希望の分解と再構築
『本当か、ディアーナ!』
ゼノをはじめとした歓喜の声がステーションに響き渡った。だが、ディアーナの無機質な声が冷水を差す。
[ディアーナ:――ただし、現状では作成困難です。ステーションの資材は枯渇しており、生体アンドロイドの製造には膨大なエネルギーと資源が必要です。それに、ソフィアをこのステーションまで連れてくることも、今の状況では極めて困難な状況です]
歓喜は一瞬にして重苦しい空気に変わった。だが、瀬戸はすぐに顔を上げた。
「……まったくないわけじゃない。希望はある。今はその可能性を大事にしよう。それにこの作戦が完了すれば、みんなすぐに地球に来れるんだ。楽しみは最後に取っておこう」
「何のお話?」
『ソフィアちゃんがいい子にしてたから、最後にもっといいことがあるよって話よ』
エマが優しく微笑むように話す。その優しさに嬉しそうに「そうなの、やったー」と喜んでいる。ソフィアはまだうまく理解していないようだ。
瀬戸の言葉に皆が頷き決意を固め始めたとき、ディアーナがさらに爆弾を投下した。
[ディアーナ:付け加えます。コアさえ無事であれば、ソフィア以外のスライムも助けられる可能性があります。成功率はソフィアより下がりますが、理論上は可能と判断します]
「ほかのスライムも助けられるのか?」
「……?……みんな元気になれるの……? お友達も、助けられるの?」
ソフィアは助けられるという言葉に反応し、瀬戸に問いかける。
[ディアーナ:そうです。ソフィア、みんなを助けられます。よく頑張りました]
「おねいちゃん、本当! やったー!」
ディアーナが、まるでソフィアに優しく微笑みかけるような口調で応える。
(……ミア、ディアーナなんか変じゃないか?)
『そうかな? いつもこんな感じじゃない?』
瀬戸は眉をひそめるが、今は深く考える時ではないと気を取り直した。
「とにかく。みんなを助けられるかもしれない。だから、まずはみんなのコアを集めに行こう。ソフィアいいかい?」
「みんなの石があれば、いいんだよね。うん、行く!」
ソフィアは嬉しそうにはねていた。
翌日、一行は再度ダンジョンに潜った。マッピングのおかげもあり、迷うことなくソフィアの家へ辿り着く。おもちゃ箱からコアを回収する最中、ソフィアは写真をずっと見つめていた。
「これも持ち出してあげたいな……」
その姿を見て思わず口に出す。
『ですが、外に持ち出すとくずれてしまうとのことでしたよね』
ギーツの言っていた通り、この世界の遺物は外に出れば消えてしまう。瀬戸もそのことを覚えていたため、諦めかけたその時、ディアーナが通信で割って入った。
[ディアーナ:理論を修正します。ダンジョン内の物質は異星物質によって固定されています。大気に触れると物質が溶け出し、劣化して消滅する。ならば、ナノマシンで完全にコーティングを施せば、持ち出しは可能です]
「っ、ディアーナ! 本当か?」
[ディアーナ:可能です。ナノマシンでその写真を固定します。瀬戸、処理を開始してください]
瀬戸はそっと写真を拾い上げ、ナノマシンの光で包み込んだ。写真の端がわずかに輝きを増す。瀬戸はそれを大切にポケットへしまった。しかし、問題は山積していた。
「……さて。子供のおもちゃ箱とはいえ、コアの数は膨大だな。全部カバンに入れたら……明らかに目立ちすぎるし……どうしたもんか……」
「みんな、連れていけないの?」
ソフィアの気落ちした気持ちと連動するようにその体もしぼんでいく。どうしたものかと瀬戸が頭を抱えると、予想外の声が響いた。
[ディアーナ:――おねいちゃんに任せなさい]
「……は?」『……へ?』『……ん?』『……え?』
瀬戸だけでなく、ミアをはじめとしたステーションの面々が顔を合わせて凍りついた。今の、本当にあのディアーナか?
[ディアーナ:……ソフィアの能力を活用します。スライムの分解能力です。分解したい対象をあらかじめソフィアのナノマシンで保護した状態で分解し、別の場所でナノマシンに記憶されたデータをもとに再構築する。……要するに、擬似的なアイテムボックスを構築します]
「なるほど、アイテムボックス……って、そんなこと可能なの!?」
ミアも驚愕する。
[ディアーナ:可能です。]
ラノベではない現実世界。本当に可能なのか不安になってしまう。
『ディちゃん、コアを分解するなんて、魂の情報は大丈夫なの?』
[ディアーナ:解析データ上は90%の確率で安全です。ただし、ナノマシンを移植したソフィアの特殊な構造があってこそ可能な荒業です]
ミアは送られてきた膨大な解析データに没頭した。数分の沈黙の後、ミアが顔を上げる。その表情には、驚きと興奮が混ざっていた。
『……ディちゃん、90%じゃないよ』
「……何?」
『96%だよ。これなら、いける!』
その数字が、停滞していた希望を加速させた。ダンジョンに転がる冷たいコアたちが、いまや救済を待つ尊い命として輝いて見えた。
「よおし……じゃあ、始めるか。ソフィア、みんなを助けに行こう」
「うん! お兄ちゃん、頑張る!」
ソフィアの声に力がこもる。ステーションの冷たいモニター越しに、ディアーナもわずかに光を点滅させている。それは彼女なりの、静かな期待の表明であるように瀬戸には思えた。




