人形たちの終焉
鋼と鋼がぶつかり合い、火花が激しく廊下に散る。ナオミは一瞬の隙を見出し、男の喉元を突かんと剣を鋭く突き出す。しかし、その刹那、どこからともなく飛び出した一番小柄な少女が、己の身体を盾にしてその攻撃を受けようとする。
「……ッ!」
ナオミは舌打ちとともに剣筋を微かに変える。動きはそのままに、男を仕留めるのではなく、突きかかってきた少女の剣へと軌道を修正しはじき返す。バランスを崩したところに力任せに少女を蹴り飛ばす。口から空気が漏れる音がすると、少女は糸の切れた操り人形のように床に崩れ落ち、動かなくなった。
「うっとうしい……!」
ナオミは吐き捨てるように呟く。怒りはない。ただ、虫が這い回るような生理的な嫌悪が、彼女の冷静な判断を支えていた。残る2人の少女が、主を守る鉄壁のごとくナオミの周囲を旋回する。
「マ、マリアたん、お、お友達を傷つけるのはよくないなぁ」
男は床に伏した少女を、まるでただの不要物であるかのように無関心な目で一瞥し、それから嬉しそうにナオミを見つめた。
「ほんと、最低」
ナオミの言葉は氷のように冷たくかえす。しかし男はナオミの侮蔑など一切意に介すようすはない。
「ひ、ひどいなぁ」
本気で悲しんでいるわけでもない様子で、ヘラヘラと笑いながら一歩ずつ距離を詰めてくる。男が近づくたびに、空間の濃度が変わり、重苦しい悪寒がナオミの肌を刺した。
しかし、少女2人の連携攻撃を捌き続けるナオミに、後退する余裕はない。
「ナオミに近づくな!」
響き渡る声とともに、空気が切り裂かれる。リズが交戦していた2人の少女のうち、1人を魔力を乗せた強烈なパンチで男へと吹き飛ばした。男は避けようともせず、歩みを止め、ただ向かってきた少女を冷めた目で見つめる。
男は受け止めるそぶりすら見せず、足元に叩きつけられた少女が動かなくなったのを確認するだけだ。
「ナオミ!」
「リズ、大丈夫?」
「万全とは言い難いけど、何とか……そっちは?」
リズはナオミと背中合わせになり、荒い息をつきながら構える。少女たちを行動不能に追い込んだものの、リズの消耗は激しい。
「こっちも似たようなもの。それよりリズ、この子たち何か変……」
「……やっぱり、ナオミもそう感じる?」
「攻撃をしても避ける素振りも、痛がる素振りもない。まるで人形みたいに動く。でも、切ったり、殴ったりした感触は、確かに生き物そのもの」
矛盾した事実にナオミ自身の眉がひそまる。
「考えるのは後! とにかく今は――」
「――目の前の敵を倒す!」
二人は深く息を吸い込み、乱れた呼吸を整える。少女たちもそれを待っていたかのように、再び無機質な殺意を剥き出しにして迫りくる。
鋭い槍の突きがリズの眉間を狙う。リズは即座に左手のガントレットに沿わせて軌道を変え、身体を回転させると、勢いのまま右手で槍を強引に掴み取った。
「そこっ!」
引き寄せられてバランスを崩した槍使いの少女。その隙を見逃さず、ナオミが閃光のような一撃を叩き込む。槍使いが意識を失い、倒れ込む。勢い余ったナオミがわずかに隙を晒す。すかさず別の少女が切りかかるが、ナオミは待っていましたとばかりに身体を大きくのけぞらせ、攻撃を回避した。
「今!」
大振りで隙だらけになった少女の目の前に、ナオミの影から飛び出したリズが現れる。リズのガントレットに魔力が過剰なほどに込められ、少女の腹部を強烈に殴り抜いた。少女は壁まで吹き飛ばされ、そのまま沈黙する。
「最後の一人!」
二人同時に残った少女へ突っ込む。少女は剣を横殴りに振るうが、リズが前に出てガントレットで強引に受け止める。その隙にナオミが背後に回り込み、少女の意識を刈り取った。
静寂が廊下に訪れる。二人は息をつく暇もなく、男の方を向いた。
男は少女たちを見下ろし、つまらなそうにぼやくと、無造作に足元の少女を踏みつけた。
「……ッ! あなた、仲間をそんな風に足蹴にするなんて!」
「う、うるさいな……ざ、罪人のくせして……」
「罪人?あなたのやっていることはなんだというのですか!」
リズが電光石火の勢いで飛び出していく。男はよけるそぶりなく足元の少女をリズに蹴り飛ばす。とっさの出来事だったが何とか少女を抱き留める。
「お、お前、どこまで!……」
「つっ、作り物の合法ロリなんかが、えっ偉そうにするんじゃ、な、ないよ」
男は不快そうに顔を歪め、両腕をだらりと下げた。その瞬間、男の身体から禍々しい異星物質が異常な量で噴き出し、周囲の空間を黒く染め上げていく。
「でっ、でもい、いいか。マリアたんを新しくむ、迎えればいいんだもの」
男が不気味な笑みを浮かべた。その目は、もはや人間のものではなかった。ナオミとリズは、彼がこれから解き放とうとしている異様なエネルギーに、身動きがとれないほどの圧迫感を感じていた。逃げ場のない廊下で、決戦の火蓋が切って落とされようとしていた。




