。


「お、驚いたかな……ぼ、ぼくの力だよぉ」


男は口の端に粘ついた泡をためながら、底意地の悪い卑しい笑みを浮かべていた。


「ただ手が増えただけでしょ。調子に乗らないで」


ナオミは冷ややかに吐き捨てると、折れそうにならないよう魔力を込めて再度攻撃を仕掛ける。今度は背後に控えるドス黒い巨大な両腕の軌道も警戒しつつ、死角を縫うように踏み込んだ。リズもまた、腹部の痛みを堪えながら遅れて追撃の態勢に入る。


ナオミが渾身の剣劇を振り下ろすが、浮遊する巨大な両腕がまるで意志を持つ盾のように割って入り、その斬撃を受け止めた。


「っ……硬い……!」


ナオミが全体重を乗せて押し切ろうとするが、まるで上質な鋼鉄を叩いているかのように固く、逆に重い反発力で押し返される。男は余裕しゃくしゃくといった様子で、不気味な笑みを張り付けたままナオミを見つめていた。


「がら空きですよ!」


その隙を逃さず、リズが男の死角から飛び出す。身体をひねり、全身の魔力を一点に集中させた渾身の拳を大きく振り抜いた。


ガキィィィン!


硬質な打撃音が響き渡る。ガントレットで捉えたはずの感触はしかし、手応えを失って弾き返された。


「えっ……!?」


完璧に攻撃がヒットしたと確信していたリズが、信じられないものを見る目で困惑の声を上げる。


男の表情が、一瞬にして冷酷な冷徹さへと切り替わった。


「合法ロリが、調子に乗って触るんじゃないですよ」


男のだらりと下げた両腕にも、同じくドス黒い異星物質が纏わりつき、強固な硬質甲殻のように腕を覆っていた。男はそのまま無慈悲な軌道で、覆われた拳をリズへと叩きつける。


黒い濁流のような衝撃波に飲まれ、リズの小柄な身体がたまらず吹き飛ばされた。


「リズ!」


ナオミは咄嗟に追撃を躱し、リズのフォローに入るように男の背後へと回り込んで鋭く切りかかる。


しかし男は振り返ることもせず、自身の腕に纏わりついた異物の塊でその一撃を防いだ。金属同士が擦れ合うような嫌な音が廊下に響き渡り、剣劇が完璧に止められる。


「ひ、ひどいな……け、けがでもしたら、どう、どうするんだよう……」


男は背後から斬りつけられているというのに、どこか嬉しそうにナオミを見上げながら、気味の悪い言葉を紡ぎ出す。


「リズ! 大丈夫!?」


「うん、大丈夫……ちょっと油断しちゃった」


体勢を立て直すため、ナオミは一度大きく距離をとり、リズの元へと駆け寄る。リズもまた、強烈な一撃を食らった腹部を片手でさすりながら、ゆっくりとガントレットの構えを取り直した。

二人は並び立ち、目の前の怪物を冷徹に観察する。


「あれ……虫の塊だよね」


「やっぱりそうだよね。見た目も、言動も相まって、ほんと気持ち悪いですね……」


交戦しながらも、二人は冷静に男の戦闘スタイルを分析し始めていた。男の腕や周囲を飛び交う巨大な両腕の正体は、無数の虫が集合し、疑似的な硬度を形作っているものらしい。


「ほんと、気持ち悪い」


「同感です。虫酸が走る」


「マリアたん、ひ、ひどいなぁ、そんなこと言わないでよ」


男はぞっとするような笑みを深めながら、二人の姿をしつこく見据えている。


「いつまでもナオミのことをマリアと呼ぶな! この気味の悪い虫野郎!」


リズが怒気を爆発させ、一呼吸置いてから強烈に地面を蹴り飛ばして再び距離を詰める。


「あなたのこと虫より嫌い」


ナオミもまたその動きに完璧に合わせ、左右から挟み込むように肉薄した。


「ぼ!…ぼくを!虫って呼ぶんじゃない!」


男の顔が歪み、激昂したように両脇の巨大な両腕が上空から地面へ向け、容赦のない連続攻撃を開始する。


ガガガガガッ! と凄まじい轟音が響く中、二人は最小限の身のこなしで次々と繰り出される拳をかわし、確実に男との距離を詰めていく。無駄のない洗練されたステップで死地を潜り抜け、いよいよ懐に飛び込もうとしたその時だった。


「もう、おこったよ……」


男が不気味にささやき、自身の右腕にまとわりついていた無数の虫たちがうねりを上げて形を変える。それは瞬く間に、おぞましいほどに尖った鋭利な円錐型の槍へと変貌を遂げた。


「こ、これでもくらえよ! ドリルパンーチッ!」


絶叫とともに、異形の槍が凄まじい勢いで回転し、そのまま二人めがけて放たれる。


ナオミは咄嗟に手元の剣でその突きを受け止めようとした。


「くっ……!」


高速回転するドリルと剣が激突し、周囲に散るような激しい火花が視界を埋め尽くす。


「も、もう……いい加減、あきちゃったな……マリアたん、ぼ、ぼくだけのものに、可愛い人形にしてあげるね……」


男がうっとりとした、歪んだ笑みを浮かべる。その異様なプレッシャーと回転の負荷に耐えかねた瞬間、乾いた音とともにナオミの剣が真っ二つにへし折れた。


「っつ……!」


武器を失い、バランスを崩したナオミめがけて、回転する鋭利な槍が容赦なく突き進む。


「ナオミ!」


背後からその危機を察知したリズが、迷うことなく飛び出した。


「っぐ……!」


咄嗟に両腕のガントレットを交差させてガードに入ったリズだったが、直撃した衝撃はあまりにも重く、防ぎきれぬまま廊下の壁へと激しく吹き飛ばされていく。


「リズ――っ!」


轟音と土煙が舞う中、ナオミの叫び声は無残にもかき消されてしまった。

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