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ネオ・テラ:降下者セトの選択 ―あの日の残業、2000年後の誓い―  作者: totoさけ
侵食する過去と今

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人形たちの舞踏、不気味な足音

オフィスビルの探索は、まるで終わりのない迷路を歩くようなものだ。瀬戸はディアーナからの索敵情報を脳内に受け取りながら、異性物質の反応が濃くなる場所を目指して慎重に歩を進める。それは同時に変異種たちがより凶悪な形態へと進化しつつあることを意味していた。


「また来た」


ナオミが退屈そうに、通路の先から現れた影を見やる。


「この階層はコボルドが多いようですね」


リズが即座に反応し、両腕のガントレットの拳を打ち合わせる。乾いた硬質な音が響き、彼女の身体に闘気がみなぎっている。


『へえ、これがコボルドなんだ……この子はなんの変異種かな?』


ステーション内では、ミアが新たな解析対象の出現に目を輝かせている。その横でエマが『そんなこと言ってる場合ですか!』とたしなめている様子が、瀬戸の脳裏に浮かぶ。


瀬戸は足元の散らばった書類を漁っていた手を止め、うんざりした表情でコボルドの群れを見る。先ほどから探索に集中しようにも、変異種が立て続けに襲い掛かってくる。さすがにこれでは書類の精査どころではない。かといって、ナオミとリズにすべてを押し付けるわけにもいかない。


瀬戸は溜息と共にゆっくりと立ち上がり、黒剣を抜いた。

金属が擦れる音が聞こえたのか、それを合図にしたかのようにコボルドたちが一斉に跳躍する。しかし、彼らの凶爪が瀬戸に届くことはない。閃光のような一太刀が舞い、次の瞬間には彼らの生は終わってしまった。


[ディアーナ:彼女らに気づかれないようにデータはこちらで回収します。]


(頼んだ)


データを待っているであろうミアのためにディアーナが気を使ったようだ。それに甘えるようにディアーナにお願いする。ふと後ろから声がかかった。


「黒剣さん……強いですね」


リズが純粋な感嘆の声を漏らす。横にいたナオミは、なぜか自分が褒められたかのように満足げに頷き、胸を張っている。


「……なんで、お前が偉そうにしてんだよ」


瀬戸が思わず突っ込むと、ナオミは不思議そうに小首を傾げる。


「黒剣強い。どこかで会ったら覚えているはず。でも思い出せない……」


彼女はいつもこの調子だ。瀬戸は深く関わらないのが正解だと悟り、諦めの境地でデスクの上の古びた資料に再び手を伸ばそうとした。


[ディアーナ:艦長、索敵に反応。近くで戦闘を行っているグループがあります]


瀬戸は手を止め、通路の先――戦闘音が響く方向を鋭く見つめた。ナノマシンで強化された聴覚を研ぎ澄ますと、壁の向こうから激しい剣劇の音が微かに聞こえてくる。


「どうされましたか?」


瀬戸の様子が急変したことに気づき、リズが尋ねる。


「ああ……あっちの方向で、誰かが戦っているようだ」


瀬戸が教えると、ナオミとリズは目を見開いて驚いた。ようやく彼女たちにも、空間を伝って届く戦闘の衝撃音が聞こえ始めたらしい。


「すごいね」


ナオミは事態の深刻さよりも、好奇心が勝っているようだ。


「巻き込まれないよう、一度離れますか?」


リズの冷静な提案に、瀬戸は頷く。このオフィスビルは入り組んでおり、不意の遭遇戦は避けたい。六人ほどの人影と、対峙する化け物たちの気配を確認した瀬戸は、音を立てずにその場を離れた。




一方で、彼らが離れた場所では、なおも死闘が繰り広げられていた。

六人の少女たちが、変異種を取り囲んで戦っている。一見すると彼女たちの装いは戦闘にはお世辞にも向いているとは言い難く、手にした武器も剣や弓、槍とバラバラだ。しかし、彼女たちの動きには迷いがなかった。時折、人間の肉体の限界を軽々と超越するような、あり得ない変則的な軌道で化け物を切り刻んでいく。


ただ一つ、決定的に異様なのは、彼女たちの瞳だ。

それは澄んでいるのに、どこまでも空虚でうつろだった。表情は微動だにせず、まるで精巧に作られた人形が、プログラム通りに敵を排除しているようにしか見えない。


「ふっふっふフフフ……今日もぼ、ぼくの恋人たちは、つ、強いんだよね。早く、お、おわらせてマリアたんも恋人にし、してあげなきゃ……」


戦いが終わり、返り血を浴びて静止した少女たちの背後に、黒いフードを深く被った小太りの男がぬらりと現れる。男が近づくと、少女たちは一斉に男の方を向き、従順な家畜のように頭を垂れた。


「みん、みんなも、新しいな、仲間が欲し、いよね」


男の問いかけに、少女たちは無表情のままコクりと頷く。


「ホンマ、きっしょいわ……」


影の中から冷ややかな声が漏れる。男を虫ケラのように見下ろすのは、先ほどまで暗がりに潜んでいた影だ。


「き、気持ち悪くないよ。こ、これはじゅ、純愛なんー」


「それ以上しゃべるんやったら、大事な恋人壊してまうかもよ?」


影は殺気を込め男をにらみつける。さすがの男も影にはかなわないのか、それ以上は口にしない。


「何してもかまへんけど、やることやってからにし」


影が男に冷徹な命令を下す。


「わ、わってるよ」


男は卑屈な笑みを浮かべ、無言の少女たちを引き連れて、影の後に続く。

静まり返ったフロアに、人形たちの引きずる足音だけが、不気味に木霊していた。

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