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ネオ・テラ:降下者セトの選択 ―あの日の残業、2000年後の誓い―  作者: totoさけ
2000年前からの来報

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鉄錆の街の晩餐

ギーツとロイに連れられ、瀬戸は街の一角にある宿屋へと向かった。


「悪いな。宿屋まで案内させてしまって。」


瀬戸が二人へそう話すと、ギーツは笑いながら答える。


「これくらいで、あんたがしてくれたことに対してたいした礼にはならないさ。」


「そうそう。セトがバケモン倒してくれなきゃ、今頃こうしてのんきに歩いてらんないよ。」


ロイの明るい声を聞きながら、三人はさらに足を進めた。やがて見えてきたのは、頑丈な造りの宿屋だった。重厚な扉を開けて中へ足を踏み入れると、そこは作業を終えた労働者や傭兵たちで賑わっており、活気ある酒場の空気に満ちていた。


「叔父さーん。お客さんつれてきたよー!」


ロイが店内の喧騒をかき消すほどの大きな声で叫ぶ。どうやら二人の知り合いが営んでいる宿のようだ。

カウンターの中から、熊耳を持つ大柄な男が顔を出した。


「おう。ギーツにロレイヌの嬢ちゃんじゃないか」


「叔父さん。ロレイヌはやめろよな。」


どうやらロイの本名はロレイヌのようだ。だが本人はその名前がどうにも気に入らないらしい。彼はロイやギーツたちの叔父にあたる人物だった。


「ベッツさん。こんばんわ。実は……」


ギーツが今回の事情を説明すると、ベッツは顔をほころばせ、快く宿の提供を申し出てくれた。それどころか「命の恩人を泊めるくらいわけはない、何ならタダでいい!」とまで言い切る大盤振る舞いだったが、さすがにタダでは悪いと瀬戸が丁重に辞退する。


「そうか?なら泊まっている間の食事代だけでもおごらせてくれ。」


ベッツに笑いながら勧められた。あまり断りすぎるのもよろしくないと思い、瀬戸はありがたく受けることにした。


「わかった。じゃあそれでお願いするよ。」


「おう。腕によりをかけてやるぜ!お前らも食ってくよな?」


ベッツがギーツやロイも食事に誘うが、


「すみません。実家にいたとはいえ妻が心配なので」


「俺も隊長に報告しなきゃ。それにまだみんな城門で作業してるかもしんないし一度戻るよ」


ギーツには身重の奥さんが待っているとのことで、ロイも隊長への報告があるといい、二人は足早に去っていった。結局、一人でカウンターに座り、運ばれてくる夕食を待つ。


(地球に降下して、初めての「現地食」か……)


『そうですね。ディアーナの偵察により現地人の食事状況は把握していますが。成分等はまだ未収集でしたので、いい機会かもしれませんね。』


『ねえねえ、せと、どんな風な食事が出てくるのかな? 想像つかないや』


これまではステーションから持ち込んだレーションで飢えをしのいできた。現地の食材には異生物の影響が残っている可能性が高く、摂取は厳禁とされていたからだ。しかし、地道なデータ収集とサンプル分析の成果により、体内で抗体や免疫を生成することに成功した。最悪、体調を崩しても宿がある。瀬戸は意を決して、運ばれてきた皿に手を伸ばした。


フォークを使い、まずは一口。

芳醇な肉の脂が口の中にじわりと広がる。


[ディアーナ:食物情報受信。データ解析。人体への影響は今のところ検知されません。引き続き…]


ディアーナが解析しているが、瀬戸は食事に集中する。単純な味付けだが、驚くほど旨い。ステーションで食べていた効率優先の食糧とは比べ物にならない。自分では意識していなかったが、考えてみればこれは2000年ぶりの「人の手による料理」だ。現代日本の洗練された食には及ばないかもしれないが、腹の底から温まるような美味さがあった。


一口ずつ噛みしめるように食べていると、ベッツの娘であろう、10歳ほどの少女がトコトコと近づいてきた。


「おじちゃん、モンスターを倒してくれてありがとう! これ、お父さんから!」


そう言って、彼女はジョッキを差し出してきた。中身は琥珀色の液体――ビールだ。


「……おじ、ちゃん?」


「おじちゃん」という無邪気な一言にわずかなショックを覚えたが、目の前の飲み物への誘惑が勝った。瀬戸は礼を言ってジョッキを受け取る。しかし、一口飲んで顔をしかめ、すぐにジョッキを置いた。


(ぬるい。)


冷蔵庫のないこの世界では当然のことだが、かつて冷えたビールで一日を締めくくっていた元サラリーマンとしての矜持が許さない。


(ディアーナ、どうにかならないか?)


[ディアーナ:……了解しました。ナノマシンによる物質固有振動の制御を開始します]


ジョッキに手を添えた瞬間、グラス越しに急速な冷却が始まった。霜が薄く張り付き、見るからに美味しそうな黄金色の液体へと変わる。


瀬戸はキンキンに冷えたジョッキをもう一度持ち上げ、思いっきり喉に流し込んだ。


「……っ、これだよ。これだ」


喉越しを通る冷たさと、微かな苦み。一日の終わりは、こうでなくては始まらない。鉄錆の街の夜は更けていくが、瀬戸の中で、2000年の時を超えた「今日」という日が、ようやく本当の意味で終わろうとしていた。

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