交錯する意志と偽りの運命
空中で瀬戸は即座にホルダーからビームサーベルを抜き放つ。落下という死地にありながら、思考は冷徹なほどに研ぎ澄まされている。
「うっらぁ!」
瀬戸は左手に絡みついたままの蔦を、逆に利用して強引に力任せに引き寄せる。落下速度による慣性が加わり、抵抗するトレントたちの塊ごと強引に引きずり回す形となった。意思を持たぬ植物の塊と化したトレントたちは、なすすべなく瀬戸の引き寄せる力に翻弄される。
その勢いのまま、瀬戸は右手のビームサーベルを一直線に突き立てた。高出力の光の刃が、2体のトレントを同時に貫く。
「消えろ!」
さらに瀬戸は、貫いたトレントを回転させ、真横に渾身の力で蹴り飛ばす。ズズン、という重苦しい音とともに、トレントは下層の踊り場へと吹き飛ばされその肉体が踊り場に無残に転がる。
瀬戸はトレントだった物から繋がったままの蔦を左手に絡ませたまま振り子のように軌道を変える。強烈なGがかかるが、強靭な肉体で耐え切り、下層の踊り場へと何とか転がり込んだ。
「いっつっ……」
荒い息を吐きながら、瀬戸はゆらりと起き上がる。左手を見れば、蔦によって引き裂かれた傷口が、ナノマシンによってチリチリと音を立てながらゆっくりと修復されている。
『紬、大丈夫ですか?』
「ああ……それよりソフィアたちは!」
瀬戸は傷の痛みも忘れて、慌てて上の階の状況をエマに問いかける。
[ディアーナ:ソフィアは無事です]
ディアーナの即答に胸をなでおろす。「ソフィアは」という言葉が強調されていたのが気になる。瀬戸は返事も待たずに、上の階へと続く階段を駆け上がった。
上の階層では、ナオミが異様な気配を放つ男と、幽鬼のように立ち尽くす少女たちを前に剣を構えていた。リズも同様に、その異様な集団に対して臨戦態勢をとっている。
「あなた、誰」
ナオミが鋭い視線を投げつける。
「ふ、ふふふ、ふへ……ぼっぼくだよ。あ、あ、悪漢からま、守ってあげたじゃないか」
男は異常な興奮状態で口角を泡立てている。その言動にナオミの背筋に嫌悪の冷水が走った。
「ナオミ、知り合いなのですか?」
リズが警戒を解かずに尋ねる。ナオミも剣を構えたまま記憶の糸をたどるが、どうにも思い出せない。
「ひ、ひどいなぁ……ぼっぼくとの、運命的な、で、出会いだったのに……ま、マリアたんはツンデレか、な。ふふ」
そんな男の言葉に、ナオミは眉間に深い皺を刻み、目の前の男を再確認する。確かに、どこかで見たような気もする。だが、この纏っている澱んだ空気は、以前出会ったはずの男とは全くの別物だった。
「あなた、あの時の?」
「やっぱり、マリアたんは意地悪だなぁ」
男は恍惚とした表情で両手を広げ、喜びを全身で表している。
「さっきからあなたなんですか! ナオミに向かってマリアとか! はっきり言って気持ち悪いです!」
リズがナオミを庇うように一歩前へ出た。その瞬間、男の表情が一変する。まるでゴミを見るかのような冷酷な目で、男はリズを見下ろした。
「合法ロリには興味がないのでありますよ」
男がそう吐き捨てた直後、背後にいた3人の少女が弾かれたように動いた。彼女たちは疾風のごとき速さで、リズに襲いかかる。
「っ……!」
リズはとっさに腕をクロスさせてガードするが、少女たちの身体から放たれる質量を超えた衝撃に、そのまま壁まで吹き飛ばされた。間髪入れずに、少女たちは追撃へと移る。
ナオミもまた、音速の勢いで男へと肉薄する。
「邪魔!」
男の首を刎ねようと、閃光のような一撃を放った瞬間だった。横から槍が飛来し、ナオミの剣を寸前で受け止められた。
「マ、マリアたん、も、もしかしてヤキモチ焼いてるのかい? 大丈夫だよ。み、みんないい子だから、す、すぐ仲良くできるよ。」
男は微動だにせず、ニターッと歪んだ笑みを浮かべている。ナオミは背中に這い上がるような寒気を感じ、バックステップで距離を取った。遠くではリズが少女たちと激しく交戦する音が響いている。
「リズ!」
「大丈夫。今は目の前に集中」
リズは迫りくる攻撃をすんでのところで交わす。そのままがら空きのボディに一撃を食らわせ少女の一人を吹き飛ばす。少女はそのまま糸が切れたように動かなくなる。その間にもリズに向け剣が振り下ろされる。ガンドレットに刃を添わせるようにし軌道を変えて回避する。だが多勢に無勢、相手は連携しての攻撃。リズもさすがに分が悪いようだ。
ナオミもナオミで3人の少女と剣劇の応戦だ。
「あなた達、邪魔!」
剣を横殴りに振る。表情を一つも変えず、人形のように動く少女たち。ナオミも疲れがにじみ出る。
(早く黒剣を助けに行かないと……でも、こいつを倒さないと動けない)
「あなた、気持ちわるい」
ナオミは吐き捨てるように言い、剣を構え直す。
「もう、ほんとマリアたんはツンデレだな……」
男は嬉しそうに、ねっとりと笑みを深める。ナオミは無言のまま、限界を超えた速度で再び切りかかる。それと同時に、残りの3人の少女たちがナオミを抹殺せんと殺到してきた。
意思なき少女たちに対し、ナオミは迷いを断ち切るように、全身全霊の斬撃を振り下ろした。鋼と鋼が火花を散らし、廊下は再び、狂気と殺戮の舞踏会場と化した




